
衆院予算委員会で答弁する高市首相
自民党HPより
激しくなる中国の脅しとマスコミ
中国の威嚇が見苦しいほど激しさを増している。以前から繰り返していた「沖縄は中国の属国(すなわち沖縄にも手を出す)」という主張も再び持ち出し、ついには自衛隊機への攻撃準備ともいえるレーダー照射まで行ってきた。
※ 不可解なのは、この「台湾の次は沖縄だ」という発言を、なぜか日本のマスコミが大きく扱おうとしない点である。
高市総理は何も誤ったことを言っておらず、訂正も謝罪も不要だろう。しかし、以前にも指摘したように、そもそもマスコミが正確な報道をしていれば今回の騒動は起きなかったはずである。

もちろん、高市総理が就任した時点で、いずれ中国との軋轢が生じることは想定されていたし、中国もその機会を狙っていたはずだ。しかし今回の件は、立憲民主党議員が火をつけ、マスコミが煽ったと言ってよい。
この一連の誤報、むしろフェイクと言ってよい報道が騒動の発端であり、武力行使が示唆されるほどに事態が悪化したこと自体は問題だ。しかし、中国が似た行動にいずれ踏み切ったと考えれば、今回の騒動は「災い転じて福」とも言える側面がある。タイトルは不謹慎かもしれないが、今回の件が日本国民の意識改革につながるのであれば、立民議員の質問とマスコミの誤報は結果的にプラスだったともいえる。
今回の騒動の原因
大阪の中国領事の発言は、朝日新聞の誤報(?)に反応したものであることが、すでにX上の魚拓(投稿自体は削除済。池田信夫氏の11月21日のアゴラ記事を参照)で明らかになっている。
マスコミが本来報道すべき内容は、「予算委員会で高市総理が、アメリカが武力行使に巻き込まれた場合に存立危機事態が発生しうるという従来の政府見解を再確認しただけである」という一点である。この「従来の政府見解」を最初から正確に伝えていれば、中国がどう反応しようと、高市総理が追加発言をする必要もなく、マスコミのコメンテーターも「従来の政府説明の繰り返し」という枠組みで説明していたはずだ。
いまだにアゴラ投稿者の一部ですら、この前提を誤解したまま高市総理を批判している。
マスコミが煽っている最大の問題は、この誤った報道が国内世論を混乱させるだけでなく、中国の脅しを直接的にエスカレートさせてしまった点である。
高市総理は「アメリカが攻撃された場合」と前提を置いたうえで、「そういう判断もあり得る」と述べている。しかし報道はそこを切り落とし、「戦艦同士の交戦で存立危機事態になる」と、あたかも「中台の武力衝突だけで日本が集団的自衛権を発動する」と言ったかのように報じた。
中国は発言の真意を知りながら、日本国内の報道を見てチャンスとばかり、日本のマスコミの誤報を論拠として「高市政権は前例のない踏み込みをした」と、脅しの材料として利用したのだ。
これは慰安婦報道と同じ「マッチポンプ構造」であり、国益を損なう行為そのものである。
「高市総理の国会答弁で冷え込む日中関係」という見出しが並んでいるが、正しくは「マスコミの誤報で冷え込む日中関係」である。
高市総理は何を言いたかったか
高市総理は、立民議員がどのような意図で、誰を喜ばせるために質問しているのかを理解していたはずだ。追及が続くことを見越し、必要とあれば台湾への武力行使にも言及する覚悟はあっただろうし、台湾を見捨てる可能性を残すアメリカに対し「日本は連携する」という意思を示す狙いもあったのかもしれない。
仮に台湾を明言したこと自体が問題だと言うなら、これまで日本政府が自明である台湾有事を明確に言語化してこなかった方が問題である。そして、もしそれを問題とするなら、この緊迫度が高まる時期に、高市総理にあえて言わせた立民議員こそ責任を問われるべきだ。
※ 実際、中国は台湾周辺演習時に日本のEEZへミサイルを撃ち込んでおり、台湾有事が日本有事であることを中国自身が示している。
立民議員は「(中国による海上封鎖が存立危機事態になることが)絶対にないとは言えない」と語ったうえで中国による台湾封鎖を例示し、しつこく対応を問い詰めた。高市総理は法律に従い「アメリカが攻撃されれば存立危機事態の判断があり得る」と答弁しただけである。
高市総理は「中国が台湾へ侵攻し、アメリカが巻き込まれれば、日本も法律上巻き込まれる」と牽制しただけであり、これはむしろ戦争抑止のための発言だ。独断専行などではない。
トランプ・立民議員・マスコミのグッドジョブ
ここからは逆説的な点を述べたい。
まず、トランプ前大統領が「中国の意を受けて高市総理に無理をしないよう助言した」という情報がある。真偽不明ではあるが、仮に事実なら、中国は日本が全く折れないため、やむなくトランプに頼り、トランプはそれを受けるふりをして高市総理と対話したことになる。
そのうえで高市総理が態度を変えなかったことで、「トランプを使っても日本は中国の圧力に屈しない」というメッセージが成立し、高市・トランプ双方にとって好結果となった。
また、高市総理が従来見解の繰り返しを述べただけで中国がここまで過敏に反応したこと自体、日本にとって重要な示唆を含んでいる。
中国はレアアース禁輸や法人拘束などの形で脅すと予想されていたが、「沖縄は中国のもの」発言や自衛隊機へのレーダー照射は、台湾有事が米軍参戦に関係なく「日本本土への攻撃に発展し得る」ことを自ら証明したことになる。
日本世論でも中国への不信感は高まっており、高市発言への支持が反対を上回る調査も出ているという。コンサート中止などの威圧も、むしろ国民の反発を招いただけだ。
さらに、党首討論で立民議員をかばったうえで「発言を繰り返さないのは撤回だ」とコメントしたことも、立民への不信感を高めただろう。
いまや「中国の脅しは中国自身を追い詰めている」という報道すら出始めている。国民は具体的危機——シーレーン封鎖、自衛隊機攻撃、先島・尖閣上陸、在日米軍攻撃——を現実として認識し始めた。
結果として、立民議員の質問とマスコミの誤報が、「台湾有事=日本有事」という現実を多くの国民に可視化する“皮肉なグッドジョブ”になった。
日本はこれからどうすべきか
中国はここまで上げた手を簡単には下ろせないだろう。日本がすべきは、脅しに屈せず、冷静に対応することだ。質問されても撤回せず、「従来の方針を述べているだけ」と繰り返すことである。
下手に出て撤回すれば、「慰安婦問題と同様、日本は圧力をかければ折れる」というカードを中国に渡すことになる。その失敗は絶対に繰り返してはならない。
同時に、アメリカとの連携を一層深めつつ、先島の防空壕・ミサイル・避難体制の整備など、「起こりうる事態」への備えを急ぐ必要がある。脅しによって損害を受けた企業には適切な補償を行い、批判が政府に向かないよう配慮したい。
マスコミは(おそらく期待薄だが)、国内向けに高市総理の発言を正確に訂正し、「従来の政府見解を述べただけ」であることを繰り返し報じるべきだ。同時に、中国の沖縄主権主張などの脅しも正しく伝えなければならない。
さらに、「台湾有事=日本有事」という事実を、日本語以外の多言語で国際社会に訴え、日本への理解と支持を広げていく必要がある。
中国は脅しが効かないとわかれば、自国経済や世論悪化を恐れ、別の手段に移行せざるを得ない。日本は国防を強化しつつ、必要以上の対抗措置は取らず、中国が自ら脅しを引き下げるのを待つのが現実的だ。
※ もし中国がレアアース禁輸や法人拘束など違法または準違法の措置に踏み込む場合、外務省安全情報のレベルアップによる邦人の帰還要請はもちろんのこと、中国が嫌がる装置系の輸出管理の強化、という対抗策もあろう。貿易や対中投資の内容を見れば、実は中国が嫌がるカードは日本の方が多い。ただし報復の応酬は避けるべきであり、「対抗策も検討している」という程度のリークで十分だろう。
高市総理には、中国の不用意な武力行使を誘発しないよう細心の舵取りを期待したい。世論は高市総理の立場を支持する傾向にある。マスコミには、これ以上中国の威圧を助長するような「日本が孤立している」「日本が困っている」という過剰演出を控えることを強く求めたい。
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田中 奏歌
某企業にて、数年間の海外駐在や医薬関係業界団体副事務局長としての出向を含め、経理・総務関係を中心に勤務。出身企業退職後は関係会社のガバナンスアドバイザーを経て、現在は隠居生活。






