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また探してる……
「あの書類、どこ?」
朝からまた探し物だ。5分、10分、15分。見つからない。イライラするというより、もう呆れる。自分に。
『人生がきらめく スモールフィット片づけ~ペン1本から始める部屋と心が整う習慣』(阿部静子 著)アルソス
「片づけ」って、何のため?
部屋が散らかっているだけで——いや、「だけで」じゃない。部屋が散らかっているということは、私の人生そのものが散らかっているということだった。少なくとも、当時はそう感じていた。
フリーアナウンサーとして、テレビで笑顔を作る。視聴者からは「素敵ですね」なんて言われる。でも家に帰れば、床に散乱した服の山。開けっぱなしのクローゼット。どこに何があるかわからない状態。
このギャップが、じわじわと自己肯定感を削っていく。
「こんな私、誰にも見せられない」
で、今は片づけ講座の講師をやっている。笑える話だ。片づけられなかった人間が、片づけを教えている。
最初は正直、「私なんかが」と思った。でも講座を始めてわかったことがある。片づけられない人って、怠けてるわけじゃない。むしろ真面目すぎる。
「片づけなきゃ」「ちゃんとしなきゃ」——そう思ってるから、余計に動けなくなる。私が講座で最初に聞くのは、こういうことだ。
「片づいた空間で、何がしたいですか?」
すると、みんな固まる。「え?」みたいな顔をする。そりゃそうだ。片づけって、「散らかったものを元に戻す作業」だと思ってるから。義務。やらなきゃいけないこと。楽しいわけがない。
目をキラキラさせる瞬間
でも、過去の参加者の話をすると、雰囲気が変わる。
「片づいたら家に人を招きたい」「フラワーアレンジの作品が映える部屋にしたい」「家族でゆっくり団らんしたい」——こういう声を聞いた途端、みんな目をキラキラさせ始めるのだ。
「床を片づけてヨガマットを敷きたい」(あ、それいいね)
「本当はインテリアが好きで、センスの良い部屋にしたい」(わかる)
「資格を取って新しいことに挑戦したい」(おお!)
具体的な「やりたいこと」が見えた瞬間、片づけは苦行じゃなくなる。ワクワクする未来への第一歩になる。封印していた、本当の気持ち。
「自分、本当はこれがしたかったんだ……」
「片づいてないからできないって、ずっと言い訳してた。本当の気持ちにフタをしてた」
これ、すごくわかる。
散らかった部屋って、単に物が多いだけの問題じゃない。それは「人生を先延ばしにしている証拠」でもある。
やりたいことがある。でも、「まずは片づけが先でしょ」って自分に言い聞かせる。で、片づけはできない。結局、何も始まらない。
ホテルみたいな部屋という夢
娘が幼稚園に入って、少し時間ができた。「新しいこと始めようかな」って思う。でも家を見ると、散らかってる。
「まずは片づけが先でしょ」
そう思って、でも片づけられない。
「ああ、私ってダメだな」
そんな日々から抜け出せたのは、「ホテルみたいな部屋で暮らしたい」って夢を描いたからだ。片づけは、手段だった。理想の自分に近づくための。
結局、何が言いたいかというと片づけられない人って、「片づけ方」がわからないんじゃない。「何のために片づけるか」が見えてないだけ。
あなたは、どんな暮らしがしたい?
その答えが、全ての始まり。でも少なくとも、私はこれで変われた。
※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムの形で編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)








