「注文にLINE登録必須」のお店に行ってはいけない

黒坂岳央です。

飲食店で席に着き、まず目にするのが「QRコード」「タブレット注文」という光景が日常となった。かつては店員を呼び、会話を通じて注文するのが外食だったが、今やそのプロセスはデジタルへと置き換わりつつある。

統計によれば、セルフオーダーの経験率は2021年の約26%から、2025年には67.5%へと急増している。もはや避けては通れない潮流だが、その普及速度に反比例するように、利用者の不満は噴出している。

一口にモバイルオーダーと言っても、店側が用意する「タブレット型」、客の端末を使う「QRコード型」、そして最も物議を醸している「QRコード注文の先のLINE登録必須型」と、その形態は様々だ。

なぜこれほどまでにスマホ注文は嫌われるのか。そして、店側がこの「不評」を承知で導入を強行する背景には、どのような切実な事情があるのか?

ちょくちょく旅行や出張をしてあちこちで外食をする筆者の視点で考察したい。

iacu/iStock

若者からシニアが嫌うスマホ注文

「スマホ注文なんて嫌だ」、これはパッと見で「デジタルが苦手はお年寄りの意見」に思える。だが、デジタルネイティブである高校生などの若年層からも、強い拒絶反応が出ている。

スマホ注文が嫌がられる理由は複合的だ。

1つ目は通信費とバッテリーの消費だ。「ギガ」や「電池残量」は客にとって有限の資産である。フリーWi-Fiも充電設備も整わないまま、客の通信環境を前提とする姿勢が「店都合を押し付けられる」と感じる人もいるのだろう。

2つ目は操作ストレスである。物理的なメニューに比べ、スマホの狭い画面でのスクロールは全体像を把握しにくい。カテゴリを何度も行き来する手間は、本来、同行者との楽しい会話を分断し、食事の場を「沈黙の作業場」に変えてしまう。

そして最も嫌われるのがQRコード読み込みの先の「LINE登録の強制」だ。注文のために、不必要な広告が届くLINE登録を強いる「人質型」の仕組みは、最も評判が悪い。

店側としてはリピーター作りのマーケティング意図があるのだろうが、Line登録をさせられたお客さんは「もう来ない」と一期一会の食事になるという矛盾を抱えている。もちろん、すべてのお客さんが否定的なわけではないが、店舗もお客さんもLose-Loseの取引は増えてしまうと予想する。

「LINE登録必須と知っていたら入らなかった!」と憤慨する意見はSNSでよく見る。「嫌ならブロックすればいい」という意見もあるが、そのブロック作業も含めて最も多くの工数をお客さんに強制させる点が嫌われているのでやるべきではないだろう。

これは店側を責めたくて言っているのではなく、気づかない店側への提言だが「注文にLINE登録必須」はやるべきではない。「お客さんのため」、というより「店舗の生存のため」だ。LINE登録を強要されたお客さんの印象は総じて悪く、結果として店舗ブランドを落としてしまう結果になると思っている。これでは誰も幸せにならない可能性が出てくる。

それでもなぜお店はスマホ注文を導入する?

「複雑にせず、これまで通りスタッフが注文を取ってくれたらいいのに」

そう思う人も多いだろうが、店側も、好き好んで導入しているわけではない。その背景には、個人の努力では抗えないマクロな経済状況がある。

その最大の理由は人手不足だ。現在の飲食業界において、最大の問題は「人が採れない」ことだ。時給を1500円に引き上げても応募がない地域すらあり、モバイルオーダーを導入しなければ、店を開け続けること自体が困難な状況にある。

「それならタブレット注文にすればいいのでは?」という意見もあるだろう。確かにそれ自体は正論ではあるが、これが店舗側に無視できないコストを要求する。仮に1台3万円でも10台で30万円。それに加えてシステム利用料も発生する。これを限られた利益から捻出するのは厳しい、という店舗も少なくない。

そして昨今のインバウンド対応のためでもある。急増する訪日外国人観光客への対応も、デジタル化を加速させている。多言語対応のスマホ注文は、言語の壁による注文ミスをゼロにし、スタッフの負担を劇的に軽減する。インバウンド需要を取り込むことは、もはや都市部の店舗にとって「選択」ではなく「生存条件」なのだ。

お客さん側としても店舗が消えるのは望むところではない。昨今のスマホ注文の流れはもはや必然かつ不可逆的といっていい。

お店とお客との妥協点

スマホ注文という流れを止めて、スタッフが注文を取ることをすべての店舗で実現することは現実的ではない。だが、客の信頼を失わないための「妥協点」は存在する。

一番の理想形は「店舗設置のタブレット」だろう。筆者は数多く食べ歩きをしてきて、タブレット注文で困ったことは一度もなく、非常にわかりやすく作られている。客のスマホを侵食せず、UIも統一されており、操作性が高い。店側の導入コストは大きいが、タブレット注文が理想形と思っている。

スマホ注文が「店側の都合の押し付け」ではなく、「快適な食事のための補助ツール」として機能するかどうかが問われている。人材不足、インフレに苦しむ店舗の生き残りをかけた形がスマホ注文にあらわれているのだ。

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なめてくるバカを黙らせる技術」(著:黒坂岳央)

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。