『誘拐大国』日本の現実:共同親権法改正で実子誘拐はなくなるのか

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この4月に離婚後共同親権への法改正が行われる。これまでの単独親権制度のもとでは、親権争いを有利に進めるため、相手の合意なく子供を連れ去り居場所を隠す「実子誘拐」が問題となってきた。国境を越えて連れ去られるケースもあり、国際問題にもなっている。

法改正によって、この実子誘拐問題は解決に向かうのだろうか。アメリカ在住のTさんのケースを紹介しながら、考えていきたい。

1歳の娘が突然連れ去られた

Tさんはアメリカ・カリフォルニア州在住の日本人だ。2023年12月16日未明、当時1歳1カ月だった娘が、Tさんの妻によってアメリカの自宅から連れ去られ、無断で日本へ移送された。その前日の夜には、妻がTさんに野菜スープを提供した。普段は夜中に目を覚ます習慣のあるTさんが、その夜だけ強烈な眠気に襲われ、午後8時から翌朝8時まで一度も目覚めなかった。

Tさんが朝8時頃に目覚めると、妻と娘の姿がなく、キッチンの棚に保管していた娘のパスポートも消えていた。すぐに911に通報し、10分ほどでサンタクララ郡警察が到着した。警察は午前9時頃、全米の空港から出国できないよう手配してくれたが、すでに出国済みだった。

翌17日には日本国内で娘の住民票が既に書き換えられていたといい、Tさんは「事前に帰国後の段取りまで完全に準備されていたことがわかります」と捉えている。

当日、野菜スープを飲んだ後に一度も目を覚まさなかったことについてTさんは、「計画的に薬物を使用したことを強く示唆しています」と話す。

妻は事前に友人Aさんとのテキストメッセージのやり取りの中で、「夫が夜中に目を覚ますことが多い」という点を計画上の障害として言及していたといい、妻がTさんの睡眠状況を事前に把握し、計画の支障となりうる要素として友人に報告していたからだ。

動かない日本の警察と裁判所

友人Aさんは、12月8日の段階で妻の行為について「誘拐の罪になる」と指摘しており、妻はそれを認識していたことがメールに記されている。そして12月15日(実行前日)には妻が「彼は私が飛行機を予約したことを知らない。こっそり出ていくつもり」と書いており、犯罪であると知りながら計画的に実行したことが証明されている。

誘拐後、妻側から毎月約10万米ドル(約150万円)の養育費の要求がなされた。これは日本の弁護士からなされたもので、Tさんは「これらは事前準備なしには実行できないものであり、弁護士による事前の法的戦略があったと強く疑っています」と話す。

国境を越えた子の連れ去りはハーグ条約に違反する。Tさんは、ハーグ条約に基づき東京家庭裁判所に子の返還を申立てたが、2024年3月19日に却下。東京高裁への即時抗告も棄却された。小田原警察署への告訴状も不起訴処分となった。

明確な条約違反であるのに、なぜ日本の裁判所や警察は動かないのか。Tさんは、「根本的な問題として、日本の司法・行政は『親権は親の問題』という意識が強く、国際的な基準よりも国内的な慣習が優先される傾向があります。米国を含む諸外国からは『ハーグ条約の精神を履行していない』と強く批判されていますが、現状は改善されていません」と憤る。

米国議会の動き

アメリカ・共和党のクリス・スミス下院議員(ニュージャージー州選出)は、長年にわたり日本による実子誘拐問題を追及してきた議会の第一人者だ。2024年4月、当時の岸田文雄首相に直接手渡した書簡の中で「現在までに500名以上のアメリカ人の子どもが、一方の親によって日本に連れ去られ、もう一方の親と引き離されている」と明記している。

スミス議員はまた、2014年に成立した「Sean and David Goldman国際的子の奪取防止・返還法(Goldman Act / ICAPRA)」の立法者でもあり、日本を含む条約非遵守国に対してより強力な制裁措置を求め続けている。

2024年9月10日、米国下院外交委員会「グローバル保健・人権・国際機関小委員会」において、「ゴールドマン法施行10周年:ハーグ条約違反国の責任追及と誘拐されたアメリカ人の子どもの帰還」と題した公聴会が開催された。

委員長のスミス議員が開会挨拶を行い、ゴールドマン法(ICAPRA)が2014年の成立以来、法律に定められた制裁などの強力な手段が実質的に1度しか発動されていないことへの強い懸念を表明した。また、日本がハーグ条約批准(2014年)以前の誘拐案件で解決したのはわずか4件にとどまることも指摘した。

「ABDUCTION(誘拐)」と明記された米国公文書

Tさんの娘が連れ去られた直後の2023年12月20日、Tさんは米国国務省に電話で状況を報告した。その7日後の12月27日付けで、国務省子どもの問題局(Office of Children’s Issues)のChristopher Abrams担当官から公式レターが届いた。

米国国務省からTさんに届いた公式レター

このレターには「ABDUCTION(誘拐)」という言葉が明記されており、米国国務省がTさんの事件を誘拐事件として公式に認定していることを示している。このレターは、米国政府が娘の誘拐を公式に認知し対応を開始したことを示す重要な公文書と言える。

しかしその後、FBIへの国際逮捕状の発行要請に対しては「米国裁判所による親権命令がなければ動けない」との回答があり、カリフォルニア州裁判所はハーグ条約の手続きを取るよう指示するのみだったという。Tさんは、「日本が条約を実質的に機能させていない現実の中、被害者は制度の狭間に置かれたままとなっています」と訴える。

今年4月の共同親権への法改正について、Tさんは「海外被害者たちの中でも期待している人はいません。私も期待していません」という。その理由について、「今までと同じ『実子誘拐を良しとする人間たち』によって運用されるからです」としている。

同じ境遇のすべての被害者のための闘い

Tさんは、「もはや世間から注目されなくなった実子誘拐事件の実態を、世界に向けて発信し続けるため」として、「Japan Abduction Watch」というサイトを立ち上げた。

最大の特徴は、実際の裁判記録をそのままアップロードし公開していることだ。日本の家裁・高裁の決定書、告訴状、証拠書類といった一次資料を公開することで、「日本の司法がどれほど条約の精神から逸脱した判断を下しているかを、誰もが検証できる形で示したいと考えた」という。

また、誘拐に加担した人物の実像を明らかにすることも目的の一つだ。実子誘拐は「親権争い」という言葉の影に隠れ、加害者の行為の悪質さが見過ごされがちだ。

Tさんは、

「計画的な薬物使用、事前の弁護士との謀議、職場への虚偽の中傷電話、金品要求といった行為の詳細を公開することで、これが単なる家族問題ではなく犯罪行為であることを示したいと考えています」。

「日本が世界から『誘拐大国』と呼ばれているにもかかわらず、国内ではこの問題がほとんど報道されず、被害者は孤立して諦めていきます。このサイトを通じて、国際社会の注目を集め、日本の司法制度の問題点を世間に広く知ってもらうことが、私の、そして同じ境遇のすべての被害者のための闘いです」

と話している。

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