米国はイランとの戦争に「勝っている」のか。それとも、すでに負け始めているのか。
この問いに対し、外交専門誌フォーリン・アフェアーズに掲載された論考「Why Escalation Favors Iran(なぜエスカレーションはイランを利するのか)」は、きわめて不都合な現実を突きつけている。すなわち、軍事的に優位に立つはずの米国とイスラエルが、エスカレーションそのものによって戦略的に不利な立場に追い込まれているという指摘である。
同論文の核心は明快だ。
イランは正面戦争で勝つ必要がない。むしろ、戦争を拡大し、長期化させることで勝利に近づく。実際、論文は過去の事例を引きながら、圧倒的な空軍力を誇る米国であっても、敵が戦場を拡張する「水平的エスカレーション」によって戦略目標を達成できなかったケースを指摘する。ベトナムやセルビアでは、空爆の優位は決定的勝利に結びつかなかった。
この構図は、現在のイラン戦争においても再現されつつある。
イランはすでに、戦場を国家領域の外へと拡張している。米軍基地、湾岸諸国のエネルギー施設、さらには国際航路に至るまで、攻撃対象は分散し、拡大している。実際の戦闘でも、ホルムズ海峡の封鎖や周辺地域への攻撃により、世界経済そのものが揺さぶられている。
これは偶発的な反撃ではない。
むしろ、意図された戦略である。
同論文が示唆するように、イランは軍事的勝利ではなく、コストの増大によって相手の意思を削ぐ「消耗戦」を選択している。エネルギー市場への打撃、同盟国への圧力、地域不安定化——これらすべてが、米国に対する間接的な圧力として機能する。
この戦略の厄介な点は、米国の強みがそのまま弱点に転化することである。
米国は精密攻撃能力に優れる。しかし、それは「破壊」には向いていても、「支配」や「安定化」には直結しない。実際、同論文の著者であるロバート・A・ペイプは、空爆だけではイランの体制や核能力を決定的に破壊できないと繰り返し指摘してきた。
つまり、いくら攻撃しても「終わらない戦争」に陥る構造がある。
そして、その間にもイランは時間を味方につける。戦争が長引くほど、国際世論は分裂し、同盟国の結束は揺らぎ、経済的負担は米国側に蓄積していく。
この非対称性こそが、「エスカレーションはイランに有利」という命題の核心である。
さらに深刻なのは、この戦争が「出口」を持たない可能性だ。米国が掲げる目標(核開発の放棄、ミサイル能力の制限、代理勢力の停止)はいずれも体制の根幹に関わるものであり、イランにとっては受け入れ難い。結果として、戦争は「降伏」か「長期対立」かという二択に収束しやすい。
だがイランにとっては、後者で十分なのだ。
戦争が続く限り、ホルムズ海峡は不安定化し、エネルギー価格は上昇し、世界経済は揺らぎ続ける。実際、現在の戦闘でも海峡の緊張は保険料高騰や輸送リスクとして顕在化している。
これは単なる地域紛争ではない。
グローバル経済を巻き込む「構造的圧力装置」である。
こうして見ると、米国のイラン攻撃はある種の「罠」に近い。
攻撃すればするほど、戦争は拡大し、長期化し、コストは増大する。にもかかわらず、決定的勝利には至らない。むしろ、戦争の継続そのものがイランの戦略的利益となる。
この状況を「勝利」と呼べるだろうか。
少なくとも、戦場での優勢と戦略的成功が一致しないことは明らかだ。
米国は依然として軍事的には圧倒的に強い。だが、戦争の構造そのものが相手に有利に設計されているとすれば、その優位は意味を持たない。
米国はすでに、勝てない戦争に深く入り込みつつあるのかもしれない。

トランプ大統領 ホワイトハウスXより_03







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