「赤字は罪」。
ニデックのグローバルグループ代表永守重信氏は厳しく断じてきた。自社に対してはさらに厳しい。
「営業利益率10%以下は『赤字』と同じ」
営業利益率が8%なら△2%の赤字。これが永守氏の自社事業に対する評価基準である。
その永守氏が率いてきたニデックは、今や見る影もない。営業利益率は、速報値で「9.6%」、訂正値で「△4.1%(営業赤字 ※)」。永守基準で言えば、速報値は赤字、訂正値は「△14.1%」の大赤字だ。大きく影響したのは、追加計上された855億円の「減損損失等」である。詳細額は第三者委員会の報告を待つが、不適切会計の補正が含まれているはずだ。
※ 25年度第1四半期
速報値(7月24日):9.6% 営業利益:615億円、
訂正値(11月14日):マイナス4.1% 営業利益(損失)△264億円
決算会見で現CEO岸田氏は不適切会計の要因として「社風」を挙げた。今後は、基本精神である「すぐやる 必ずやる 出来るまでやる」に倫理感を付加していくという。
その「基本精神」を浸透させるべく、これまでニデックが用いてきた手法は型破りなものばかり。いくつか例を挙げてみよう。まず採用方法からだ。

ニデック公式サイトより
すぐやる
採用試験においてもニデック(日本電産)は型破りだった。「早食い」で合否を決めたこともある。食べにくい弁当を用意し、15分以内に食べ終えた学生だけを採用したのだ。子どもの給食早食い競争? を彷彿させる採用基準だが、一応の理屈が付け加えられている。
「早飯の人は仕事も早い傾向がある」
「競争社会を生き抜くためには、物事を早く処理できるということが重要なポイントだ」
「食事が早いということは健康な証拠でもある。胃腸が丈夫でなければ早飯には耐えられない。いくら頭がよくても、しょっちゅう病気で休まれては戦力にならない」
(『成しとげる力』永守重信/著 サンマーク出版)
「突っ込みどころ満載」。そう言いたくなる方も多いのではないか。
永守氏は、「『早飯』『早便』『早風呂』だった奴が戦争で活躍した」という義父の助言を参考に、この方法を考案したという。「2021年」出版という新しめの著書に、このような古めかしい理屈を記述することには驚きを禁じ得ない。
必ずやる・出来るまでやる
社内の教育はさらに厳しい。
1973年ニデック(日本電産)創業当時の売り文句はこうだった。「競争相手の半分の納期で仕事をします」。「どんなものでも試作します」。当然、無茶な発注が舞い込む。技術部隊が音を上げると、永守氏はこのように叱咤する。
「大声でできると百回言ってみい」。
(できる、できる、できる、できる……)。
「どや、できる気になったやろ。できると思えばできるんや」。
できなかったらどうなるか
もしできなかったら激しい叱咤が待っている。その叱り方も尋常ではない。
「人の前で恥をかかせて、褒めるときは個別に褒める」
永守氏はこのように語る。「恥をかかせないよう、人前では叱らない」のではなく、「皆の前で大声で叱る」。この方が、よほど効果的であり、最終的にはうまくいくという。その「教育」が、公衆の面前にさらされたのが22年6月の株主総会である。
公衆の面前で叱咤する
22年4月、永守氏は、後継者と目されていた関潤氏を、CEOからCOOに降格させ、自身がCEOに復帰した。氏は、同年6月の株主総会会見で、関氏について以下のように語った。
「そろそろ引退させてほしいと思っていたら業績が悪くなって株が下がった」
「業績が上がらん人を後継にするわけにはいかんから」
「(関氏)が逃げない限り育つやろ」
会見の場で、後継者を批判するとは前代未聞だ。これに対し関氏は
「ここで逃げたら何のために来たのかわからない」
と(苦笑しながら)返すのが精一杯だった。61歳、日産の副COOまで務めた人物にとって、さぞ屈辱的な出来事だったに違いない。
結局、この手法は「うまく」はいかなかった。関氏は、同年9月にニデックを去り、翌23年1月には鴻海(ホンハイ)精密工業の最高戦略責任者(CSO)に就任している。
当時について、関氏は「勉強させてもらった。標高4000メートルの高地トレーニングのようだった」と述べている。因みに、標高2000~4000メートルの高地トレーニングは、通常の2~4倍苦しいと言われる。関氏の「勉強」という言葉を額面通りに受け取る人はいまい。
関氏に代わり、社長兼最高執行責任者(COO)に就任したのは、創業メンバーで副会長の小部博志氏だった。自他ともに永守氏の「子分」として認める人物である。
永守氏は、後継者候補をニデック社内から選んだことについて以下のように語っている。
「どれだけ罵倒されても喜んで昼夜働く。そういう厳しい教育を受けて上がってきた人材しか(ニデックには)いないから(後継者として)ふさわしい」
「外部から後継者、失敗」日本電産・永守氏 続くリスク – 産経ニュース
「私が幹部を怒鳴りつけると、『私も早く怒鳴りつけてほしい』と思う社員がいる。社員じゃなくてみんな子分だ」
日本電産、永守会長「社外にいい後継者がいると錯覚」|日本経済新聞
早食い、罵倒、親分・子分。醸成された「社風」とはどのようなものなのか。少なくとも近代的ではあるまい。
市場に叱られたニデック
ニデックの株価は、25年10月28日にストップ安となり、社債の発行体格付けは10月29日にA3からBaa1へ、11月21日にはBaa3まで格下げされた(ムーディーズ・ジャパン)。
今、ニデックは株式・債券両市場から「怒鳴りつけられている」状態だ。叱咤を糧に改革できるだろうか。50年かけて醸成された社風の近代化は、決して簡単ではない。
【参考】
『日本電産永守イズムの挑戦』日本経済新聞社編
『永守流経営とお金の原則』永守重信/著
『成しとげる力』永守重信/著
『人生をひらく』永守 重信/著






