国際情勢の好転と日本の覚醒:米国の戦略研究の重鎮の総括(古森 義久)

顧問・麗澤大学特別教授 古森 義久

米国の国際戦略・外交の重鎮とされるウォルター・ラッセル・ミード氏は大手紙ウォールストリート・ジャーナル12月22日付への寄稿論文でトランプ大統領の2期目の1年で国際情勢が好転したと総括し、特に日本の高市早苗首相の下での安全保障面での覚醒は歓迎すべき変化だと強調した。

安倍晋三首相(当時)とウォルター・ラッセル・ミード氏(2016年)

ミード氏の論文は「トランプ外交政策は世界にとって意外なほど有益となった」と題して、トランプ大統領が今年1月からの2期目のほぼ1年で革命的な外交政策を遂行した結果、国際情勢はより良好になったとする分析を明らかにした。

同論文はトランプ大統領の政策が従来の米国歴代政権で確立されてきた基本を逸脱し、混乱や反発を内外に引き起こした側面をも紹介する一方、焦点は現状を1年前と比べると、国際情勢は米国にとって、さらに世界全体にとって、より良好かつ健全となったか否かだという課題をまず提起した。

その上でミード氏は「全体としてポジティブ(前向き)な面が大きい」という自らの回答を出して、トランプ外交のこの1年ほどの成果を「好転」として高い評価を与えていた。同氏はその根拠として以下の諸点をあげていた。

  • トランプ政権が2025年6月に実行したイラン国内の核兵器関連施設への空爆はイランの核計画を大幅に遅らせ、同時にイランの意を受けて動くイスラム原理主義勢力の軍事能力をも破壊して、その結果、中東地域での米国の影響力を顕著に強化した。その結果、イランだけでなくイランを支援してきた中国とロシアのパワーと威信とを低下させた。
  • 中国とロシアはそれまでイランへの支援を強調し、有事にはイランの防衛を支援することを示唆していたが、実際にイランが米国に攻撃された際には、イランを軍事支援する動きは一切とらなかった。その結果、米国の中東地域での覇権的な地位が確認されたと言える。
  • 米国の欧州やアジアの同盟諸国はトランプ大統領のときには強硬な態度に揺さぶられることもあったが、結果として戦略的な意識や行動を高めるに至った。その結果、今後の米国のグローバルな政治や外交での中国やロシアとのせめぎ合いでは、これまでよりも強固で有益なパートナーとなることが確実となった。
  • 西欧諸国は長年、米国とともに民主主義の団結を明確に示すことを躊躇う傾向があったが、トランプ大統領は強硬な手段でその団結をもたらすことに成功したと言える。その手段とはロシアのウクライナ侵略への対応策に西欧諸国が積極的に参加しなければ、米国だけがその対応に当たることはしないと圧力をかけたことだった。その結果、西欧諸国は今後2年間に1,050億ドルの独自資金をウクライナへの軍事支援に投入することに同意した。

つまり以上の指摘はトランプ大統領の独自の戦略や外交により、中東地域での米国の地歩が固まり、中国やロシアを抑えつけ、さらにヨーロッパでは北大西洋条約機構(NATO)の欧州加盟の主要国に米国との協力を強めて対ロシア戦略を進めることに同意させた、という評価だった。

ミード氏のこの論文は日本についても、極めて前向きな特徴づけを述べていた。以下の骨子だった。

  • トランプ政権の過去1年間の対外活動は日本をも世界の安全保障の現実に覚醒させ、直面させる結果となった。高市政権下の日本は防衛支出を確実に増額し、台湾やその他のアジアでの同志諸国との安全保障面での関与を深めるようになった。日本は防衛関連製品の海外輸出にも長年、厳しい制限を課してきたが、その規制も大幅に緩和することになり、同志諸国との防衛協力の範囲が広まる。
  • 中国の高市首相に対する戦狼外交的な攻撃はすっかり裏目に出て、国際的にも高市首相への支持を広げる結果となった。日本の国内でも高市首相は安倍晋三首相に継ぐ自国防衛の必要性への強固な信奉者であり、中国との危険の深まる対立への毅然たる対応により、日本国内での人気も70%以上の支持率を上げている。

以上の日本についての記述もトランプ政権の新政策により日米同盟の強化だけでなく、日本国内の防衛問題への認識を高める結果が生じたと強調し、その日本側の動きを覚醒、つまり目覚めとして礼賛していた。第2期トランプ政権の高市政権への信頼感の強さを示す、ということだろう。

ミード氏は特に中国政府の高市政権に対する攻撃が却って裏目に出たとして、中国側の損失に言及している点も注視される。

ウォルター・ラッセル・ミード氏は、1957年生まれの73歳のアメリカの政治・戦略・外交問題の専門学者。エール大学卒業、ニュースクール大学世界政策研究所研究員、外交問題評議会フェローを経て、バード大学教授などを歴任。 外交シンクタンク「ニュー・アメリカ・ファウンデーション」共同創始者。ワシントンのハドソン研究所の特別研究員をも務める。

古森 義久(Komori  Yoshihisa)
1963年、慶應義塾大学卒業後、毎日新聞入社。1972年から南ベトナムのサイゴン特派員。1975年、サイゴン支局長。1976年、ワシントン特派員。1987年、毎日新聞を退社し、産経新聞に入社。ロンドン支局長、ワシントン支局長、中国総局長、ワシントン駐在編集特別委員兼論説委員などを歴任。現在、JFSS顧問。産経新聞ワシントン駐在客員特派員。麗澤大学特別教授。著書に『新型コロナウイルスが世界を滅ぼす』『米中激突と日本の針路』ほか多数。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2025年12月26日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。