AI(人工知能)が普及しても東京一極集中は変わらない

AI(人工知能)が仕事のやり方を大きく変えようとしています。それと共にワークスタイルが変わっていき大都市に集中しているオフィス機能が分散化する。すると現在の東京一極集中の流れが逆回転して、東京から人が流出して衰退していく。このような将来を予想している人がいます。

確かに平日の朝から夕方までオフィスに集まって一緒に仕事をするスタイルは、工場の労働者の労働スタイルが持ち込まれたものであってホワイトカラーの仕事のやり方としては合理的とはいえません。

AIを使えば1人で完結できる仕事の範囲が劇的に広がり、通勤時間を減らして自宅で仕事をした方が生産性が上がる可能性は高いでしょう。

しかし、最近の動きを見ているとむしろ逆の流れになっています。

例えば、東京で働いている人たちも徐々にオフィス勤務の比率を高めています。朝夕のラッシュ時の電車の混雑がそれを象徴しています。地方企業が東京にオフィスを構えるといったケースも見られます。

その理由の1つは日本人の仕事のスタイルにあります。多くの日本企業では仕事の範囲が明確に決められているジョブ型の雇用ではなく、状況に応じて柔軟に業務をこなせるような人材が重用される傾向があります。だから、突出した専門能力を持った人以外は仕事のチャンスを失うリスクのあるリモートワークを選択しないでしょう。

このような日本の会社の仕事の進め方が変わらなければ、リモートで仕事をする人の比率は一定以上には増えないと思います。

また、対面で仕事をするのが前提の医師や看護師、介護職員、保育士、教員、警察官、消防士、トラックやタクシーのドライバー、スーパーの店員といったエッセンシャルワーカーはリモートワークはできませんからAIの普及とは関係ありません。

21世紀に入ってインターネットで情報収集が出来るようになり、アマゾンを使えば何でもネットで手に入るようになりました。生活コストの安い地方に住む人が増えたかというと実際は逆の流れになりました。

リアルに会ってコミュニケーションしないと入手できない情報の価値が逆に高まり、東京への人の集中が加速したのです。

コロナ禍でも同じことが繰り返されました。ズームによるリモートワークが広がり毎日出社する必要のない人が増え、子育て環境などを考慮して郊外に転居する人が増えましたが、最近は再び都心に戻る人が増えています。

今回、AIによるワークスタイルの変化が広がっていったとしても、働き方の変化は結局今までと同じような繰り返しになるのではないでしょうか?

私は東京一極集中が是正されるとすれば、そのきっかけは地震や火山活動のような天災しか無いと思っています。それも激しい被害が無ければ、また何事も無かったかのように忘れてしまい、元に戻ってしまうことでしょう。


編集部より:この記事は「内藤忍の公式ブログ」2025年10月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は内藤忍の公式ブログをご覧ください。

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資産デザイン研究所社長
1964年生まれ。東京大学経済学部卒業後、住友信託銀行に入社。1999年に株式会社マネックス(現マネックス証券株式会社)の創業に参加。同社は、東証一部上場企業となる。その後、マネックス・オルタナティブ・インベストメンツ株式会社代表取締役社長、株式会社マネックス・ユニバーシティ代表取締役社長を経て、2011年クレディ・スイス証券プライベート・バンキング本部ディレクターに就任。2013年、株式会社資産デザイン研究所設立。代表取締役社長に就任。一般社団法人海外資産運用教育協会設立。代表理事に就任。