ロシアの反体制派活動家ナワリヌイ氏の没後2年

ドイツ南部バイエルン州の州都ミュンヘンで13日から3日間、第62回「ミュンヘン安全保障会議」(MSC)が開催され、50人以上の国家元首、政府首脳たちが集まり、国際情勢、欧州の防衛政策と大西洋関係の危機などのテーマで意見の交換を行う。昨年は米国からJ・D・ヴァンス副大統領が出席し、欧州諸国に挑発的な発言を投げかけて話題を呼んだ。今年は米国からはマルコ・ルビオ国務長官が参加するほか、民主党のカルフォルニア州ギャビン・ニューサム知事やミシガン州のグレッチェン・ホイットマー知事といったトランプ大統領の批判者もミュンヘン会議に出席する予定だ。

ミュンヘン安全保障会議は13日、フリードリヒ・メルツ独首相による基調講演で正式に開会された。MSCのヴォルフガング・イッシンガー議長によると、会議には欧州連合(EU)委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長、北大西洋条約機構(NATO)マルク・ルッテ事務総長、中国の王毅外相のほか、ベネズエラの野党政治家でノーベル平和賞受賞者のマリア・コリーナ・マチャド氏がビデオリンクで参加する予定だ。イラン亡命者のレザ・パフラヴィー氏もミュンヘンを訪問する可能性があるという。ロシアは、2022年2月にウクライナ侵略戦争を開始して以来、会議に代表を送っていない。

「プーチン大統領は夫の死に責任がある」と訴えるユリア・ナワリヌイ夫人(2024年02月16日、ミュンヘン、MSC公式サイトから)

ところで、MSCといえば2年前(2024年2月16日)の事を思い出す。ロシアの著名な反体制派活動家アレクセイ・ナワリヌイ氏(47)がシベリア北極圏ヤマルの刑務所で死去したという報道が伝えられ、ユリア・ナワリヌイ夫人がMSCで「プーチン大統領は夫の死に責任がある」と涙声で訴えたのだ。今月16日はナワリヌイ氏の没後2年目に当たる。

ナワリヌイ氏 同氏SNSより

ユリア夫人は当時、ビデオメッセージでは、「プーチンは自身を敬虔な正教徒と自称しているが、夫の遺体をもてあそぶ悪魔主義者だ。夫を拷問し、彼の遺体を傷つけている。彼はあらゆる人間の法則と神の法を破っている。プーチンはロシア正教の教会でろうそくを手にポーズをとり、聖像にキスをしているが、実際には憎しみと復讐心によって動かされている」と述べていた。

ナワリヌイ氏は2023年末、新たに禁錮19年を言い渡され、過酷な極寒の刑務所に移され、厳しい環境の中、睡眠も十分与えられず、食事、医療品も不十分な中、独房生活を強いられた。刑務所管理局は当時、「ナワリヌイ氏は流刑地で散歩中、意識を失って倒れた。救急車が呼ばれ、緊急救命措置が取られたが無駄だった」と説明していた。

ナワリヌイ氏は2020年8月、シベリア西部のトムスクを訪問し、そこで支持者たちとモスクワの政情や地方選挙の戦い方などについて会談。そして同月20日、モスクワに帰る途上、機内で突然気分が悪化し意識不明となった。飛行機はオムスクに緊急着陸後、同氏は地元の病院に運ばれた。症状からは毒を盛られた疑いがあったため、2020年8月22日、ベルリンのシャリティ大学病院に運ばれ、そこで治療を受けた。

ベルリンのシャリティ病院はナワリヌイ氏の体内からノビチョク(ロシアが開発した神経剤の一種)を検出し、何者かが同氏を毒殺しようとしていたことを裏付けた。ロシア側は当時、毒殺未遂事件への関与を否定した。

ナワリヌイ氏は2021年1月17日、ドイツのベルリンからモスクワ郊外の空港に帰国直後、拘束された。そのニュースが報じられると、モスクワを含むロシア全土で同氏の釈放を要求する抗議デモが行われた。モスクワで4万人の市民がナワリヌイ氏の早期の釈放を要求するデモに参加した。気温の低いシベリアのノボシビルスクでも約4000人が路上デモに参加した。

ナワリヌイ氏はロシアに帰国すれば,、拘束されることを知っていたが、モスクワに戻った。プーチン政権を打倒するためには、ロシア内で国民を民主化運動に巻き込まなければ難しいことを知っていたからだ。

ロシアの著名な哲学者アレキサンダー・ジプコ氏は独週刊誌シュピーゲル(2023年7月8日号)とのインタビューの中で、「プーチン氏は生来、自己愛が強い人間だ」と述べる一方、「ロシア国民は強い指導者を願い、その独裁的な指導の下で生きることを願っている。ロシア人は自身で人生を選択しなければならない自由を最も恐れている」と語っていた。

プーチン大統領は自由を享受する欧米社会を退廃した文化と軽蔑し、(自由を恐れる)国民を強権で統治し、ロシア民族の優位性を豪語してきた。それに対し、ナワリヌイ氏は国民の覚醒を願い、24年3月の大統領選では「プーチンのいないロシア」を呼びかけた。しかし、ナワリヌイ氏は、ロシア人の、ロシア人による、ロシア人のための民主化された祖国を見ることなく、47歳の若さで刑務所で亡くなった。

なお、ナワリヌイ氏はアカデミー長編ドキュメンタリー賞(2023年3月)を受賞した映画「ナワリヌイ」の中で、ロシア国民に何をメッセージに残したいかという質問に対し、「悪なる者が勝利するのは、(それを阻止するために)他の者たちが何もしなかった時だ。だから、諦めてはならない。強く雄々しくあってほしい」と答えていた。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年2月14日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。