米国のベネズエラ軍事介入が成功裏に終わり、世界がホッとした束の間、トランプ氏は今度はグリーンランドの併合に強い関心を示しだした、といった感じだ。トランプ氏はベネズエラ軍事介入の勢いもあってか、「必要ならば軍事力を行使してもグリーンランドを米国のものにしたい」と発言したのだ。グリーンランドを自国領土とするデンマークはビックリ、急遽北大西洋条約機構(NATO)加盟国と対応を始めた。テーマはロシアのデンマークへの軍事介入ではなく、NATO加盟国の米国のグリーンランド軍事侵攻への対応だ。

ベネズエラ軍事介入後、記者会見するトランプ大統領 ホワイトハウスXより
NATO加盟国がトランプ大統領の発言で動揺と困惑状態にあるのを見て、ルビオ米国務長官はその直後、「米国の立場は武力介入ではなく、島を買い取りたいだけだ」と説明し、事態の鎮静化に乗り出したほどだ。
トランプ氏のグリーンランドの米国併合発言は今回が初めてではない。米国のベネズエラ軍事介入前、トランプ氏は機会がある度にグリーンランドを軍事的に併合したいと述べてきたが、欧州の政治家たちは「トランプ氏の妄想が始まった」といった程度で受け取り、真剣に考えてこなかった。
しかし、米国のベネズエラ軍事介入、国家元首のマドゥロ大統領夫妻を寝室から拘束、米国に移送し、5日はニューヨークの米連邦地裁に出廷させて以来、トランプ氏を見る世界の政治家たちの評が激変したのだ。「トランプ氏は言ったことは必ず実行する大統領だ」という新しいプロフィールが生まれてきたのだ。米軍のベネズエラ軍事介入はロシアのプーチン大統領、中国の習近平国家主席よりも、ひょっとしたら西側の政治家を最も驚かせたかもしれない。
だから、グリーンランド併合のため、NATO同盟国のデンマークを攻撃するという米国のシナリオを真剣に受け止めざるを得なくなったわけだ。オンライン誌ポリティコは7日、複数のEUおよびNATO代表、外交官、防衛専門家との会話を引用し、「トランプ氏はグリーンランドを支配下に置く明確な道筋に沿って、既にその道を歩み始めている」というのだ。
グリーンランドは1721年から1953年までデンマークの植民地であった。第2次世界大戦中、グリーンランドは、デンマーク本国が占領されたためアメリカの保護領に、戦後はデンマーク領に復帰。そして1979年、デンマークの自治領となった。グリーンランドは戦争中、米軍にとって極めて重要な戦略的地位を占めた。それ以来、グリーンランドには米軍が継続的に駐留している。グリーンランドは2009年、自治権を国民投票で獲得した。この法律は独立への大まかな道筋も示しており、グリーンランドで住民投票を行い、その後コペンハーゲンと独立交渉を行うというものだ。
米国によるグリーンランド領有権の主張は決して新しいものではない。1867年、ロシアからアラスカを買収する交渉を成功させた当時の米国国務長官ウィリアム・H・スワードは、グリーンランドとアイスランドの買収を要求している(何度か試みられたが、実現しなかった)。
グリーンランドのほぼすべての政党は独立を支持している。1年前に実施された世論調査でも、独立賛成が大多数を占めたが、同時に85%が米国への加盟には反対した。いずれにせよ、グリーンランドの独立には、デンマーク、米国、NATO、そしてEUとの契約に基づく合意が必要となる。
ロイター通信の情報によると、トランプ大統領の顧問とデンマークおよびグリーンランドの代表者との間で既に会合が開かれているという。グリーンランドの米国併合交渉はオンゴーイングというわけだ。
ちなみに、トランプ政権のベネゼエラ軍事介入に対し、国際法を無視しているという批判が聞かれる。パリからは「米国の攻撃は国際法違反だ。マドゥロ大統領の拘束につながった軍事行動は、国際法の原則に違反している。永続的な政治的解決を外部から押し付けることはできない。国家の将来を決定できるのは主権者である国民のみだ」といった厳しい批判だ。中国の国営新華社通信は外務省報道官の発言を引用し、「中国は、主権国家とその大統領に対する米国の露骨な武力行使に深く衝撃を受けており、最も強い言葉で非難する」と述べている、といった具合だ。
ところで、トランプ大統領はニューヨークタイムズとのインタビューで、国際法が大切であることを認めたうえで、「外交政策において自らを縛るのは私の良心だ、国際法ではない」と答えている。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年1月10日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






