漱石はなぜ「吾輩は猫です」と書かなかったのか?

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新年あけましておめでとうございます。

今朝、LINEやSNSで「あけおめ」を送った人も多いだろう。「あけましておめでとうございます」と「あけおめ!」——同じ意味でも印象はまるで違う。

新年の挨拶で溢れるタイムラインの中で、誰の言葉が目に留まるか。その差を生むのは、実は語尾だったりする。

文末表現の2パターンを自在に操る!

文章の印象は、語尾の使い方で大きく変わる。「だ・である調」は重みがあり断定的、「です・ます調」はやわらかい印象を与える。同じ内容でも、語尾を変えるだけで読み手の受け取り方はまるで違う。

「だ・である調」の名文といえば、夏目漱石の処女作『吾輩は猫である』だろう。冒頭を見てみよう。

吾輩は猫である。名前はまだ無い。どこで生れたかとんと見当がつかぬ。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶している。吾輩はここで始めて人間というものを見た。しかもあとで聞くとそれは書生という人間中で一番獰悪(どうあく)な種族であったそうだ。この書生というのは時々我々を捕えて煮て食うという話である。

「吾輩は猫である」——この一文が持つ威厳と滑稽さは、「である調」だからこそ成立する。猫が偉そうに語るというギャップが、読者の心をつかむのだ。

これを「です・ます調」に置き換えるとどうなるか。

私は猫です。名前はまだありません。どこで生れたかも全く見当がつきません。何でも薄暗いじめじめした所でニャーニャー泣いていた事だけは記憶しています。私はここで初めて人間というものを見ました。しかもあとで聞くところによると、それは書生という人間中で一番獰悪(どうあく)な種族だったそうです。この書生というのは時々私たちを捕えて煮て食べてしまうという話であります。

丁寧にはなったが、猫が話すという面白みが消えてしまった。「私は猫です」では、ただの自己紹介である。漱石が「です・ます調」を選んでいたら、この作品は文学史に残らなかったかもしれない。

どちらを選ぶか——目的で決める

一般的に、レポート類、論文、記録文などは「だ・である調」がよく使われる。事実を端的にまとめ、意見を主張する必要があるためだ。新聞の社説やビジネス書もこちらが多い。

一方、「です・ます調」は読者との距離を縮めたいときに有効である。ブログ、メールマガジン、顧客向けの案内文などは、やわらかい印象を与えるこちらが適している。

私の場合、通常は「だ・である調」で書くことが多いが、媒体や読者層によって使いわけている。硬軟を自在に操れるようになれば、表現の幅は格段に広がる。

ただし、絶対に守ってほしいルールがある。「です・ます調」と「だ・である調」を一つの文章の中で混同しないこと。混在すると、読み手は違和感を覚え、文章全体の信頼性が損なわれる。どちらかに統一する。これは鉄則だ。

語尾を変化させて、リズムをつけよう

語尾を統一したら、次のステップがある。同じ語尾が続くと、平坦な文章になり、稚拙な印象を与えてしまうのだ。以下の例文を読み比べてほしい。

〈語尾が同じ場合〉

アップル航空は、安全運行に対する姿勢について以前から批判を受けています。航空整備士が不足し、整備ミスが相次いだことから、社長は国会に参考人招致されています。多くの人命を預かる航空会社としては不適切ではないかと問題視されています。安全面よりも利益を重視する考え方が、当時から顕在化しています。

4文連続で「〜ています」。読んでいて息苦しくないだろうか。

〈語尾に変化をつけた場合〉

アップル航空は、安全運行に対する姿勢について以前から批判を受けていました。航空整備士が不足し、整備ミスが相次いだことから、社長は国会に参考人招致されています。多くの人命を預かる航空会社として不適切ではないかと問題視されたのです。安全面よりも利益を重視する考え方が、当時から顕在化していました。

同じ4文、同じ内容。しかし語尾を変えただけで、文章にメリハリが生まれた。

語尾のバリエーションを持っておく

「です・ます調」であれば、「〜です」「〜ます」「〜でしょう」「〜ました」「〜ません」「〜ですね」など。「だ・である調」であれば、「〜だ」「〜である」「〜なのだ」「〜だろう」「〜と思う」「〜ではないか」など。

これらを意識的に使いわけるだけで、文章のクオリティーは確実に上がる。プロの書き手は、無意識にこれをやっている。

たかが語尾。されど語尾。文章の印象は、最後の数文字で決まる。

文章術はビジネスシーンだけで必要なわけではない。お礼状、案内文、SNSの投稿——私たちは日常のあらゆる場面で文章を書いている。語尾を意識するだけで、あなたの文章は見違えるほど読みやすくなる。今日から実践してみてほしい。

【追伸】
2年ぶりの新刊が、今年2月〜3月に出る。詳細はまだ明かせないが、これまでにない一冊になる。楽しみにしていてください。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

22冊目の本を出版しました。

読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)