2019年は人類最後の「普通の年」だった

黒坂岳央です。

SNS上で「2019年こそが、我々の人生における最後の『普通の年』だったのではないか」という問いが大きく拡散している。日本だけでなく、英語圏でもこのテーマで繰り返しバズっている。

実際、2020年を境に「まるで別の現実世界に滑り込んでしまった」ような違和感を抱えている人は多いのではないだろうか。筆者もその一人で、2019年まであった「なんとなく、このまま世界も人生も続いていく」という感覚は消えてしまった。

そして実際にこれは遠からずあたっている。地政学、そしてテクノロジーの変遷を辿れば、2019年とそれ以降の間には、修復不可能なレベルの「断層」が存在することが明らかなのだ。

b-bee/iStock

グローバリズムの終焉とブロック経済への回帰

2019年までの世界は、自由貿易と効率性を最優先するグローバリズムの恩恵を享受していた。欲しいものは安く、早く、自由に手に入れる事が出来た。だが、パンデミックと地政学リスクの顕在化により、その前提は崩壊した。

その代表例は西側と東側の分断である。世界は再び「ブロック経済」の時代へと突入したといえる。サプライチェーンは効率ではなく「安全保障」を基準に再編され、かつての滑らかな国際協力は、西側諸国と東側諸国、およびグローバルサウスの対立構造へと置き換わった。

さらに2019年までと異なり、世界中の法定通貨の信任が揺らいだ。米ドル一強体制へ一石を投じる動きがあり、BRICS諸国を中心に共通通貨の構想やゴールド(金)への資産シフトが起きている。現実として、ドルの強さに今の時点で大きな変化はないが、法定通貨への不信感が、通貨の歴史を数十年分、巻き戻している。

さらに商品、サービスにも大きな分断が起きている。パソコンのメモリ、新米、そしてコロナ禍のマスクなどを筆頭に、「欲しいものが欲しい時に欲しい価格で手に入らない」という事が珍しくなくなっている。

日本の「穏やかな日常」は変わった

日本においては、2019年まで続いていた「物価は上がらず、変化も緩やか」というある種の「停滞の心地よさ」が、外部からの圧力によって変化が起きた。

1つ目は通貨安による「買い叩かれる日本」だ。記録的な円安とインフレにより、かつての購買力は消失した。日本人が海外旅行やiPhoneの価格に悲鳴を上げる一方で、他国通貨を持つ人々による不動産や企業の「買い上げ」が加速している。

自分もなんとなく他人事にようでいたが、人気の観光エリアで外資系ホテル、外国人スタッフが外国人利用者を大応する場に身を置くと嫌でも実感させられる。

これは筆者の肌感覚だが、北海道のニセコのホテルで食べた「うどん1杯3000円」の洗礼を受けた時に大きな変化を感じたものである。

そして2つ目はAIと外国人の突き上げだ。労働市場の構造も劇変した。ホワイトカラーの仕事は生成AIによって代替され始め、ブルーカラーの現場は人手不足を背景とした外国人労働者への依存を強めている。かつての「日本的雇用」という防波堤は、デジタルとグローバルの両面から突き崩されているのが現状だ。「就職ではなく就社」という感覚はもう終わったと考え、市場価値を意識してとにかくビジネススキルを磨き続ける働き方が求められているだろう。

世界的なメンタルヘルスの悪化

「将来に不安しかない」という感覚は日本人だけのものではなく、世界中の人が抱えているメンタルヘルスである。

実際、WHOの調査では、2020年以降に世界全体で不安障害や抑うつ症状が急増したことが報告されている。また、OECDの幸福度・生活満足度調査でも、2020年を境に先進国の多くで「人生の満足度」が低下し、2019年以前の水準には戻っていないことが明らかになっている。この精神的な疲弊は、単なるパンデミックの後遺症ではなく、構造的な不安に起因している。原因を考察したい。

1つ目は既存の世界秩序が崩壊し、次に何が起きるか予測できない混沌とした状況が、人々の神経を磨り減らしている。特にAIの台頭は「人間の存在意義」そのものを揺さぶり、根源的な不安を煽っている。

2つ目は強烈なインフレだ。労働で得た現金の価値が目減りし続ける「資産インフレ」の世界では、真面目に働くことの報われなさ感が強まる。「持たざる者」の相対的な不利は本人の努力だけでは覆せない部分も大きい。

3つ目は「運命決定論者」が増えたことだ。「親ガチャ、遺伝子ガチャ」といった先天的要素で人生は決定的になる、という感覚を持っているのは日本、中国、韓国などの東アジアだけのものではなくなった。SNSを見ると「努力より運」という論調は英語圏でも見られる。これも2つ目の「持たざる者」的な要素は否定できない。

2019年が「最後の普通の年」に感じられるのは、それが「予測可能な物語」を信じられた最後の年だったからである。

世界は壊れたのではない。「新しい世界」へアップデートされたのだ。2019年へのノスタルジーを振り切るためには、この断層の存在を認め、かつての常識が通用しないサバイバル時代にいることを自覚せねばならない。

2025年10月、全国の書店やAmazonで最新刊絶賛発売中!

なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

アバター画像
働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。