ブランシャールの「ゼロ金利の財政政策」は今は使えない

高市政権が経済財政諮問会議に呼んだブランシャールとロゴフが積極財政に反対し、「後ろから石を投げた」と話題になっているが、これは彼らの本もろくに読まないで呼んだ日本側が悪い。

21世紀の財政政策 低金利・高債務下の正しい経済戦略
オリヴィエ・ブランシャール
日経BP 日本経済新聞出版
★★★★★

財政ハト派だったブランシャールはタカ派にもどった

たしかにIMF元理事で財政タカ派として知られたブランシャールが2019年のAEA会長講演で「需要不足でゼロ金利が続くときは財政赤字が必要だ」と主張して財政ハト派になったインパクトは大きかった。その後のコロナの大規模な財政出動も彼の理論を裏づけるようにみえた。

ブランシャールは、先進国ではデフレとゼロ金利が今後50年続くというサマーズの長期停滞理論にもとづいて「この需要不足は長期停滞による構造的なものだから、金融政策は無効で財政政策が有効だ」と考えた。そのショーケースが日本だった。

本書の原型は2022年に書かれた“Fiscal Policy Under Low Interest Rates”という長い論文で、これはその名の通りゼロ金利で金融政策がきかないとき、財政は何をすべきかを考え、MMTの機能的財政も評価するものだった。

しかし2023年に日本で『21世紀の財政政策』が出たころは、状況が大きく変わっていた。コロナ後も続けられたバイデン政権の「高圧経済」で激しいインフレが起こり、ウクライナ戦争で世界的な資源インフレになった。

政治家のみなさんは今ごろ周回遅れで都合のいい部分をつまみ食いしているが、今ブランシャール自身はAEA講演の見解を修正している。少なくともアメリカのゼロ金利は構造的なものではなかった。日本もそうではないことがわかってきた。

世界的なデフレは過剰債務の解消だった

サマーズが2013年に提唱した長期停滞論も日本を念頭に置き、世界が「日本化」するという話だったが、彼が予告していた新著『長期停滞論』はいつまでたっても出版されず、とうとうアマゾンの予告もなくなってしまった。

これに対してロゴフは、2010年代の世界的な長期不況は例外だったという。それは2008年以降の世界金融危機で過剰債務が解消され、企業が銀行に借り入れを返済すると、債務が減って貯蓄過剰になるので、金融政策はきかなくなる。日本は90年代からずっとそれが続き、量的緩和しても変わらなかった。

ロゴフの資料(内閣府)

この状態では財政政策が有効になるが、それが過剰になるとインフレをもたらす。ブランシャールも最近はバーナンキとの共著論文でコロナとウクライナ戦争後のインフレを分析し、その原因はバイデン政権の過剰な財政支出だと結論した。それをFRBが軽視してインフレを拡大したのも失敗だった。

インフレで金利のある世界では金融政策はきくので、財政政策による景気刺激は必要ない。高市首相のいう「政府投資で潜在成長率を上げる」というのは錯覚である。潜在成長率は政府の介入しない民間の最大成長率だから、政府投資を増やしても(定義によって)上がらない。

いま日本の潜在成長率は0.5%程度なので、政府がやるべきなのは労働市場改革などによって潜在成長率を上げることだ。特に今後はエネルギー供給が成長率を制約するので、原子力や石炭などエネルギーの多様化が必要だ。需要不足ではないので、補助金などの財政出動は必要ない。

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