【映画評】ディアスポリス DIRTY YELLOW BOYS

ディアスポリス2

東京で暮らす密入国外国人を守る警察組織ディアスポリス。久保塚早紀は、そんな異邦警察の裏都庁の警察組織で働くただ一人のケーサツで国籍不詳の謎の男。ある時、裏都民のマリアが誘拐・監禁される事件が発生し、久保塚が監禁先を見つけ駆けつけるが、その時マリアはすでに命を絶たれていた。犯人は、アジア人犯罪組織「ダーティイエローボーイズ」の周と林。久保塚は、ヤクザの若頭・伊佐久から情報を得て相棒の鈴木と共に、逃走した二人を追うが、そこには二人の情報を握っている地下教会の存在があった…。

ディアスポリス4リチャード・ウーとすぎむらしんいちによるコミックを原作とするアクションドラマの劇場版「ディアスポリス DIRTY YELLOW BOYS」。主人公の久保塚早紀は、国籍、年齢などいっさい不詳の異色ヒーローだ。密入国の不法労働者たちの裏社会で秩序を守る異邦警察の彼は、特別な武器や最先端のハイテク機器などは使用しない。情報と己の肉体、それから彼が守る密入国者たちとの信頼関係が武器である。

風俗嬢のマリアを殺害して逃げた中国人・周と林は、アジア人犯罪組織「ダーティイエローボーイズ」の一員だが、彼らに計画性や秩序だった考えはまったくない。「撃っちまえ」と短絡的に叫ぶ周は、とりわけ暴力や死に憑りつかれているとしか言いようがないクレージーな青年だ。彼らは母国の中国で禁じられた宗教を信じたというだけで、迫害された過去がある。世間や国家、権力への恨みが、無軌道な犯罪に走らせているのだろう。

ディアスポリス5物語の舞台は、東京から名古屋、大阪、神戸へ。逃避行を続ける二人を追う久保塚と鈴木もまた、西へ西へと車を走らせるというロードムービーの形をとっている。劇場版ということでスケールアップを狙ったのだろうが、せっかく裏都庁、東京の密入国者を守るという魅力的な背景があるのに、なぜ久保塚の主戦場である東京を舞台にしたストーリーじゃないのか不思議でならない。

だが全国にある犯罪組織の「ダーティイエローボーイズ」の支部を次々に襲撃しながら、これまた全国にある地下教会で次々に懺悔しては殺戮を繰り返す周と林の“道行”は、刹那的で死を予感させ、異様な迫力を醸し出している。幼い頃に受けた理不尽な暴力と差別に、何も信じられなくなった周の、濁った片目が印象的だった。この周を演じるのが、可愛らしい笑顔が魅力の子役出身の須賀健太。こんなぶっ飛んだ役もやれるとは。この俳優、案外面白い役者になるかもしれない。
【60点】
(原題「ディアスポリス -DIRTY YELLOW BOYS-」)
(日本/熊切和嘉監督/松田翔太、浜野謙太、須賀健太、他)
(バイオレンス度:★★★★☆)


編集部より:この記事は、映画ライター渡まち子氏のブログ「映画通信シネマッシモ☆映画ライター渡まち子の映画評」2016年9月3日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方はこちらをご覧ください。