日本で21日、自民党の高市早苗総裁が日本の政界では初の女性首相に選出されたニュースは欧州でもかなり大きく報道された。ロイターやAFP通信社からの転載が多かったこともあって独自の評価や期待まで言及する記事は少なかったが、記事の共通トーンは「女性初の首相」だ。少し突っ込んだ記事では「安倍晋三元首相の政治を継承した政治家」といった紹介もあった。隣国中国や韓国の警戒心に満ちた記事とは異なり、欧州からのコメントは一般論的な域を超えないのは仕方がないかもしれない。

就任初の記者会見に臨む高市新首相、2025年10月21日、首相官邸公式サイトから
「決断と前進の内閣」をモットーに掲げる高市首相は21日、就任最初の記者会見の中で「トランプ大統領と早期にお会いをして、日米関係を更なる高みに引き上げていきたい。日米関係は、同盟国として、日本の外交・安全保障政策の基軸だ」と述べた。
新首相に就任した高市早苗首相(64)にとって最大の同盟国・米国のトランプ大統領との信頼関係の構築は重要な課題だ。ホワイトハウスからの報道によると、トランプ米大統領は27~29日の日程で来日し、日米首脳会談を28日に開く方向で調整しているという。
ところで、ドイツ民間放送ニュース専門局NTVは21日、イタリアのジョルジャ・メロー二首相(48)とトランプ米大統領の関係について報道していた(22日はメロー二氏の48歳の誕生日)。高市新首相にとって、メロー二首相がどのようにしてトランプ氏の信頼を勝ち取ったかを検証することも無駄ではないだろう。
ミラノ発でNTVのアッファティカーティ記者は「トランプ氏はメロー二に夢中」という見出しで、「ワシントンとローマの関係はかつてないほど調和がとれている。その理由は、トランプ米大統領がイタリアのメローニ首相を高く評価しているからだ。トランプ氏はメローニ首相に惚れているようだ。ただの憧れではなく、まさに真の憧れだ。最近、彼は自身のプラットフォーム『TruthSocial』で、メローニ首相の自伝は必読だと述べていた」と書いている。
先進7カ国(G7)や様々な国際会議での記念写真の撮影では、メロー二氏はトランプ氏の傍に立ち、トランプ氏がメロー二氏に話しかけるシーンを良く目撃した。トランプ氏は、メロー二氏が2019年からトレードマークとしている「私はジョルジャ、私は女性、私は母、そして私はクリスチャン」というフレーズを使った動画も投稿しているほどの惚れ込み、というのだ。
トランプ氏がメロー二氏に特別の感情を抱く背景は、メロー二氏がトランプ氏の政策に忠実だからだ。例えば、イスラエル政策だ。欧州のほとんどの国がイスラエルを批判し、パレスチナの国家承認に傾いているなか、イタリアはパレスチナの国家承認をしていない。メロー二首相と好対照は、イスラエル批判を繰り返すスペインのペドロ・サンチェス首相(社会労働党党首)だろう。トランプ氏はスペインに対して高関税で脅迫している、といった具合だ。
ガザ地区で多くのパレスチナの民間人が犠牲となっているが、メロー二氏はイスラエルのベンヤミン・ネタニヤフ首相批判を控えていた。どうしてもイスラエルの軍事攻撃を批判しなければならない時は、メロー二氏は自分からイスラエル批判をせず、アントニオ・タヤーニ外相に任せている。
メロー二氏にも勇み足がある。トランプ氏との友好関係をいいことに、米国と有利な関税協定を単独で締結しようとしたことが暴露され、EUのブリュッセルばかりか、イタリアの野党からも批判されている。
アッファティカーティ記者は「野党からの批判は政治の常だが、メロー二氏の言動に最も鋭い批判を投げかけているのは右派陣営だ」という。メローニ氏の「イタリアの同胞」から分離した右派政党「インディペンデンツァ」のマッシモ・アルレキーノ氏は、インタビューの中でメロー二氏を「反逆罪」と告発している。アルレキーノ氏によれば、メローニ氏は「イタリア社会運動」の前身である「青年戦線」の青年組織「フロンテ・デッラ・ジョヴェントゥ」で政治活動を始め、そこで「反帝国主義、反米」を掲げ、「民族の自決権のために戦ったではないか」というのだ。そのメロー二氏が今、米国やイスラエルの立場を盲目的に信じているという不満だろう。
いずれにしても、政権発足時、メロー二氏は欧州諸国から「権力の座についたファシスト」、「極右」といったレッテルを貼られ続けたが、トランプ米大統領と最強の同盟関係を築いてきた。イタリアでは戦後から短期政権が常だったが、メロー二政権は22日で3年目に入った。注目に値する女性政治家だ。
高市新首相が尊敬し、目標としている政治家はマーガレット・サッチャー英元首相(在任1979~1990年)といわれるが、高市新首相が「イタリア初の女性首相」メロー二氏からどのような教訓をくみ取り、今後の政策に役立てるか、興味深いところだ。

高市早苗首相(自民党HP)とメローニ伊首相(Wikipedia)
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年10月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






