2026年2月5日、米国とロシアの間で唯一残されていた核軍縮条約「新戦略兵器削減条約(新 START)」が正式に失効したことで、核兵器をめぐる国際秩序は重大な転換点に立たされている。これは約半世紀にわたり核軍縮を支えてきた枠組みが実質的に消滅したことを意味し、核軍拡の自由化と新たな競争を生む懸念が高まっている。

プーチン大統領とトランプ大統領 2025年8月 クレムリンHPより
新STARTは2011年の発効以来、米露両国による戦略核弾頭とその運搬手段の数を制限すると同時に、査察、データ共有などの透明性確保措置を提供してきた条約である。両国は当初1,550発の配備戦略弾頭と700基の戦略運搬手段の上限を定め、戦後の核軍縮の基盤を形成した。
しかし、ロシアが2023年に条約上の査察制度を停止して以降、制度的効力は弱体化しており、2021年の5年延長期限を経ても後継協定が成立しないままの失効となった。
世界の軍縮体系消滅と核不透明性の拡大
この失効は単なる米露間の合意消滅以上の意味を持つ。新 STARTは数的制限に加え、核兵器配備・移動に関する通知や現地査察などの検証メカニズムを提供し、核大国間の信頼醸成に寄与してきた。これらの仕組みが消えることで、誤算や誤認識を招くリスクが高まるとの指摘がある。
一部の専門家は、今回の条約失効が核軍縮時代の終焉を象徴する出来事と位置づけている。国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、米露両国の核弾頭制限がなくなったことを「重大な時期」と表現し、新たな協定の必要性を強調している。
米国の対応と「新枠組み」の模索
米国政府は条約延長の代わりに、より広範な三国枠組みの構築を目指す方針を示している。トランプ政権は、米露協定に中国を加えた新たな軍縮交渉を提案してきたが、中国側は核兵器保有規模の差異を理由に参加を拒否している。
この立場の違いが条約失効の一因となり、今後の核軍縮協議をより困難なものにしている。
中国の核兵器開発と新たな競争環境
核軍拡競争の舞台は二国間から多国間へと変容しつつある。中国は核兵器保有数を急速に増加させており、2025年時点で約600発の核弾頭を保有すると見積もられているほか、2030年代までに大幅な増強が予測されている。(ガーディアン)
また、米国は中国の核能力の急成長を懸念材料として挙げ、条約後の軍備管理交渉に中国を含めるべきだと主張している。中国側は、核軍縮交渉には米露間の制約を先に復活させるべきだとしており、多国間協定への参加には消極的であると述べている。
核軍縮の終焉は「無法時代」への危険な転換点か
新 STARTの失効は、核兵器の数的制約と透明性の確保という国際秩序の基盤を失うことを意味する。これまで軍縮交渉の枠組みとして機能してきた条約が消滅したことは、核大国間の緊張が高まる中で、規範と検証のない無法状態に近い核管理環境を生む可能性を示唆している。
特に、核戦力の増強と透明性の欠如は、誤算や相互不信を誘発し、新たな核軍拡競争の激化と安全保障の不安定化を引き起こしかねないとの懸念が国際社会で強まっている。






