黒坂岳央です。
今、アメリカでは「専業主婦の復権」を訴える女性たちが注目を集めている。そんな記事が話題を呼んでいる。
米国で「従順な専業主婦」願望、仕事と家事両立に疲れ伝統回帰https://t.co/oI0coI3jeb
— 日本経済新聞 電子版(日経電子版) (@nikkei) November 9, 2025
SNS上では、家事や子育ての「充実した日常」を紹介し、女性の活躍の場は家庭にあると主張する「トラッドワイフ運動」が台頭しているのだ。女性の社会進出が進んだ米国で、なぜこのような伝統的な生き方への回帰が起きているのだろうか。そしてこのムーブメントは、近い将来日本でも起きる可能性がある。
筆者は日中は仕事に従事しているが、夕方以降は育児にまつわる家事のほぼすべてを担当している。料理、買い物、学校への送り出し、宿題と勉強のフォロー、掃除などだ。夕方以降は仕事を止め、家事・育児に100%コミットしているため、その生活スタイルは実質的に専業主婦のような立場といえる。料理はほぼすべて手作りで出汁も昆布や煮干しから自分で取り、栄養バランスも意識している。
自分自身の育児経験から本テーマについて持論を展開したい。

gradyreese/iStock
令和のアメリカ人が専業主婦を目指す理由
令和のアメリカ人が専業主婦を目指す背景にあるのは、多くの日本のワーキングマザーが直面している課題と同様、「仕事と家事・育児の両立疲れ」にある。
米国では高賃金であるが、苛烈な競争社会の中でキャリアを追求し、さらに家庭生活を完璧に維持することのハードルは極めて高い。一部の「超人」が実現する華やかな両立生活は、大多数の一般人にとっては大きなハードルだ。
筆者が会社員をしていた頃、同僚のアメリカ人女性は、出産後、「一日でも戻るのが遅れると積み上げたキャリアが崩れる」という理由で、あまりに早く職場復帰したので驚いたことがある。このように仕事熱心な人ほど、育児よりキャリアを優先せざるを得ない構造がある。
つまり、「仕事でキャリアを築く」という外的な成功から、「家庭で充実した日常を送る」という内的な成功へ価値観がシフトしつつあるのだろう。
子供が小さい内は一緒に過ごしたい
実際に育児をするとわかることは、「子供が小さい頃は一緒に過ごしたい」と強く感じることだ。
子供は赤ちゃんの頃から変化が著しく、昨日できなかったことが今日いきなりできるようになる。「つかまり立ちをするようになったので、口に入るものはもうこの机にはおけない」といった小さな変化が毎日起きる。この限られた著しい変化の連続をしっかり見届けたいという親の願望は強い。
さらに心理学的に見ても、小さい頃の親の影響の強さはあまりにも図りしれない。この遅れを後から取り戻すことは不可能なものもある。子供の健全な成長には、食事だけでなく、親からの愛情も不可欠である。この時期に愛情不足で育つと、大人になってから異常な承認欲求に狂ってしまうなど問題行動が起きる。そのような心の問題は修復が困難な場合が少なくないのだ。
そのため、経済的合理性を優先すれば共働きを選択すべきかもしれないが、育児の観点のみで言えば、できるだけ子供といっしょにいる時間を増やしたいというのが親の切実な願いである。
そしてここまでは理想の話で、ここからは難しい現実的な話だ。この願望は現代の経済状況においてあまりに厳しい。夫の稼ぎだけでインフレ社会を乗り切るには、かなりの高収入が必要となる。結果、多くの家庭が経済的な理由から共働きを選択せざるを得ず、子育ての質と経済的安定という二律背反する課題に直面しているのである。
リモートワークが鍵
育児は大事だが、仕事も生きていくために重要だ。どうすればいいか?
筆者が考える答えの1つが「リモートワーカー」である。これこそが、経済的自立を保ちながら育児への高いコミットメントを可能にする、現代における「新しい専業主婦」像の実現を可能にすると考える。
ここで「リモートワークの合間に仕事などパフォーマンスが落ちるのではないか」という反論が当然ながら浮上する。しかし、筆者の経験はこれを強く否定する。
筆者は記事執筆、YouTube発信、商業出版、法人での仕事といったパラレルキャリアで仕事をしているが、それでパフォーマンスが落ちるという感覚はない。
むしろ、8時間連続でオフィスに拘束されるよりも、隙間時間や限られた時間の中で集中してタスクを片付ける方が、高いパフォーマンスを発揮できるという実感がある。自分の場合、夕方16時からはビジネスマンからパパへジョブチェンジしなければならず、それまでに緊急の仕事をすべて片付けなければならない制約があるので、仕事への高い集中力を生むのだ。
女性がリモートワーカーになることができれば、実質的に専業主婦に近いスタイルも可能になる。子供が家にいるといっても24時間監視が必要なわけではなく、お昼寝タイムや一人遊びの時間が増えるにつれて、効率的に仕事を組み込むことができる。往復の通勤時間も不要なため、その分の時間を子供との時間に充てることが可能となる。
この働き方は、経済的な自立を保ちながら、育児への高いコミットメントを現実的に可能にする手段である。
◇
「リモート・パラレルワーカー」という新しい専業主婦像は、単なる個人の幸福論に留まらない。現在はグローバル規模で子供を増やさねば国家の維持が出来ないという危機の瀬戸際にある。
女性が「出産、母性、子育て」という、代替不可能な社会的役割に注力できる環境を整えることは、もはや個人の選択の範疇を超え、国家的な課題解決のインフラ整備そのものである。
■
2025年10月、全国の書店やAmazonで最新刊絶賛発売中!
「なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)







