
最近話題の安野たかひろ氏の発言から、日本の制度設計の根源的な問題について考えました。
チームみらいの安野たかひろ党首が、
“年収の壁”は毎回政治マターになる、103万円という数値が法律に書かれているから、変更のたびに時間とコストがかかる。最低賃金や物価指数などに連動する仕組みを作って合意すれぱ、政治が毎回介入しなくて済む。社会の変化に対応する早い政府を目指す
という趣旨の発言をしているのを見ました。
これはとても良いことだと思います。
小さな政府の本質は「裁量の極小化」にあり
まず小さな政府志向であることが良いです。小さな政府は一般的には税金が少なく、予算が小さい、というイメージだと思いますが、私は本質的には政府の「裁量が小さい」ことが重要だと思っています。
政府の裁量が増えるとそれは結局、利権、癒着、既得権益の温床になります。それが本来あるべき国の形を歪めてしまい、不公平で非効率的な社会になってしまう。今の日本の問題は端的に言えば、この大きな政府の裁量にまつわる非効率では無いかと思っています。
そういう意味で、安野党首のいう政府の介入が不要な仕組みはとても良いことです。
「年収の壁」と「最低賃金」を連動させる合理性
そしてもう一つ重要なことが、年収の壁、すなわち最低課税所得と最低賃金の関係に言及していることです。
国民民主党の玉木党首の声がけによって、年収の壁があり、それが低すぎる、つまり所得税の対象が広すぎることが問題提起され、広く知られるところとなりましたが、実は年収の壁と最低賃金が連動すべきことは、あまり広まっていないように見えます。これを自動的に連動すべきという主張はとても合理的です。
これがなぜ連動すべきかの説明を改めてしたいのですが、その前に、もう一つ連動すべき重要な指標があります。それが生活保護費です。
これら最低課税所得、最低賃金、生活保護費は実は憲法25条の
「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」
という生存権の基準で一つに繋がっているものです。
生存権を支える「三つの基準」の正体
これらの相互関係を簡単に説明します。
1. 最低賃金とは
「働くことで到達すべき最低生活水準」となる賃金の水準のことです。これは、フルタイムで働けば、人として最低限の生活ができるべき、という理念で作られています。これは憲法25条で定められた生存権を守るための、労働の側面から見た基準になります。そしてこれは、単身者の最低生活費をベースに最低賃金を考える という構造になっています。法律としては最低賃金法で、労働者の生活の安定、労働力の質的向上、事業の公正な競争の確保を目的とする。とされています。そしてこれを決めるのは厚労省「中央最低賃金審議会」です。
2. 最低課税所得とは
国家が「ここまでは生活費だから税を取らない」と認める水準のことです。最低限度の生活費には課税しない、という理念で設定されています。そしてこれは憲法25条で定められた生存権を守るための、税制の側面から見た基準になります。しかしこれは歴史的に基礎控除は103万円、給与所得控除は106万円、公的年金控除は130万円など複数の制度に分散され複雑化してしまい、一元化出来ていない状態になっています。
3. 生活保護費(生活保護基準)とは
働けない・働いても最低生活に達しない人の最終安全網であり、社会全体の「最低生活水準そのもの」のことです。これは 健康で文化的な最低限度の生活を保障する水準は、一般国民の生活水準との均衡を考慮して定めるという理念で設定されており、まさに憲法25条の生存権を直接執行する制度そのものです。生活保護法で定められています。
縦割り行政が生んだ「生存権の分断」という違憲状態
これらをまとめると、憲法25条の生存権を
- 最低賃金:厚生労働省労働側
- 税制:財務省
- 生活保護:厚生労働省福祉側
でそれぞれ定めたもの、という関係になります。
生活保護費は世帯や地域、障害の有無などによって異なりますが、簡便のため非障害者の単身者の生活保護費を想定して、この3者をもう少し具体的に比較してみましょう。
最低課税所得は生活保護費以上でないといけません。
それは、生活保護以下の収入に課税するのは生存権侵害であるためです。
また最低賃金は生活保護費以上でなければいけません。
それは、労働のインセンティブを維持するため、つまり働かない方が得という逆転現象の防止のためです。
現在は、最低賃金が上がっても基礎控除が据え置かれたり、生活保護基準だけが改定されたりと「計算の根拠となる物差し」がバラバラの状態です。
本来、同一基準でなければいけない最低賃金、最低課税所得、生活保護費が別々の複数の制度でバラバラに決められているため、統一できていないという、いわば『生存権の分断』が起きています。これは憲法25条の理念からは『違憲状態』と言っても過言ではありません。
結論:政治の思惑を排した「自動連動制度」の確立を
これは一刻も早く統一すべき問題です。 そして政府や各省庁の思惑、思想、介入ではなく、自動的に連動する制度であるべきです。これはチームみらい、安野党首のAIやデジタル技術の助けを借りるまでもなく、今すぐにでもやるべきでしょう。
それを指摘してくれるチームみらいの提案は、まさに未来志向の政策と言えます。 いや、来るのが遅すぎた未来かもしれませんが、それでも来ないよりはマシです。これは党派や主義主張ではなく憲法の問題なので、生活保護費を加えた連動制度として超党派でチームみらいの提案に乗っていただければと切に願います。
編集部より:この記事は精神科医である東徹氏のnote 2026年1月27日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は東徹氏のnoteをご覧ください。






