「隠す服」と「包む服」は、全然違うという話

AzmanL/iStock

鏡の前で、ため息をついた経験がある人、手を挙げてほしい。

——はい、私です。

新しい自分が動き出すふだん着物の魔法」(シムラアキコ 著)きずな出版

若いころは何を着てもそれなりに見えた。少なくとも、そう思っていた。それがいつからか、二の腕が気になり始め、ウエストが主張し始め、「前はもっと楽に着られたのに」が口癖になった。

クローゼットの中の「着られる服」が減っていく。それに比例して、気持ちも縮んでいく。これ、結構キツい。体型の変化より、その精神的ダメージのほうがキツいかもしれない。

で、何が言いたいかというと。

着物は違う、という話だ。

着物にはサイズがない。いや、正確にはあるんだけど、洋服みたいな細かい区分がない。S・M・Lとか、7号・9号・11号とか、そういうのがない。平らな布を体に巻きつけて、紐で留める。それだけ。

だから、1サイズくらいの変化なら着付けで調整できる。2サイズ以上変わっても、仕立て直せば同じ一着を着続けられる。「サイズが合わなくなったから捨てる」が発生しないのだ。これ、地味にすごくないか。

ここからが本題なんだけど。

世の中には「体型をカバーする服」がたくさんある。ゆったりしたシルエット、体型補正下着、黒で統一、縦ラインを強調——テクニックは山ほど紹介されている。

でも、それって全部「隠す」発想なのだ。

着物は違う。「隠す」んじゃなくて「包む」。この違い、伝わるだろうか。

着物を着ると、外に出ているのは首・手首・足首だけになる。三つの「首」。人間の視線は自然と細い部分に集まる。だから、全体の印象がすっきりする。太くなった二の腕は袖の内側に収まり、脚のラインは裾の奥。見えない。

帯の位置を調整すれば、ウエストもヒップも誤魔化せる——いや、誤魔化すんじゃない。美しく見せられる。衿を広めに合わせれば、肩幅も顔の大きさもバランスが取れる。小顔効果も抜群だ。布の面積が広いから。

そして、これは男性にも言えることなんだけど。

体に幅が出るほど、着物姿には風格が出る。洋服だと「太った」になるところが、着物だと「貫禄が出た」になる。不思議なものだ。いや、不思議じゃないか。もともと日本人の体型に合わせて作られた服なのだから、当然といえば当然だ。

年齢を重ねた体を「隠す」服は、確かにたくさんある。でも着物は「美しく包む」服だ。今の自分を否定しない。矯正しない。そのまま受け止めてくれる。

鏡の前に立って、「今の私も、悪くないかも」と思える。

これ、すごいことだと思う。服にできることの中で、一番大事なことかもしれない。

まあ、着付けが面倒という声はあるだろう。わかる。最初は時間がかかる。でも、慣れれば10分。洋服のコーディネートに悩む時間を考えたら、大差ない気もする。知らんけど。

とにかく。

体型の変化に凹んでいる人、一度試してみてほしい。

隠すんじゃなくて、包まれる感覚。これは、着てみないとわからない。

※ ここでは、本編のエピソードをラノベ調のコラムの形で編集し直しています。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)