
CarlFourie/iStock
政策提言委員・金沢工業大学特任教授 藤谷 昌敏
2026年1月8日、中国の官製シンクタンク「中国軍備管理・軍縮協会(中国軍控与裁军协会)」と、研究機関「中国核戦略規画研究総院(中核战略规划研究总院)」注)が北京で共同記者会見を開き、『日本右翼の核の野心:世界平和への深刻な脅威』と題した詳細な研究報告書を公開した。
約1万3000字に及ぶこの報告書は、日本の安全保障政策の変容を「核兵器保有への危険な試行」と位置づけ、国際社会に対して対日監視を強化するよう強く促す内容となっている。
注)
「中国軍備管理・軍縮協会(中国軍控与裁军协会)」軍縮・軍備管理分野の研究と交流を行う政府系団体
「中国核戦略規画研究総院(中核战略规划研究总院)」中国最大の原子力国有企業「中国核工業集団公司(CNNC)」傘下の研究機関
報告書では、高市早苗首相および現政権高官による「非核三原則」の修正議論に対し、日本が戦後国際秩序と核不拡散条約(NPT)体制を根底から揺るがす挑戦であると厳しく批判している。さらに高市首相が過去に言及した核ミサイル発射型の潜水艦の導入検討や、米国による「拡大抑止」の能動的な強化について、日本が「再軍事化」を加速させるための布石であると糾弾している。
日本を軍国主義の復活と強く批判
特徴的なのは、単なる政治的非難に留まらず、技術的・統計的な分析が含まれている点であり、日本が民生用原子力発電の必要量を大幅に上回る核材料(プルトニウムなど)を長期にわたり蓄積している事実を強調していることである。これには「中国核戦略規画研究総院」が核関係の数値や統計で大きく関わっている。
そして日本の高度な原子力技術と産業基盤があれば、短期間で核兵器開発へ転用が可能であると分析し、国際原子力機関(IAEA)による日本への保障措置と監督をさらに厳格化すべきだと提言している。
同報告書によると、(以下要約)
- 日本は、既に原子炉と再処理施設を通じて兵器級プルトニウムを生産する能力を持つと指摘し、日本が長期にわたり製造、備蓄してきたプルトニウムは、民生用の原子力利用に必要な量を大幅に上回っており、機微な核物質の需給が深刻な不均衡状態にある。
- 日本は、核兵器を搭載可能な作戦プラットフォームを保有し、原子力潜水艦や原子力空母を開発するための技術的基盤も備えている。米英の一部専門家は、日本を「核保有一歩手前の国」と位置付けており、ある米国の専門家は「日本はネジを一ひねりすれば核兵器を保有できる」と表現している。
- 高市早苗首相は「非核三原則」の見直しを示唆し、政府高官が核兵器保有を主張する事態まで起きている。これは「核兵器問題でどこまで踏み込めるかを探る、日本側の危険な試みだ」と断じ、個別の出来事や個人の発言ではなく、日本が組織的、計画的、体系的に進めている結果だ。
- 日本が兵器級核物質の製造能力を維持することに固執する一方、国際社会に対しては「核の被害者」としての側面を強調し、同情を得ようとしてきたと批判する。「日本は被害者としての語りによって、自らの真の目的と行動を隠そうとしている」、「国際社会は、核不拡散問題をめぐる日本の立場が露呈している偽善性と二面性を見抜く必要がある」と強調した。
これに呼応するように、中国外交部の毛寧報道官も1月8日の会見で、
「日本右翼の膨れ上がる核保有への野心は、日本軍国主義が再び台頭することを示す危険なシグナルであり、世界の平和と安定にとって深刻な脅威となっている。日本は国際社会の正義の声に正面から向き合い、核兵器問題における立場を直ちに明らかにし、核兵器不拡散条約(NPT)の義務と非核三原則を厳守すべきだ」
と強く非難した。
「NPT再検討会議」を視野に対日圧力を強化
2025年11月の高市総理の台湾有事をめぐる発言に端を発した中国の対日圧力は、25年10月のレアアース対日輸出規制、2026年1月の日本原産ジクロロシラン(Dichlorosilane)に対する反ダンピング(不当廉売)調査の開始など、次第にエスカレートしており、長期化による日本経済への打撃が懸念されている。
さらに今回、中国側が核関連の大規模な報告書をまとめた背景には、2026年4月に米ニューヨークで開催が予定されている「核兵器不拡散条約(NPT)再検討会議」があるとみられている。ちなみに、この会議は米中露英仏の核保有国も参加する核軍縮に向けた国際会議で、2015年、22年の2回続けて最終文書を採択できず決裂しており、議論の行方が注目されている。
中でも日豪を中心に段階的な核軍縮を志向する計12カ国の非核兵器国で形成する「軍縮・不拡散イニシアティブ」(NPDI)は、2012年に核弾頭数、核兵器の種類、核兵器の運搬手段、保有する戦略的意図、兵器用核物質の保有量などで構成する「標準報告フォーム案」を作成し、核兵器国に提示している。
だが、中国は、米ロなど核大国が他の核兵器国に圧力を加える道具になりかねないこと、自ら核兵器の先行不使用を宣言し、「意思の透明性」を保っていることを理由に一貫して標準フォームによる報告に反対しており、「核軍縮の一義的な責任は米ロ両国にある」「先行不使用で合意することが先決」と従来の主張を繰り返すにとどまっている。
中国は、この国際会議の場で、日本などが主導する透明性確保を目的とする「標準報告フォーム案」に議論が集中することを避けるため、日本の核保有政策を新たな重要問題として取り上げて、参加各国に日本の核保有と軍事力強化反対を訴える狙いがあると考えられる。
また中国は、一部の日本政府関係者による核保有論を取り上げ、言論の即時撤回を求めており、国際社会に対しても日本の核保有につながる一切の支援を抑制するよう呼びかけている。
これは、中国が得意とする三戦(輿論戦、法律戦、心理戦)の一環であり、国際的な場で非難を繰り返し、日本の権威の失墜と影響力の低下を目的とした「国際世論戦」である。今後も高市発言に限らず、歴史認識問題や軍事力強化などに絡めた対日批判が繰り返される可能性が高いだろう。
■

藤谷 昌敏
1954(昭和29)年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程卒、知識科学修士、MOT。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ、サイバーテロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、金沢工業大学特任教授(危機管理論)。
編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2026年1月22日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。






