
首相官邸HPより
昨年の晦日、本欄に「今年のトップニュースは『トランプ2.0』」と書いてから早一年が経った。今年のトップニュースには国民の多くが「高市1.0」を挙げるはずで、筆者もそれに賛同する。
石破降ろしの最中、強面で鳴る保守派弁護士高井康行氏が、某ネット番組で総裁選に名乗りを上げた高市氏を「いつも抜き身の刀をぶら下げている」と、期待半分、懸念半分に評するのを見て、「上手いことをおっしゃるなあ」と膝を打った覚えがある。筆者も似た印象を彼女に懐いていたからだ。
が、いざ総裁に選ばれ総理指名を得た後の様子を見ると、この「慎太郎ばりの寄らば切るぞ」や「負けず嫌いの勉強家振り」に加え、随所で発揮される「飾らない関西のおばちゃん風」や「女性らしい繊細な気配り」といった彼女の「地」が、政権と日本の風向きを良い方へ良い方へと向けているように思える。
例えば公明の連立離脱である。悪夢の石破総裁はほんの1年足らずの間に、自公連立与党を衆参両院とも過半数割れに陥らせた。よって、高市氏は総理指名までの短い間に、政策面で組める野党を連立に引き入れない限り総理の目が危うくなる。そこで彼女は国民民主および維新の会との協議を急いだ。
そうした中、10月19日週に予定された総理指名まであと10日というタイミングで、公明が突然連立から離脱した。政治と金の問題に係る公明提案に今ここで飲め、との要求に高市氏が応じないとの理由だった。が、彼女は公明に恋々とせず、あっという間に維新との連立協議を成立させ、災いを福に転じた。
この新たな連立与党が11月28日、追加歳出18.4兆円という大規模補正予算を閣議決定し、これに国民民主のみならず公明も賛成したのである。背景に国民民主が主張していたガソリン減税や178万円まで103万円の壁を引き上げたことなどに伴う驚異的な世論の支持があったからのことだろう。
実に補正予算の9割以上を経済対策に充てる高市政権の「責任ある積極財政」は、経済成長によって税収増を図りつつ財政の持続可能性を担保するというジレンマへの挑戦だ。その道具立ての一つに基礎的財政収支の黒字化目標を、「単年度ごとの検証」から「数年単位での確認」に変更したことがある。
これに筆者は、トランプ大統領がこの9月半ば、「企業の決算開示を四半期から半期にすべき」と述べたことを思い出した。米経済界の重鎮も短期主義が経済に悪影響を及ぼすとして同様の主張をしていたと報じられた。かつて米国にこれを無理強いされたことも、日本経済の長期低迷の一因だったと思う。
これらは彼女の「寄らば切るぞ」の一面だが、そのトランプ氏が沈黙していることで一部に「疑米論」のある、「台湾有事」に係る「高市答弁」を巡る中国との一件も同じ類の出来事だ。高市氏は、間違っていなければ引かないが、かといって強くも出ず、粛々と事を進めるのである。犬の喧嘩も負けた方が吠える。
そのトランプ氏の米中の関税交渉を含む一連の勝負を、習近平氏の勝ちと評する識者が少なくない。が、筆者には異論がある。対中関税は、不動産バブル崩壊とそれも関連した2900兆元(約6.5京円)もの途方もない債務を抱える地方政府に、救いの手を打てないほど弱体化しつつある中国経済に確実に打撃を与えている。
トランプ氏も、彼の外交政策「America First」ついてCSISの副社長が評した、「『実利主義』ではないが実利的、『現実主義』ではないが現実的、『理想主義』ではないが原則的、『タカ派』ではないが強硬、『ハト派』ではないが抑制的で、それは伝統的な政治イデオロギーに根ざしたものではない」を実行しているだけだ。
彼は核大国のトップを悪し様に言わず尊重する。また流血を嫌い、抑止を優先する。派手に敵対すれば支援者らの留飲は下がるかも知れないが、国益=「America First」にそぐわないからだ。その代わりホワイトハウスや国防総省や議会が司司で仕事をする。12月に相次いで公表した国家安保戦略や対中報告書、上下両院の超党派決議案などがその証左である。
が、関税を含む経済面での政策や制裁は別だ。例えば関税。ベッセント財務長官は本年1月、「輸出によって現在の経済状況から抜け出そうとしている中国は、米国市場のシェアを維持するため価格を下げ続ける」と述べ、将来は「アイスキューブの様に融ける」とも言った。目下ほぼその通りに進行しつつあり、第3四半期の経済成長は年率4.3%を見込む(『Newsmax』)。25年度(24.10-25.9)の関税収入は前期比1180億ドル増の1950億ドルとなり、これを原資にした減税や給付金も近々行われる。
前記『Newsmax』は、批評家やアナリストは関税が物価上昇や貿易相手国からの報復に繋がり、長期的な経済成長が鈍化する可能性があると警告していたが、目下のところそれらの予測は当たっておらず、ガソリンも「Drill baby drill」で大幅下落したと記している。どうやら「TACO(Trump always chicken out)」は負け犬の遠吠えのようだ。
制裁では、10月下旬に発動したロシア石油大手ロスネフチとルクオイルへの制裁により、ロシアの石油収入は大幅に減りつつある。米国指定の撤退リミット11月21日を控えて、12社近いインドと中国の主要な買い手が、12月渡しのロシア産原油購入を見送る意向を表明し、更に効果が出始めた。
トランプ氏の話が長くなったのは、10月28日に米海軍横須賀基地に停泊する空母ジョージワシントンでの高市氏の振る舞いに言及したかったからだ。トランプ氏が主導する「PEACE THROUGH STRENGTH」の看板前で、その日初対面のトランプ氏の横でした仕草こそ「関西のおばちゃん」のそれだった。
高市政権は一般会計総額122.3兆円となる26年度予算案を12月26日に閣議決定した。これを1月召集の通常国会に提出し、3月末までの成立を目指す。4月には米中首脳会談のためトランプ訪中が予定されていることから、それまでに成立させて3月中の高市総理訪米が望まれる。
ならばここは、手取りを増やす施策を盛り込んだ大型補正予算案をある意味ともに組んだ国民民主に連立を持ち掛け、早期に予算を成立させて解散総選挙を打ち、そこで圧勝した上でトランプ大統領との首脳会談に臨むべきではなかろうか。きっと多くの国民も高市自民を応援することだろう。






