人は何のために「断食」をするか

今年のキリスト教(主にカトリックや伝統的なプロテスタント)の四旬節(レント)は18日に始まった。四旬節は18日の「灰の水曜日」から復活祭(イースター)前日の土曜日まで、日曜日を除いた40日間の準備期間を意味し、イエス・キリストが荒野で断食した期間にちなみ、祈り、節制、断食などをして回心と準備を行う期間だ。四旬節の期間中は教会では節制が求められ、特に「灰の水曜日」と「聖金曜日」は大斎(1日の食事を1回にする)と小斎(肉食を控える)が守られる。

四旬節の初日「灰の水曜日」、バチカンニュースから、2026年2月18日

なお、キリスト教の「四旬節」とイスラム教の「ラマダン」が同じ日に始まるのは1943年以来で83年ぶりだ。世界のキリスト信者とイスラム教徒が同じ日に「断食と祈りの期間」に入るということは歴史的、宗教的に見ても意味深い出来事だ。ちなみに、2026年はラマダンと四旬節に加え、旧正月(2月17日)もほぼ同時期に重なる極めて稀な年であり、このような重なりは1863年以来163年ぶりとされている。

この期間は、キリスト教徒とイスラム教徒の双方が祈りと断食を行う「共有された聖なる季節」として、世界各地で宗教間の対話や平和への祈りが呼びかけられている。 前日はラマダンでのイスラム教徒の断食について書いたが、今回はキリスト信者の断食について少し考えてみた。キリスト教ではイスラム教とは違い、断食は義務ではない。あくまでも自発的な個々の決定だ。

聖書によると、イエスは40日間の断食をし、その直後、「あなたが神の子であるなら、石をパンになるように命じてごらんなさい」という悪魔からの試みを受けている。旧約聖書ではエジプトで奴隷生活していたイスラエルの民を神の約束の地カナン(現在のパレスチナ地域)に導いたモーセも40日間の断食をしている。預言者エリアも断食している。なぜ「40日間」かはここでは詳細に言及できないが、人間が悪魔の誘惑から離れるために償い期間、再出発への準備期間として数字「40」が聖書ではよく登場する。

ところで、現代人は断食を健康療法の手段と考える傾向がある。管理した断食は健康にもいいが、無計画で始めた場合、健康に悪影響が出ることがあるから要注意だろう。

ドイツのカトリック通信は四旬節の開始を受け、どれだけの国民がこの期間、断食するかの調査を実施し、その結果を報告していた。ドイツでイースターまで断食する予定のキリスト信者はわずか13%だった。これは、中央ドイツ教会新聞「Glaube+Heimat(信仰+祖国)」の依頼でInsa-Consulereが実施した調査結果だ。回答者2,000人のうち79%が断食するつもりはないと回答した。残りは無回答だ。調査によると、断食への意欲が最も高いのは18歳から29歳の層で、29%だった。四旬節を断食に充てたいと考えている人の数は、年齢が上がるにつれて減少している。

四旬節もラマダンも断食は基本的には健康のためではなく、悔い改めや感謝の思いを込めて行う宗教的な業だ。スイスの典礼学者ミリアム・ヴェネマン氏は「灰の水曜日」の18日、ポータルサイト「kath.ch」のインタビューで、断食について、「より自由になるために意識的に禁欲すること、そして視野を取り戻すために自分自身を制限することだ」と述べた。この意味で、「灰の水曜日」は第2の、より静かな新年のような役割を果たす可能性があるという。

同氏はまた、「スピード、消費主義、パフォーマンスの向上、そして完璧主義が特徴的な社会において、意識的にそれらの中断を招く断食は少々反抗的に感じられるかもしれない。しかし、私たちは全てをコントロールできているわけではないこと、常に機能し、常にオンラインであり、完璧である必要はないことを断食は思い出させてくれる。断食の効用が宗教的な文脈を超えて人々に共鳴を与えていることは容易に理解できる」と語っている。

ちなみに、「灰の水曜日」は四旬節の初日だ。聖書において「灰」は伝統的に、自分の罪を悔い改めることや、人間がいつかは死んで塵に帰る「はかなさ」の象徴だ。神父が信者の額に灰で十字を描くのは、「忘れてはならない。あなたは塵であり、塵に帰る」あるいは「悔い改めて福音を信じよ」というメッセージが含まれている。

ちなみに、イエスは人に見せるための断食を批判し、「断食をする時は、陰気な顔つきをするな。頭に油を塗り、顔を洗いなさい」と述べている。断食は人に見せるパフォーマンスではなく、隠れたところにおられる父(神)との個人的な関係で行うべきものだというわけだ。(「マタイによる福音書」第6章)。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年2月20日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。