欧州連合(EU)欧州委員会のウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長は10日、パリで開催された原子力エネルギー会議で、「信頼性が高く、手頃な価格で、排出ガスの少ないエネルギー源に背を向けたのは戦略的ミスだった」と述べ、欧州のエネルギー政策の見直しを促した。同委員長によると、1990年には欧州の電力の3分の1が原子力発電で賄われていたが、現在は15%弱に留まっている。

「原子力エネルギーのルネッサンス参加」を主張するウルズラ・フォン・デア・ライエン委員長、欧州委員会公式サイトから
フォン・デア・ライエン委員長はエネルギー政策の転換について、「EUは石油やガスの産出国ではなく、世界の他の地域に比べて不利な立場にある。中東紛争によるエネルギー価格の高騰は、この状況を如実に示している。 近年、私たちは世界的な原子力ルネッサンスを目撃してきた。欧州もこのルネッサンスに参加したい」と主張した。
同委員長の発言は決して唐突に飛び出したわけではない。米・イスラエル軍が先月28日、イランを攻撃、それに対してイラン革命防衛隊(IRGC)らがホルムズ海峡を閉鎖する動きを見せていることから、世界の原油価格は急騰し、インフレが再び上昇する懸念が出てきたからだ。
欧州はロシアの石油、ガスのエネルギーに久しく依存してきたが、ロシアのウクライナ侵攻が勃発して以来、ロシア産の石油・ガスの依存から脱皮が叫ばれてきた。同委員長の発言はその流れ一歩前進させた結論とでもいえるかもしれない。
フォン・デア・ライエン委員長は、「欧州の輸入化石燃料への依存を低減するため、EUは現在、小型モジュール炉(SMR)の開発を推進している。次世代の原子炉開発への投資を促進するための資金はEUの排出量取引制度から拠出される。2030年代初頭までに実用化することが目標だ」と述べた。
EUの欧州委員会は2022年、「ガスおよび原発への投資を特定の条件下で気候に優しいものとして分類する」という通称「EUタクソノミー(グリーンな投資を促すEU独自の分類法規制)」を発表し、原発の利用の道を開いた。欧州委員長の今回の発言は原発回帰を明確に示唆したわけだ。
原子力発電を行っているEU加盟12カ国は2024年、649,524ギガワット時(GWh)の電力を発電し、2023年比で4.8%増加した。原子力発電所はEU全体の電力生産量の23.3%を占めている。EU最大の原子力発電国であるフランスは、EU全体の原子力発電量の58.6%(380,451GWh)を占めている。これにスペインが54,510GWh(8.4%)で続き、スウェーデン(50,665GWh、7.8%)、フィンランド(32,599GWh、5.0%)が続く(欧州委員会公式サイト2026年1月29日)。
欧州で最大の原発操業国フランスのマクロン大統領は既に、2022年にフランスで「原子力ルネッサンス」を宣言している。マクロン氏は2021年、原子力発電を脱炭素化とエネルギー自立の柱と位置づけ、2030年までにSMR(小型モジュール炉)実用化を目指す「国家投資計画2030」を発表している。同大統領は今年3月の演説で、AI競争に勝つための膨大な電力を、原発によるクリーンエネルギーで賄う意欲を示している。
一方、欧州の経済大国ドイツでは2023年4月15日、脱原発時代がスタートした。ドイツの脱原発路線は2000年代初頭の社会民主党(SPD)と「緑の党」の最初の連合政権下で始まり、「キリスト教民主・社会同盟」(CDU/CSU)主導のメルケル政権に引き継がれていった。そしてショルツ前政権時代、残された操業中の原発が停止された。
メルツ現首相は、原子力発電の放棄は戦略的な誤りだったとするフォン・デア・ライエン氏の見解に個人的に賛同すると語る一方、「過去のドイツ政権も原子力エネルギーの段階的廃止を決定した。この決定は不可逆的だ。遺憾ではあるが、仕方がない」と述べている。
また、世界で唯一「反原発法」を施行するオーストリアやデンマークなどの国は原子力発電に反対している、といった具合だ。
ちなみに、EUが推奨する小型原発(SMR: Small Modular Reactor)は、従来の大型原発に代わる次世代の原子力発電技術として注目されている。出力が30万kW以下(大型の約3分の1程度)と小さく、主要な機器を工場で組み立てて現地に運ぶ「モジュール化」が特徴だ。
SMR推進派は、小型モジュール型原子炉を、従来の大型原子力発電所の代替として、より柔軟で潜在的に安全なエネルギー生産を可能にすると強調。原子力業界は「SMRは従来の大規模発電所よりも建設が簡単で、費用対効果と効率性が高い」と主張している。それに対し、SMR反対派は「SMRの普及による新たなリスクが出てくる。SMRの普及は監視を複雑化し、新たな種類の放射性廃棄物の発生も懸念される」と指摘している。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年3月11日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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