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「私、昔から頑張り屋って言われるんです」
またこの言葉か、と思う。診察室で、患者さんがよくこう言う。誇らしげに。まるで勲章みたい
「まわりから頼りにされると断れなくて」
「がんにならない生き方:小さな習慣が人生に奇跡を起こす」(田中良基 著)きずな出版
手遅れになる前に
ああ、そうですか。で、今日は何の検査でしたっけ?
というわけにもいかないから、「そうなんですね」と相槌を打つ。でも内心では、もう結果が読めている。
案の定、ポリープが見つかる。あるいは、初期のがん。
「まさか自分が」と驚く顔。これも見慣れている。何度目だろう。まさか、じゃないんだよ。あなたみたいな人こそ、危ないんだ(言わないけど。言えないけど。でも、言いたい)。
50代、60代の女性は、特に危ない。家庭も仕事も介護も、全部背負ってる。子どもの心配もする。親の心配もする。夫の(使えない)夫の世話もする。
そして最後に、自分のことは後回し。
「私が頑張らなきゃ」——この言葉が、あなたを殺しにかかってる。言い過ぎか? いや、言い過ぎじゃない。つい先月、こんな患者さんがいた。
62歳の女性。夫の介護をしながら、パートで働いて、孫の面倒も見て。で、胃がんステージ2。
「いつから痛かったんですか?」と聞いたら、「半年くらい前から、でも我慢できる程度だったので」。
我慢できる程度。我慢できる程度、ね。我慢できなくなったときには、もう遅いんだよ。そういうケース、何人見てきたと思ってる。
頑張り屋さんが抱えてるリスク、教えてやる。
- 疲れてても、「まだ大丈夫」とやり過ごす
- 助けてほしくても、「迷惑かけたくない」と我慢する
- 体調悪くても、「休んでられない」と自分を追い込む
で、結果どうなるか。
自律神経が乱れる。免疫が落ちる。がん細胞が育つ。メカニズムはシンプルだ。でも、止められない。なぜなら、あなたは「頑張り屋」だから。
危険な兆候とは
こんな症状、出てないか?
- 朝から疲れてる
- 食欲ないのに無理に食べてる
- 眠れない、眠っても疲れが取れない
- イライラが止まらない
- 何も楽しくない
- 「私なんて」が口癖になってる
一つでも当てはまったら、赤信号。いや、もう黄色通り越してるかもしれない。でも、あなたは気づかない。いや、気づいてても無視する。
「元気そうに見える人」ほど、このサイン見落とす。というか、見ないようにしてる。見たら、止まらなきゃいけなくなるから。私は患者さんに、いつもこう言う。
「頑張ることは大事。でも、頑張り続けないことも、同じくらい大事ですよ」
優等生的な答えだ。自分でもそう思う。でも本音を言えば、もっと直接的に言いたい。
「あなたが倒れたら、誰が困ると思ってるんですか?」
「あなたが支えてる人たち全員ですよ。だから、倒れる前に休んでください」
まあ、こんな言い方したら、患者さん来なくなるだろうけど。あなたの頑張りは、誰かの支えになってる。それは間違いない。でも、あなたが倒れたら? その誰かは、どうなる? 支え続けるためには、まず自分が立ってなきゃいけない。当たり前の話だ。
「今日は少し手を抜こう」
「人に頼ってもいいや」
「深呼吸して、休もう」
そしてあなたが守ってる人を守るための、戦略。わかったら、今すぐ休め。この記事読み終わったら、10分でいいから横になれ。それが、がんを遠ざける第一歩だ。
※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムの形で編集し直しています。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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22冊目の本を出版しました。
「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)








