不動産価格の高騰 フラット35の限度額50%増が解決策ではない

不動産事業を長年展開し、人生の大半をそこに注ぎ込んできた者として不動産の富について思うことがあります。そのあたりを踏まえながら最近発表されたフラット35の限度額が8千万円から1億2千万円に増額された意味、そしてそれではなぜ解決策とならないのか、私なりの考えを示してみたいと思います。

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個人の資産は金融資産と不動産に拠るところが大きいと思います。金融資産は預貯金と投資に分けられ、その昔は三分割投資と言って預貯金、投資、不動産に分けよ、が推奨されたこともあります。ですが、これは現実的でもなく、正しいとも思わないので今ではその話は廃れていると思います。

不動産は投資という面と個人の安定した居住場所の確保という2つの側面があります。1980年代までは投資としての不動産がより強く期待されたのですが、バブル崩壊以降は居住地としての意味合いがほとんどとなり、それこそ25年近く不動産は値上がりするものではなく、減価するものと考えれらてしまいました。値上がりする不動産を再び実感し始めたのはこの10年ぐらいでしょう。

日本のこの長い回り道は世界では例外的であり、アメリカの住宅バブル崩壊後も回復までには5-6年程度しかかかっていません。(今後中国が日本の二の舞になりそうですが。)不動産は基本的には物価スライドで価値が上がり続けるべきでありそれが妥当な評価とも言えます。仮に年間2%程度の不動産評価額の上昇があればその人が30年間住み続けたのちの不動産価値は上物の減価があってもそれなりの残存価値があるのがあるべき考え方です。

私の中で不動産とは家族間で資産を繋ぐものだと考えています。つまり祖父や父の代が購入した不動産が時間軸と共に価値上昇となり、それらが子の代に引き継がれた時、ファミリーツリーがより太くなることで個人の富の形成を行い、ひいては国富となるものであります。実はそれにより少子化対策になる面も当然出てくるのです。

今回フラット35が50%もの限度額引き上げをしたのは現状の8000万円では相当の頭金を積まなければ住宅ローンを組めないという実態面に則したものだからです。しかし、1億2千万円もローンを組めるのか、というのが一般的な疑問でしょう。パワーカップルでも相当苦戦します。

では今や2億円でも買えない一部の不動産高騰ぶりに対して国は国民の資産形成を助長するのか、力を削ぎたいのか、私は問いてみたいのであります。

江戸時代、徳川政権は大名や農民の力を削ぐことに力を入れました。政権が長期安定化するには近隣窮乏化ならぬ国民窮乏化政策がもっともやりやすいからです。いまのベネズエラも同じ国民窮乏化政策です。現代の日本に於いても財務省が主導する税の仕組みは窮乏化政策であり、不動産持ちでも3代で普通の家に成り下がるとされるほど相続税は強化されています。しかも今は一人っ子など相続人数が少ないため、相続税負担は過大になりがちです。

2002年ごろから10年ぐらいは相続税からの歳入は年間1兆5千億円を下回っていました。が、2014年ぐらいからじわじわ上昇し、現在では3兆5千億円水準です。不動産の価格は2014年から2倍にはなっていませんが、相続税税収は2倍以上になっているのです。

私が以前から主張しているのは税務当局がファミリーツリーの源泉である相続における税を厳しく取り立てるのは国富形成の観点からしておかしいという点です。どうしても相続税が欲しいなら基礎控除を数億円ぐらいに引きあげるべきなのです。そうすることで子供の代にその時の物価水準に合わせた不動産が購入しやすくなるため、不動産価値は上昇軌道を描くのです。すると固定資産税収入が地方自治体に転がり込んできます。地方が潤えば国は楽になりますよね。

私から見ればフラット35を増額するのはローン額の増大化、ローン期間の長期化、更にはデリクェンシー(ローン滞納)の発生原因を生み出すことになり、全くヘルシーではないのです。それより相続税率を下げる、できれば親の主たる居住地の相続は非課税にするぐらいの対応をしないとむしろ国民は借金漬けになりかねないと思います。

不動産は国富なのです。30年に渡る失われた時代に私はミニバブルを引き起こせとこのブログで遠い昔に呟いたことがあります。今は不動産市場は健全で朗報でありますが、これがうまく次の世代に引き継がれる仕組みが存在しない現状は残念と言わざるを得ません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2025年12月26日の記事より転載させていただきました。

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会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。