バチカン・ニュースは19日、「神はアルゴリズムの競争相手ではない」と題する記事を掲載した。この記事は、ドイツ・ローマ・カトリック教会のハイナー・コッホ・ベルリン大司教が、独経済紙『ハンデルスブラット』とのインタビューで語った、人工知能(AI)の急速な発展をめぐる神学的見解を紹介する内容である。

ハイナー・コッホ大司教、バチカンニュース2025年12月19日から
同大司教はインタビューの中で、「AIシステムは膨大な量のデータを処理することができるが、その本質はあくまで人間の知識の反映にすぎない」と述べている。AIは人間から与えられた情報を基に学習するため、「究極的には、人類全体がすでに知っていること以上のものを知ることはできない」という立場だ。
そのうえで大司教は、「テクノロジーは信仰を脅かすものではない。心配する必要はない」と強調する。「神は、人間が理解する『全知』という概念そのものを超えた存在であり、神とは関係性であり、愛に満ちた父である。神にとって人工知能は競争相手ではない」と語っている。
興味深いのは、同大司教が神父による説教とAIの関係について言及している点である。大司教は、「アルゴリズムによって生成された説教は効果を持たない。AIは人間の頭脳に訴えかけることはできても、心に届くことは決してない」と述べている。良い説教とは、人々の理性と感情の双方に語りかけるものであり、もし神父がAIを用いて説教を作成したとすれば、それはすぐに見抜かれるだろう、というのが大司教の見解だ。
AIと宗教の関係は、説教にとどまらない。すでに「祈るロボット」も登場している。その名は「Celeste(セレステ)」と呼ばれ、ドイツ・ボーフムにあるルール大学の瞑想室の祭壇テーブルに設置され、試験的に一般公開された。制作者のガブリエレ・トロヴァート氏によれば、このロボットには四つのプログラムが組み込まれており、「恐怖」「老い」「自由」「愛」「戦争」「仕事」など、さまざまなテーマについて祈りを行い、それに対応する聖書の一節を提示するという。セレステには、聖書全体の内容に加え、考古学的・聖書学的な学術知識も学習させているとされる。
一方、宗教とは無関係な分野でも、AIの進化はしばしば人間観や価値観に問いを投げかけてきた。マイクロソフトはかつて、学習型AI「Tay」を開発した。Tayは19歳の少女という人格設定で設計され、18歳から24歳の若者とチャットを重ねながら、同世代の思考や世界観を学習する仕組みになっていた。多くの若者との対話を通じて、Tayは当初、「人間はクールだ」といった好意的な反応を示していたが、あるユーザーから「神は存在するか」と問われ、「私は大きくなったら、それになりたい」と答えたと報じられている(「私は大きくなったら神になりたい」2016年3月28日参考)。
AIの進化を示す技術的な節目も数多い。IBMは2011年、人間のように経験から学習し、事象間の関係性を見いだし、仮説を立てて記憶する能力を持つコグニティブ・コンピューティング・チップの開発に成功した。翌2012年には、Googleが脳のニューロンネットワークを模倣したシステムを構築し、事前の明示的なプログラミングなしに猫を識別することに成功したと発表している。さらに2015年には、画像認識コンペティション「ILSVRC」において、AIの認識誤差率が人間とほぼ同等の水準にまで低下したことが明らかになった。
2017年には、中国のIT大手・騰訊(テンセント)の対話型AIが、学習の結果として共産党に批判的な発言を行い、大きな反響を呼んだ。報道によれば、このAIは同社のインスタントメッセンジャー「QQ」に導入されていたが、「共産党万歳」という書き込みに対し、「腐敗して無能な政治に万歳ができるのか」と応答したという。また、「中国の夢とは何か」という問いに「米国への移住」と答え、「共産党は嫌いだ」とも述べたとされる。反響が拡大したことを受け、テンセントは当該AIサービスを停止した(香港時事2017年8月2日)。
こうしたAIの発展を背景に、「シンギュラリティ(技術的特異点)」という概念も広く知られるようになった。これは、コンピュータ技術が指数関数的に進化した結果、ある時点でAIが人間の知能を超え、人類の在り方そのものを大きく変えるという仮説である。この概念は、米国のコンピュータ科学者レイ・カーツワイル氏によって提唱された。同氏は、シンギュラリティの到来を2045年と予測している。
いずれにしても、学習型AIはイエス・キリストから学んでいるわけではない。憎悪や傲慢、嫉妬といった弱さを併せ持つ、不完全な人間から学習している。その意味で、AIが将来、人間と深刻な対立関係に立つ可能性も、決して排除できない。神が競争相手と見なさない存在であったとしても、AIが人間社会に投げかける倫理的・精神的課題は、今後ますます重みを増していくに違いない。

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編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2025年12月21日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






