【ネタバレ注意】「秒速5センチメートル」の世界を巡ってみた:東京・栃木編

「ねぇ、秒速5センチなんだって。桜の花の落ちるスピード。秒速5センチメートル。」

2007年に公開された新海誠さんの出世作として知られる「秒速5センチメートル」の印象的なフレーズです。

お互いに転勤族のもとで育った幼い少年と少女の淡い恋物語とその後のすれ違っていく想いを描いた名作して知られています。多くの人たちの涙を誘ったこの作品が今、松村北斗さん、高畑充希さんらの主演で映画化され、公開中です。

劇場用実写映画『秒速5センチメートル』
新海誠不朽の名作にして新海ワールドの原点『秒速5センチメートル』初の実写化。主演:松村北斗 大ヒット上映中

アニメーションの「秒速5センチメートル」は3作の短編映画で構成される作品で、3作の第1作「桜花抄」では小学校4年生のときに転校してきた明里が、高樹と出会いその後心を通わせる関係となってその後また明里の転校で離別するまでのストーリーを描いています。

そして、高樹もまた種子島に転校することになって本当にもう2度と会えなくなると思った高樹が、栃木に転校していった明里のもとに訪ねていきます。

東京・小田急線の参宮橋駅にきました。新海誠さんの作品は実際にある場所をリアルに描くことで知られていて聖地巡礼がしやすいのですが、明里と高樹が共に過ごした場所はここを舞台として描かれています。今回は2人が心を通わせることになった場所を起点に、秒速5センチメートルの世界をたどってみることにします。

参宮橋駅から少し登ったところにある参宮橋公園。2人が毎日一緒に帰った通学路です。

桜の時期にはこんなに美しい景色。桜の時期にまた来てみたいですね。明里はここで桜の花びらが落ちるスピードの話をします。ゆっくりと、でも確実に終わりへと進んでいく2人の時間。散り行く桜はそれを暗示していたのかもしれません。

参宮橋駅のすぐ西にある参宮橋第一踏切。足早に駆けていった明里を追いかけるものの高樹は踏切に遮られ線路の向こうの明里と離れ離れになってしまいます。

「来年もまた一緒に桜見れるといいね」

線路の向こうから明里に願いを込めて話されますが、明里が栃木に引っ越すことで2人が一緒に桜をみることはもうありませんでした。

6年生の春、引越しが決まった明里が「泣きながら電話をする公衆電話。参宮橋駅近くの首都高速新宿線のガード下にあります。引越しをすることは親の事情で明里が悪いわけではありませんが、明里は高樹に健気に「ごめんね」と謝ります。一緒に桜を見ようと約束したことが果たせなかったお詫びの気持ちもあったのかもしれません。

このとき高樹は気持ちの整理がつかず「わかった、もういいよ、もういい」と突き放すような言葉しか言えませんでした。

日高屋があった場所に2人が行ったマクドナルドがあったはずなんですが、なくなっていました。

明里が栃木に引っ越してからも文通をしていた2人でしたが、1年後、高樹が種子島に転校することになります。中学1年生の2人にとっては東京と栃木でさえも遠いと思っていたのに種子島に行くことになれば絶望的に遠い。とうとう高樹は一念発起して明里の住む栃木に向かうことにします。

3月4日の放課後、最寄り駅(豪徳寺駅)を出れば18:30には明里の住む最寄り駅、JR両毛線の岩舟駅に着きます。2時間半の鉄道の旅。大人にとってはなんてことないですが旅慣れない中一の子にとっては大旅行でしょう。恋する彼女に会いに行く楽しみよりは、切羽詰まった気持ちの方が大きかったのではないでしょうか。

映画の中では新宿駅で埼京線に乗り換え、さらに武蔵浦和で乗り換えて大宮に向かっていましたが、今は湘南新宿ラインができたのでより早く移動することができるようになりました。鉄ヲタはついこういうところを解説したくなってしまいます。

大宮から東北本線に乗って栃木県の小山へ。わたしはスムーズに行けましたが、映画では春の季節外れの大雪で電車は遅れに遅れ、明里との約束の19:00は過ぎてしまいます。

小山駅の両毛線ホーム。ホームの隅にあるこの自販機で飲み物を買おうと財布を出そうとしたとき、明里宛にしたためた手紙を落とし風に飛ばされてしまいます。互いの引越しで離れ離れになってしまううえに、会いに行こうと思えば雪に邪魔され、挙句の果てに手紙まで失う。高樹は前世で何か悪いことをしでかしていたのか、そう思ってしまうくらい試練を与えられます。

両毛線内でも2時間雪で進めない電車の中に閉じ込められ、高樹が岩舟駅に着いたのは23時過ぎ。通常のダイヤに比べて5時間遅れての到着でした。

それでも明里は眠りながらも待合室で待っていてくれました。アニメ公開時からは駅が改装され、ベンチはプラスチック製のものから木製のロングシートに変わっていて、無人駅になってしまっているなど駅の面影は映画公開時とは違うものになっていますが、苦難の末、ここで2人が1年ぶりに再会を果たしたのだと思うと感慨深いものがあります。

何人かの映画ファンの方がいて、同様に写真を撮られていました。よく、映画の舞台になった駅にはこれでもかと映画のポスターや、駅ノートなんかが置かれていたりするのですが、岩舟駅にはそういったものは一切置かれていません。

雪の中、二人が歩いた夜道。

岩舟駅を出た2人は雪の中、明里の家の近くにあるという大きな桜の木を観に行きます。残念ながら実際の岩舟にはそのような桜の木はありませんのでこれはフィクションです。

※ 実際に見送った場所とはポイントが異なります。

2人は畑の納屋で1夜を明かし、明里は翌朝岩舟駅で高樹を見送ります。ここで別れて以降、2人は会うことはなく、それぞれの人生を歩んでいくことになります。高樹は明里を心のどこかで思い続けたまま大人になっていく一方、明里は高樹と過ごしたころの習慣が体に染みついたままではあるものの新たな出会いを見つけていきます。

大人になった二人は参宮橋第一踏切ですれ違います。お互い何かに気づいたようですが、高樹が振り返ると電車に遮られ向こうは見えず、過ぎ去ったあとには明里はもういませんでした。高樹も何かを振り切ったかのように前に進んでいきます。

奇跡的な再会があって、そこから再び愛をはぐくんでいく、というハッピーな映画ではなく、現実の厳しさを思い知らされます。ただそこにリアルさがあって共感する人たちが多いのではないかと思いました。

小中学生の頃の初恋は多くの場合は実らず、別れを経験することになります。ただ人は過去に人に好かれたことを自信にして成長につなげていくのだと思います。2人の過ごした時間はかけがえのない時間で、これからお互いの成長の糧にしていくのでしょう。

岩舟駅からの帰り、小山駅から新幹線で酒を飲みながら帰京しました。大人なもので。

大人になったら東京と栃木は遠距離恋愛ともいえない距離。約束の時間に遅れそうでもスマホで連絡も取り合える。感動が薄れますねぇ…


編集部より:この記事はトラベルライターのミヤコカエデ氏のnote 2025年11月1日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はミヤコカエデ氏のnoteをご覧ください。