今月8日以来、イランのインターネットの接続が遮断されているため、昨年12月28日から続いてきたイランの聖職者支配体制(ムッラー政権)への抗議デモの状況が明らかではないが、イランの最高指導者ハメネイ師自身は17日、「数千人の犠牲者が出たが、その責任は抗議デモを扇動した米国、特にトランプ大統領にある」と発言している。
なお、「サンデー・タイムズ」が入手した情報によると、イランで発生した大規模抗議活動で1万6500人から1万8000人が死亡した可能性がある。この数字は、全国8か所の主要な眼科クリニックと16か所の救急治療室のスタッフが集計した。負傷者は推定33万人から36万人を超え、少なくとも700人から1,000人が片目を失った。テヘランの眼科病院であるヌール・クリニックだけでも、7,000件の眼の負傷が記録されているという。

抗議デモ風景、Tasnim通信,2026年1月9日、テヘラン
問題は、この数千人の数字は、イラン当局が国民を殺害した数だという事実だ。外部との戦闘の結果亡くなった国民の数ではないのだ。治安部隊は抗議デモ参加者に対し、頭や胸に向けて射撃するなど、これまでにない残虐なやり方で殺害を繰り返したという。
イラン当局が抗議デモ参加者の公開処刑を中止したことを受け、イランへの軍事侵攻を計画していたトランプ氏は14日、「彼らは800人の国民の公開処刑を中止した」として、米軍の軍事攻勢を再考する姿勢を見せていたが、ハメネイ師の強硬発言を受け、「イランの指導者は交代すべきだ」と、イラン側に再び強い姿勢を見せている。米政治専門紙ポリティコが17日、報じた。
ウィーン国際経済研究所(WIIW)のイラン経済専門家のマフディ・ゴドシ氏は17日、オーストリア国営放送(ORF)とのインタビューで「イラン経済全体、特に銀行部門は破綻している。猛烈なインフレ、通貨の切り下げ、投資資金の不足、汚職、そして操作によってのみ達成される国家予算という悪循環下にある。その結果、人々は生活必需品を買う余裕がなくなり、食費を減らさざるを得なくなっている」と述べている。、ゴドシ氏自身が2009年にイランを離れた当時でさえ、1米ドルは1万リアルだった。しかし現在では、160万リアルにもなっているというのだ。
12月末の現在の抗議活動のきっかけは、緊縮財政に苦しむ政府が貿易業者向けに導入した優遇為替レートの廃止計画が流れたことだ。特に食料品、医薬品、その他の生活必需品を輸入するバザール商人は1米ドルあたり28万5000リアルという優遇為替レートで支えられてきたが、この支えがなくなると、これらの商品の価格は瞬く間に5倍に跳ね上がる。商人たちは、この値上がり分を消費者に転嫁することはできない。ゴドシ氏によると、これが、現在の抗議活動が伝統的なバザール商人たちによって開始された理由だという。
イラン中央銀行は、予算編成を可能にするために無制限に新規通貨を発行し、その結果、通貨はますます価値を失っていく。このような状況下では、いかなる事業も意味をなさなくなる。経済専門家によると、経済はもはや機能していないという。加えて、治安機関には莫大な追加費用がかかる。ムッラー政権はもはや単独では鎮圧を行う余裕がないため、同盟関係にあるイラク民兵など外人部隊を動員しているという。
ゴドシ氏は「銀行セクター全体が崩壊している。イラン経済を支えているものが何なのか、私には分からない。誰も融資をしてくれない。同盟国である中国でさえもだ。当局者に残された選択肢は、路上で人々を殺し、テロリストのせいにすることだ」と述べた。
ゴドシ氏によると、「過去15年間で国民の大部分の収入が最大3分の1減少した。さらに、最近の政府報告書によると、イラン国民のほぼ40%が極度の貧困状態にある。大多数のイラン国民にとって生活は耐え難いものになってしまった」というのだ。すなわち、今回の抗議デモが起きる前から、イラン社会は暴発寸前の状況だったことになる。
ところで、イスラエルは昨年6月13日、イランに対する戦争を開始し、核施設を含むイラン全土の標的を攻撃した。その後、米国が介入し、核開発計画の主要施設3カ所を爆撃した。興味深い点は、その直後のイラン当局の対応だ。
テヘラン大学の法学教授であり、著名な政治評論家モフセン・ボルハニ氏は当時、ニューヨーク・タイムズ紙に対し、「私たちはシーア派のアイデンティティとイランのナショナリズムの融合の誕生を目撃している。革命指導部は、国民を団結させるためには、ナショナリズム的なレトリックを深く掘り下げる必要があることを認識していた」と述べた。例えば、イラン神話で最も人気の高い英雄の一人であるアーラシュのポスターが、テヘランのショッピング街に掲示されていた。
ボルハニ氏は「神政国家が国家主義へと転向したことは、宗教だけではもはやイランの9000万人、特に人口の大半を占める若者を体制維持のために動員することはできないことを示している」と解説していた。
しかし、イラン当局が今回、抗議デモに参加した国民に向けて実弾を発射して殺害した結果、国民に愛国主義を訴える余地さえも閉じてしまった。イラン当局が抗議デモ参加者を一時的に鎮圧できたとしても、長期的に国民を抑える手段がなくなったのだ。ハメネイ師を中心としたムッラー政権は地下資源の豊かなイランの国民経済を完全に破産させてしまった。「新しい指導者を探す時だ」と語ったトランプ氏の発言は正しい。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年1月19日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。






