中東情勢に対する雑感:ホルムズ封鎖が問いかけるエネルギー安全保障

松尾 豪

Eva Sanabria/iStock

現時点での中東情勢について雑感をコメントします。

1. 今回の事態を予測できたか?

私は1月中旬から米海軍空母打撃群の動向をUSNIニュースで毎週チェックしていました。前回2025年6月のイラン・イスラエル戦争では2個空母打撃群が派遣されました(カールビンソン打撃群とニミッツ打撃群)。

今回は、

  1. 1月下旬、南シナ海で行動中だったエイブラハム・リンカーン打撃群がアラビア海に派遣され、2月中旬にはベネズエラでマドゥロ大統領拘束作戦に従事していたジェラルド・R・フォード打撃群の追加派遣が発表されたこと
  2. 1月下旬より米本土から中東方面に飛行する米空軍の輸送機が大量に確認されたこと

から、「米・イラン間で核合意がない限り、攻撃は不可避」と見ていました。

ここまではよかったのですが…私が見誤ったのは、米軍・イスラエル軍がハメネイ師だけでなく、軍・革命防衛隊・原子力部門の主要幹部を軒並み殺害・排除し、結果として革命防衛隊がBCP機能を発揮して自律的に湾岸諸国に対して猛烈な攻撃を加え始めたことでした。

※殺害されたイラン要人は以下の通り。

  • 最高指導者事務所:ハメネイ師、ゴルパヤガニ最高指導者事務所長、シーラーズィー最高指導者事務所軍事事務局長、ハガニアン最高指導者事務所政務官など
  • 軍:ナシールザーデ国防相、ムーサビ軍参謀総長、海軍・空軍司令官など
  • 革命防衛隊:パクプール革命防衛隊陸軍司令官をはじめ、参謀長・コッズ部隊地域調整官・航空宇宙軍司令官・海軍司令官・情報局長など主要幹部
  • 原子力部門:セイエド・アミール・ホセイン・フェキなど
  • その他、カリバフ国会議長、レザイアン警察情報局長、最高安全保障委員会事務局長アリ・アクバル・アフマディアン少将、シャムハーニー最高安全保障最高評議会顧問など

イラン革命防衛隊は2月28日からVHF無線で「どの船もホルムズ海峡を通行してはならない」と警告を発信しています。更に、米海軍も安全航行が保証できないとして、ペルシャ湾全域・オマーン湾・北アラビア海・ホルムズ海峡での船舶航行を控えるように警告したことで、ホルムズ海峡の通行が完全に止まってしまいました。

流石にこれら事態は全く予見できませんでした。私自身の認識が甘かったと言わざるを得ません。

2. イランによる湾岸諸国への攻撃

国際戦略問題研究所の資料を確認すると、イランはアラブ首長国連邦に対して最も激しく攻撃を仕掛けており、次いでクウェート、バーレーンに対して攻撃しています。

Cumulative confirmed missile, UAV and fighter-jet interceptions by the GCC states
GCC states have intercepted over 500 Iranian missiles and 1,500 UAVs in the first six days of the war. With the United A...

ただ、UAE国防省が公表しているデータを見ますと、弾道ミサイルの発射数は28日に137発を数えたものの、その後は20発以下に収まっており、THAADミサイルによって大半は撃墜されているようです。

問題は自爆ドローンで、毎日100発以上発射されています。これもそれなりに迎撃できていますが、いかんせん発射数が多いため、着弾に至るドローンが一定数あると理解しています。一方で、昨日のUAE国防省発表では18発まで激減していました。UAEでは公務員の自宅待機・リモートワークも解除されたとのことで、何らかの事態好転が期待できました。

今朝トランプ大統領が「戦争は実質終わった」とコメント、AISを切った状態で通過する石油タンカーが出現し、原油価格は急落しました。但し、今後も攻撃は続くようですし、空母ジョージ・H・W・ブッシュが中東に派遣されるほか、第82空挺師団が高濃縮ウラン奪取作戦に投入される可能性が取り沙汰されていると理解しています。まだまだ予断は許さないと理解しています。

米海軍によるホルムズ海峡警備が進めば、脅威は対艦ミサイルや迫撃砲に限られますので、安定航行ができる可能性を感じています。

フランス海軍も空母シャルル・ドゴールをはじめとした12隻の艦隊を地中海・紅海に派遣するようですが、もしホルムズ海峡警備につくのであれば、それなりの対策になるのではないかと感じています。船団護衛だとまとめて攻撃対象になる可能性があると理解しており、必要となるのは艦艇や航空機による海峡地帯のパトロールなのだろうと感じます。

私が心配しているのは液化施設や油田に対する自爆型ドローンや弾道ミサイル攻撃です。

弾道ミサイル対策については、THAADが配備されているサウジアラビアやアラブ首長国連邦はよいのですが、カタールやオマーン、クウェートは心配です。

また、自爆型ドローン(シャヘド)は昨日バプコ社(バーレーン王国公営石油会社)の製油所が被弾したように、炸薬50kg程度のペイロードとはいえ、被弾したエネルギー施設は設備停止に直結し、大きな経済被害をもたらします。ウクライナが自爆型ドローン対策装置の売り込みに入っていますが、湾岸諸国には是非ともシャヘド対策を進めてほしいと感じています。

3. 現在のLNGスポット市場に関する状況

JKMは現時点でUSD16.23/mmbtu、足元のTTFはEUR16.545/MWh(USD19.12/mmbtu)です。北東欧州のDES指標であるSparkNWEはUSD19/mmbtu、南西欧州のDES指標であるSparkSWEはUSD17.06/mmbtuです。

昨日までに進路を変更し、アジア方面に向かったLNG船は7隻。うち1隻は日本の富津に4月12日に入港する予定です。売り主はEDFとはいえ、それ相応の価格で調達したと思われます。その他の買主は韓国勢・中国勢と見られます。

売主はShell・Total Energies・BP・EDF・Qatar Energy・Cheniere Energyでした。上記の価格を見ますと、おそらくJKMよりもずいぶん高値でスポット調達したのではないかと考えます。KOGASは国内在庫の手薄さ(9日間)も相まって「パニック買い」に近い状態だったようです。

現在の価格水準は、概ね足元の需給を反映していると理解しています。Qatar Energyの供給能力は世界LNG供給の19%に相当しますので、長期化すると相応のリスクになります。

Qatar Energyは生産を止めていますが、私は彼らは2月28日からこの事態を予見していたと思います。カタールはLNG生産の原料ガスをNorthfieldガス田に頼っています。ペルシャ湾の海上にガス生産プラットフォームが存在し、毎朝夕にプラットフォームと陸上を往復するヘリコプター定期便が運航しています(機種はアグスタウエストランドAW139)。

ところが今回の事態では、2月28日朝の便を最後に運航されていません。Ras Laffan工業都市への自爆型ドローン攻撃・LNG生産停止は3月2日。実に手際が良かったため、私はQatar Energyが2月27日夜までに早期のフォースマジュールも想定していたのだと考えています。

Qatar Energyのフォースマジュールを受けて、スポット用船料も暴騰しています。非常に困った状況です。

4. 長期化した場合の影響

製油所は一旦停止すると立ち上げに1週間から数週間かかります。また、設備に被害も出ているようですので、更に時間がかかる可能性があります。

修復・スタートアップに要する時間と、輸送に要する時間を鑑みると、日本の石油備蓄を放出しても、ラスト2か月ほどは余裕がなくなってくると感じています。一刻も早い通常生産・運航再開を願うばかりです。

LNGは大変です。現在のスポット市場における売り手は欧州勢ですが、これは残り少なくなっているUGS(地下ガス貯蔵施設)在庫を更に取り崩す結果になりかねません。私は欧州委員会の欧州ガス貯蔵規則緩和は本質的に大失敗だったのではないかと感じ始めています。

欧州は例年4月下旬から5月上旬にかけてUGS在庫積み増し用のLNGを調達しはじめます。6月頃になってくると極東勢も夏場のLNG在庫確保に動きます。5月下旬まで緊迫した事態が続いた場合には、極東勢と欧州勢でLNGの「争奪戦」になる可能性はあると思っています。

また、カタール依存度の高いパキスタンではブラックアウトのリスクも指摘できます。インドでは既にGAILなどが天然ガス供給量の削減を決定しており、決して他人事とは言えない状況になっていると考えています。

しかしながら、日本では電源構成におけるカタール・UAEの比率は2%程度とみられ、オマーンを含めても推定4%程度でしかありません。基本的に他の電源や他地域産LNGを活用していくことでカバーできる範囲と理解しています。

問題はスポット調達分の価格高騰リスク・量の安定確保リスクと、長期契約分の原油価格高騰に伴う価格高騰リスクと理解します。今回のインプリケーションは「LNGについては基本的には長期契約で全量近くをカバーしつつ、原油先物でのヘッジが肝要」と言えるのではないでしょうか。

5. 石炭に対する動き

カタールにLNG輸入の33%を依存する台湾では、経済部が一般炭在庫の積み増しを検討しているほか、廃止した新塔発電所(石炭火力)1~4号機の再稼働を認める方針を明らかにしています。インド電力省は緊急石炭輸入指令の発出に向けた準備を進めているほか、イタリアもエネルギー大臣が一部石炭火力の再稼働を認める可能性があるとコメントしています。

これらを受けて、高品位炭を求める動きが加速し、Newcastle石炭先物は一時USD150/tを記録しました。昨冬以来の水準です。しかしながら、ここで注意しなくてはならないのは、4月限はUSD140を超えたが、それ以外は殆ど超えていないという事実です。

昨年12月の段階では、一般炭の設備投資、特に選炭工場や新規鉱区開発、M&Aに値する水準はUSD140/tと言われていました。今回、ほとんどその水準を超えなかったのは、GlencoreやYanCoal等の事業者による「投資意欲の低さ」を見せつけさせられる結果になったのではないかと懸念しています。

先日の日本経済新聞「『中東緊迫で石炭価格にも上昇圧力』LNGから転換需要、識者に聞く」では、Commodity Insightsから豪州炭について恐ろしい見通しが示されています。

「中東緊迫で石炭価格にも上昇圧力」 LNGから転換需要、識者に聞く - 日本経済新聞
脱炭素の潮流が続く一方、世界では人工知能(AI)に伴う電力需要の増加や、中東情勢緊迫化による天然ガスの供給懸念などを背景に、石炭への見直しが静かに進む。日本の電力会社は不確実性にどう備えるのか。日本の発電最大手JERA幹部と、豪州石炭調査会...

「(石炭原価は)長期的にはインフレに伴うコスト上昇を踏まえると、30年代半ばには170ドル程度」「豪州炭の供給は30年代半ばまでに大きく減少すると予測」とあります。これはこの場も含め、各方面で私が散々指摘してきた問題です。2030年代は、現在と同じような石炭火力の利活用は極めてハードルが高く、以下選択肢のいずれかを考えていく必要があります。

① 国内石炭火力のリプレイスを認めながら、炭鉱維持に向けて買い支え・外交努力により炭鉱許認可の迅速化
② 国内既存石炭火力の維持に向けて最大限努力し、炭鉱維持に向けて買い支え

私は①は不可能だと思っています。発電事業者自身もリプレイスの決断はできないでしょうし、新規でBTGを納められるメーカーも存在しません。政府が石炭火力発電会社を設立しない限り、取り得る手段は②であり、並行してLNG火力電源の開発も必要だと考えています。

6. ホルムズリスクを鑑みたカタール産LNGの将来

現在、革命防衛隊に対しては「軍閥化しているのではないか」「最高指導者が統制できているのか」といった声が上がっています。私も同感で、弱体化したイランのリスクは想像以上に大きいと思っています。私はカタール・UAEのLNGは「安い」とはいえ、今回の事態を受けて、長期契約締結に躊躇する需要家が増えると思っています。

また、建設遅延が伝えられていたNorthfield East(NFE)プロジェクトも、2027年初頭に運開時期が後倒しになると発表がありました。元々の運開予定は2026年Q3でした。私は、今回の事態を受けて更なる工事遅延に繋がり、運開は2028年初頭と見ています。NFEがなければ極端なLNG供給余剰には繋がらず、JKM暴落や石炭火力との限界費用逆転には繋がりません。

LNG余剰によって生じる様々な課題は、少し問題を先送りにできたのではないかと感じています。

7. 豪州産LNGの復権

今回の事態は、環境意識の高さや訴訟リスク等様々な課題を抱え、行政・事業者共に撤退方向だった豪州との関係を見直すきっかけになると感じています。

こちらの出張報告で明記した通り、豪州のLNGはバックフィルガス開発の課題も抱えており、コストが上昇傾向であることから、カタール産LNGに対しては競争力の劣後が懸念されていました。

ところが、今回の事態は、ガス需要家において「少しくらいなら高くとも地政学リスクの低い豪州産LNGを買う」といった意欲に繋がる可能性があります。日豪関係は防衛協力も含め、これからが正念場です。今回の事態を奇貨に、関係強化に繋がることを期待します。

8. 原子力発電所や再エネの意義

今回の事態は、エネルギー自給率向上の必要性を改めて突き付けられたと理解しております。

核燃料の再装荷が必要ですが、柏崎刈羽原子力発電所7号機は「今使える」電源です。2025年にカタール・UAEから輸入したLNGは343万トンであり、これはLNG火力で340億kWh程度に相当します。

仮に柏崎刈羽原子力発電所6・7号機が設備利用率80%で1年間運転すると189億kWh。価格(電気料金への影響)はカバーできませんが、量(電力需給への影響)はカバーできます。

勿論、再生可能エネルギーの導入拡大も重要です。エネルギー自給率向上に向けた議論が必要だと考えます。

9. エネルギー安全保障の議論は製油所にも通用するのか?

日本は石油製品需要が減少傾向で、石油元売りの経営統合などが進む中で、政府も事業者も経済性を前提とした原油調達・トッパー運用となっていたと理解しています。S+3Eは電気事業・電源構成についての議論が多いですが、これは製油所・原油調達についてもいえると感じています。

国際情勢が急激に悪化する中で、今後検証・議論が必要なのだろうなと感じております。


 

(編集部より)この記事は、松尾 豪 Go Matsuo@gomatsuoのポストを、許可を得た上で転載いたしました。

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