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2010年当時、ビジネス書や実用書を記事として紹介している書き手はほとんどいなかった。今も続いているものを数えれば、土井英二氏の「ビジネスブックマラソン」、印南敦史氏の「毎日書評」くらいだろう。
私が寄稿していたアゴラは、当時からYahoo!ニュースへ配信していた。書籍紹介を「ニュース記事」として流していた人間は、当時の日本では私くらいしかいなかったと思う。週3回以上のペースで配信を続けていた書き手は、少なくとも私の知る限りいない。
当時、何を書いていたか。普通の書籍紹介である。事実を淡々と、1200字から1500字で伝える。それだけだ。
ひとつだけ工夫があった。書籍名とamazonのURLを、イントロ100字程度の直後に置いたのだ。今では当たり前の配置だが、当時は「冒頭に書籍名やamazonリンクを出すのは品がない」とずいぶん叩かれた。
だが2026年の今、各メディアの書籍紹介を見てほしい。ほぼ同じ流れになっている。URLの位置ひとつで購買率は10倍変わる。何度も実験したから間違いない。
文字数にも意味がある。1200字から1500字なら1ページに収まる。ネットニュースで複数ページにまたがる長文記事を見かけるが、あれは読まれない。たかだかネット記事である。さらっと伝える。それで十分だ。
このスタイルで15年以上書いてきた。その間、パクリ被害には何十回と遭った。パクった側が著名人で、逆にこちらが疑われたこともある。
コンプライアンス専門家を名乗るコンサルタントに絡まれ、担当していた大手通信企業のメルマガにまで飛び火して慰謝料を取られたこともあった(私は支払っていないが、通信会社が支払った)。私はメルマガの独自性を証明したが、現場の社員がクレーマーに屈した。なんとも情けない話である。
そして「パクられやすい記事を書くほうが悪い」と責任を押し付けられた。まじめにやるほうがバカを見る。身をもって学んだ教訓である。
こうした経験を重ねるうちに、ひとつの疑問が浮かんだ。そもそも、従来の書籍紹介は誰に届いているのか。
15年前と今とでは、読者が変わっている。スマホで記事を読む若い世代は、そもそも本を買わない。丁寧に整えた紹介文は、すでに読書習慣のある層にしか届いていないのではないか。届かない相手に向けて、同じ文体で書き続ける意味があるのか。
そこで昨年から試しているのが「ラノベ調」の書籍紹介だ。ラノベ調と言ってピンとこなければ、若者がスマホで読む文体、と思ってもらえばいい。
たとえば、パートナーシップについての一節。従来の書き方ならこうなる。
助け合って、支え合って、歩幅をそろえて──そうした言葉たちは、一見、愛の形を整えてくれるようでいて、いつのまにか私たちを息苦しくさせていたのかもしれません。
悪くはない。だが、これをラノベ調にするとこうだ。
正直に言う。パートナーシップなんて、正解がないから厄介なのだ。助け合って、支え合って、歩幅をそろえて。──よく聞くフレーズだ。間違ってはいない。間違ってはいないのだが、真に受けてガチガチにやろうとすると息が詰まる。というか、自分たちがそうだった。
伝えている中身は同じだ。だが、体温が違う。距離感が違う。従来の文体が「著者の言葉を読者に届ける」構造だとすれば、ラノベ調は「読者の隣に座って一緒に考える」構造だ。主語が著者から読み手側に移る。だから、本を読まない層にも入り口になりうる。
意外なほど好評だった。考えてみれば当然かもしれない。書籍紹介の目的は、本の内容を正確に伝えることではない。「この本、ちょっと読んでみようかな」と思わせることだ。そのためには、読者がふだん使っている言葉のほうが強い。
確立したスタイルを自分で崩すのは、正直なところ抵抗があった。だが、届かない文章に価値はない。読まれてこそ、書籍紹介だ。しばらくはこの路線で続けてみたい。
尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)
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「読書を自分の武器にする技術」(WAVE出版)







