「政治家の仕事は、国民の食いぶちをつくることだ」
首相を辞して4年が経過し、安倍・菅時代の総理官邸8年8か月を振り返る本格的な回顧録が出版された。首相としての任期がコロナ禍による混乱時期と重なり、当時は言いたくても決して口にはできないことがあっただろうと思う。
下世話な話だが、当時の複雑な政局、人間関係のもつれや裏切り、メディアへの不満などが明かされるのかと思いきや、最初から最後まで政策、政策、政策で一貫している。流行語を借りるなら、本書は官房長官として、そして首相として働いて働いて働き通した8年8か月の記録である。
そんな中で著者の人生観、または人間的な感情の一端を垣間見せたのが、政治の師である故・梶山静六氏の言葉である。国民にとっての当たり前の感覚を大事にしながら、国民が日々の日常を送っていくための糧を生み出すことが政治の責務であるとの想いが、各章で語られる様々な政策に通底している。
「やめることは一番簡単で楽なことである。困難に挑まなければ、求める成果は得られない」
災害やテロ対応、インバウンド、沖縄基地問題、携帯料金値下げ、ふるさと納税、ワクチン1日100万回、カーボンニュートラル、原発処理水の海洋放出など、官邸時代の実績は数知れない。
しかし、著者の政治家人生で最大の見せ場だと私が感じたのは、東京五輪開催に向けブレずに毅然と開催方針を堅持したことだ。数々の国内政策と比較して遥かに影響の大きい、敢えて大げさに言えば未曽有の感染症と戦う人類にとっての重要な岐路が東京五輪開催であったと思う。
昨年、事前には大批判を浴びながら、大成功で大阪関西万博は閉幕した。開催地である吉村洋文大阪府知事が万感の思いで語ったインタビューを聞きながら、日本政府が東京五輪を開催して国際公約を守り抜いた前例があったからこそ、どれだけ強い批判にも耐え抜くことが出来たのだろうと私は吉村氏の心情を推し測った。
「決断がリーダーの仕事」と言う人は多いが、それを実践できる政治家は稀だ。本書を読みながら過去を振り返り、あの時に諦めなかったことで今があるのだと読者が納得できる一場面だと思う。
私が初めて選挙に挑んだ2023年4月の県議会議員選挙。序盤戦の4月2日に、新百合ヶ丘駅へ著者は来て応援演説をしてくれた。そこから溯ること3か月前の12月28日に、衆議院議員会館の菅義偉事務所で「必ず応援行くから」と言ってもらったことは今でも鮮明に覚えている。
前首相としてコロナ対策の功績に光があたり、現職首相時代以上の人気を誇っていたから、遊説スケジュールの調整は容易でなかったはずだ。しかし、本書の読者には理解頂けると思うが、著者は結論を先に出して自らの行動を規定する。言ったことを必ず実行するのが著者の生き様である。ほんの僅かではあるが、著者の40年近くに及ぶ長い政治家人生の中で一時の交流させてもらった私の実感である。
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