「旧姓単記」で夫婦同姓か夫婦別姓かという問題はなくなる

池田 信夫

高市首相は、夫婦同姓のまま旧姓を通称として単独で使える旧姓単記を可能にする法改正を検討するよう法相に指示しました。

旧姓単記が実現すれば、たとえば高市早苗さんの夫の高市拓さんは、免許証などの公的書類でも「山本拓」という名前を使えるわけですが、そうするとどうなるんでしょうか?

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Q. 旧姓の単独使用を法律で認めると、どうなりますか?

現在でも住民票・マイナカード・免許証などに旧姓の併記は可能ですが、単独使用が可能になると職場・論文・名刺・契約を全部旧姓で統一できますが、法制度は変わらないので、

  • 法律上の氏:戸籍名
  • 社会上の氏:旧姓

というダブルネームになります。これが定着すると

  • 子どもも通称を使う
  • 家族内で姓が複数化
  • 戸籍だけが例外になる

戸籍を見る人は家族以外にはいないので、法律は同姓だが、社会は別姓という状態になり、選択的夫婦別姓に近づきます

Q. しかし海外では旧姓は使えませんね?

パスポートの氏名は(ICAOの規定で)legal nameしか使えません。これは今は戸籍名なので、パスポートに旧姓は使えません(併記できるが入管は通れない)。

このため国内法で旧姓単記を可能にしても、パスポートとそれ以外の公的書類で二重になります。

Q. ダブルネームは犯罪などセキュリティ上の危険がありますね?

はい。ダブルネーム(法的氏名と通称の併存)は、利便性と引き換えに“本人確認の曖昧さ”を増やすため、なりすましのリスクが確実に増える仕組みです。

問題の本質は「名前が本人確認の鍵である社会」で複数の鍵を持つことにあります。セキュリティの原則は

一人=一意の識別子

です。ダブルネームはこれを壊します。

Q. 旧姓単記でセキュリティを守るにはどうすればいいでしょうか?

旧姓単記(=社会では旧姓だけを使える)とセキュリティ強化は両立しにくい。なぜなら本人確認が「名前」に依存している限り、法名と通称の分離=照合の不一致が必ず発生するからです。

したがって対策は、名前で本人確認しない仕組みに変えるしかない。ポイントは「旧姓を認める」のではなく「名前を識別子から外す」ことです。

Q. マイナンバーを法的氏名にすればいいわけですね?

はい。現在の日本は

  • 本人確認:戸籍名
  • 補助識別子:個人番号

これを逆転させ、

  • 本人確認:個人番号
  • 補助識別子:マイナカードの氏名

とすれば、戸籍名は人格の識別子ではなくなり、夫婦同姓か別姓かという問題は消滅します。

Q. これだと戸籍制度は消滅しますね?

はい。戸籍の役割は

  • 身分関係証明
  • 親子関係
  • 相続
  • 国籍

ですが、これが「家の記録」から「履歴データ」に変わります。これをマイナンバーで可能にする法改正は必要ですが、それが終われば、戸籍は(中国や韓国のように)有名無実となります。

Q. それは実現できるんですか?

マイナカードはすでに普及しているので、それで戸籍を代替することは技術的にも法的にも可能ですが、高市首相はたぶん反対するでしょう。

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コメント

  1. 早川蒼真 より:

    >> Q. マイナンバーを法的氏名にすればいいわけですね?

    「マイナンバーを法的氏名にする」というアイデアには反対します。議論の出発点は、旧姓(例:北条政子)で研究実績を積んできた人が、結婚等で戸籍上の氏名(例:徳川政子)に変わった結果、業績の本人確認の連続性を説明しづらくなる、という実務上の問題です。パスポートの法的氏名欄をマイナンバーに置き換えても、「旧姓で蓄積された実績」との紐付けという根本課題は残ったままです。

    まずはパスポートICAO Doc 9303を紐解いていきましょう。パスポートは次の三領域があります。

    ◆1) VIZ(視覚的確認領域)
    目視確認の領域で、発行国の事情に合わせた柔軟な表記が入り得ます。

    ◆2) MRZ(機械読取領域)
    検査機で読める領域で、制約が強い。とくに、MRZの氏名欄(MRP/TD3)は39文字枠であることが明示されています。 そして、氏名が枠に収まらない場合は、規格として「切り詰め」手順が定められています。

    ここで重要なのは、氏名は規格の中ですら「完全一致する」ことが前提になっていない、という点です。実例として、俳優キーファー・サザーランド氏「24 – Twenty Fourの俳優」の出生名はKiefer William Frederick Dempsey George Rufus Sutherlandです。この文字列は、アルファベットだけでも50文字あり、MRZの氏名欄39文字枠では収まりません。(よって規格どおり切り詰めが発生し得る典型例です)。 つまり、「氏名=一意の主キー」として完全一致照合する発想自体が、MRZの設計思想と噛み合いません。他にも国によってはVIZ、MRZを生まれた時の姓、実用上の姓と異なる形で書いている国が存在して、この手の問題は日本だけの問題ではなく国際運用あるあるなのです。

    ◆3) ICチップ(eMRTD)
    eパスポートは、接触式ではなく非接触ICにデータを格納し、規格上「必須の顔画像」を含むバイオメトリクス運用を前提にしています。 さらに、ICには「最低限、DG1(MRZデータの複製)とDG2(顔画像)」を格納し、その他のセキュリティによる“多層の本人確認”が前提です。

    で、日本の旅券は、現行運用では旧姓等を括弧書きで併記は基本的に券面(VIZ)上の扱いに留まり、機械処理の中核であるMRZやチップ側の主要データ(DG1)に反映しないという形式らしいです。

    池田氏の「一人=一意の識別子」という原則は直観的ですが、旅券の実装はもともと氏名単独で成立していません。
    MRZは39文字枠と切り詰め手順を持ち(=完全一致を前提にしない)、 eパスポートは顔画像等・ICデータ保護・PKIなどの多層で本人性を固める設計だからです。 国際規格がすでに用意している拡張枠を使い、旧姓を「同一人の別名属性」として扱うのが筋が良いと考えます。

    ### 案:DG11(Additional Personal Detail(s))で「Other name」を持つ

    Doc 9303 Part 10では、DG11に「Number of other names」や「Other name formatted…」が規定されており、“他の名前”を属性として複数保持できる枠が明示されています。 ここに旧姓を入れれば、MRZの法的氏名を維持したまま、旧姓を「別名属性」として機械的に提示し得ます。ここでなくてもDG13(Optional Details:発行国裁量)でもいいかもしれません。

    渡航手続の多くはMRZ/DG1中心で回るため、航空券予約名が旧姓単記のままだと摩擦が残る可能性はあります。それでも、研究実績など“旧姓=本人属性”の証明という文脈では、DG11/DG13による補強は合理的です。

    まとめ

    MRZは39文字制限と切り詰め手順を持ち、キーファー・サザーランド氏のような長大な出生名が象徴する通り、氏名は規格内でも“完全な主キー”になりにくい。 その一方で、eパスポートは顔画像等のバイオメトリクスとIC内データの保護・PKIを前提に多層で本人性を担保しています。だからこそ、DG11/DG13といった既存の国際規格の余地を使い、旧姓を“追加属性”として正しく位置づける方向で議論すべきではないでしょうか。