ビジネスマンは一度でもキレたら終わり

黒坂岳央です。

「一回でも人前でキレたら退場」

これは単なる精神論ではない。現代社会における、冷徹な事実である。

どれだけ過去に実績があろうと、どれだけ正論であっても、たった一度、感情を爆発させて怒鳴り散らした瞬間、基本的にその人間関係は終わるし、それが仕事関係ならなおさらそうだ。

「人間、誰しも腹が立つこともある」確かにそのとおりなのだが、キレるのは違う。それは明確に超えてはいけないラインだ。キレるという行為は単に一時的に怒りを感じている、で終わらない。持論を述べたい。

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キレられた側は二度と忘れない

なぜ、たった一回でもキレたら終わりなのか。

激昂され、怒鳴られた側は、時間が経ってその場の空気が鎮静化した後も、恐怖を忘れることはない。「この人はまたキレるかもしれない」という疑念は、脳の扁桃体に深く刻み込まれ、一生消えることはないのだ。

ビジネスにおける信頼関係とは、長い時間をかけて積み上げるストック資産だ。しかし、キレるという行為は、その資産を一瞬でゼロにするどころか、マイナス(負債)へと転落させる。 以前のようなフラットな関係には二度と戻れない。

キレた後は周囲はどこか腫れ物に触るように接し、重要な情報は入らなくなり、人は離れていく。それは実質的な「退場」である。株式市場でいえば、上場廃止になるようなものだ。

筆者は自分がキレるのではなく、相手からキレられる側なのだが、一度でも爆発されるとその後、表面的には普通に接していてもキレられた記憶は忘れることはない。「二度と忘れるものか!」などと思っているのではない。むしろ風化させたいが、そうならないのだ。

怒る人は計算してキレている

「ついカッとなってしまった」「我慢の限界だった」「怒らせる方が悪い」と弁解する人がいる。しかし、それは間違いだ。

なぜそう言えるか? 怒る人は意外と冷静に相手を見ていて、もし目の前の相手が、強面の暴力団員だったとしても、同じようにキレて怒鳴り散らすことはない。そんなことは彼らも絶対にしないはずだ。どれだけ理不尽なことを言われても、命の危険を感じて、ぐっと堪えるか、丁寧な言葉を選ぶはずである。

つまり、キレる人は「こいつなら反撃してこない」「こいつなら安全にサンドバッグにできる」と、相手を見て選んでいるのだ。無意識下でリスク計算をし、自分より立場が弱い人間や、言い返してこない人間を選んで、ストレスを発散しているに過ぎない。

周囲の人間は、その怒りの内容ではなく、裏にある「相手を選んで攻撃する卑怯さ」と「自己保身の計算高さ」を敏感に見抜く。だから軽蔑されるのだ。人前でキレるのは、強いからではない。逆に自分より立場が弱い人を選んでいるので弱いと言える。

キレるとIQが下がる

能力的な観点からも、キレるメリットは皆無だ。

怒りを感じている時、人のIQは一時的に20近く低下するという研究結果もある。そうなるともはやチンパンジーに近い知能レベルに落ち込み、高度なビジネス判断などできるはずがない。

そもそも、ビジネスにおいて声を荒らげるのは「言葉で相手を動かすことを諦めた」という敗北宣言だ。論理的な説得、交渉、仕組み化、あるいは北風と太陽のような心理的アプローチ。そういった「手札」が尽き、「もう怒鳴るしかやることがありません」と白旗を上げているのと同義である。

理性が飛ぶまで感情に支配されるのは、プロとして解決策の引き出しが少ないことを恥じるべき事態なのだ。

舐められにキレで返すのは悪手

「いやいや相手がナメてくるなら、時には怒って威嚇することも必要だ。そうしないと付け込まれる」と考える人もいるだろう。確かに、理不尽な要求や無礼な態度に対して、時には毅然と戦うことは必要だ。

だが、その手段として「激昂」を選ぶのはやはり愚策だ。 ナメてくるような相手に対して、顔を真っ赤にして怒鳴り散らしても、相手は「効いている」と喜ぶか、「感情的な人だ」と冷ややかな目で見るだけだ。

本当に相手を撃退したいなら、感情を一切排し、氷のように冷徹な論理とファクトで詰め、淡々と事務的に処理する方がはるかに効果的であり、相手にとっての恐怖となる。日本は法治国家なので、拳より法が強い。「この人は感情が読めない」「隙がない」と思わせるこそが、最強の防御であり攻撃なのだ。

さらに言えば、現代は「全員がカメラと録音機を持っている」時代である。 たった一度の失言や恫喝が、スマートフォンで記録され、SNSで拡散されれば、一発で社会的に抹殺される。

東南アジアなど一部の国では、人前で激しく叱責し相手のメンツ(顔)を潰した結果、恨みを買って殺害される事件すら起きている。 「キレる」という行為は、自分の社会的地位、あるいは物理的な命をチップとして賭けるほどのリスクある行為なのだ。

そうはいっても怒り狂いたくなるような場面は生きていれば避けられない。どうしても腹が立つ時はどうすればいいのか?一番は冷静に対処する舐められない技術を得ることだが、もっとシンプルに「時間を置く」もありだ。

目の前の人間に言い返したくなった瞬間、物理的にその場を離れる。「少し頭を冷やします」「トイレに行きます」と言って席を立てばいい。 人間の怒りのピークは長くて数分だ。その数分間を物理的に遮断すれば、脳内物質は落ち着き、IQは元に戻る。

「逃げるのか」と思うかもしれないが、そうではない。これは、取り返しのつかない損失を防ぐための「戦略的撤退」である。

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。