メルツ独首相「3年以内に8割のシリア難民を送還」の現実性

メルツ独首相は30日、ベルリンでシリアからアフメド・アル=シャラア暫定大統領の公式訪問を受けた。同訪問では、中東情勢やシリアの再建のほか、ドイツ在住のシリア人の帰国問題が議題となった。

メルツ首相とシリアのアフメド・アル=シャラア暫定大統領との記者会見、2026年3月30日、ドイツ連邦首相府にて、ドイツ連邦首相府公式サイトから

メルツ首相はシリアからのゲストに対し、「アサド政権時代にドイツに避難した約100万人のうち、80%を今後3年以内にシリアに帰還させる方針だ」と表明した。もちろん、有効な居住許可証を有さないシリア難民を先に帰国させるという。メルツ首相にとって、「シリア内戦は終結した。ドイツには難民を受け入れる根拠は全くない」という立場だ。一方、アサド政権後、シリアの復興に取り組むシャラア大統領にとっても荒廃した祖国の再建のために欧州に避難したシリア人の帰還をぜひとも実現させたいはずだ。その意味でドイツとシリア両国の願いは一致しているわけだ。

シャラア大統領は「アサド政権下で迫害を受けた多くのシリア人をドイツが温かく迎え入れてくれたことに感謝する」と表明した。そして「シリアの政治的安定と経済成長は、復興の成功にとって極めて重要だ。ドイツや世界各地での経験と新たなアイデアを携えてシリアに帰国する人々は祖国の再建に大きく貢献できるはずだ」と述べた。

連邦統計局の暫定集計によると、2025年末時点で、ドイツには約93万5000人のシリア人が居住している。そのうち約30~40%は未成年者だ。彼らの大多数は2015年以降にドイツに入国した。メルケル政権(在任2005年11月~2021年12月)の難民ウエルカム政策の時代に中東・北アフリカから難民がドイツに殺到した。トルコ、ウクライナに次いで、シリアはドイツにおける外国人の出身国として3番目に多い国だ。ただし、2024年末のアサド政権崩壊以降、移民数は大幅に減少した。2023年には7万6000人強のシリア人が亡命申請をしたが、2024年にはその数は約2万3000人に減少した。

シリア出身でドイツ国籍を取得した人は過去10年間で約25万人だ。2021年以降、元難民申請者の多くが帰化要件を満たすようになったため、帰化者数は急速に増加した。2022年から2024年末までの1年間だけでも、約20万人のシリア出身者が帰化した。

シリアに強制送還された人数はまだごく少数だ。シリアへの強制送還はごく最近再開されたばかりだからだ。メディアサービス統合局によると、有罪判決を受けた犯罪者が初めて強制送還されたのは2025年12月で、その後、今年1月にさらに3人が送還された。滞在許可を得ていないシリア人約1,000人が国外退去を余儀なくされている。シリア人からの亡命申請は現在、より厳格に審査されている。連邦移民難民庁(BAMF)によると、現在、申請が認められる難民認知率はわずか9%だ。

メルツ首相は「シリアの学校、幼稚園、病院、企業の再建には莫大な労力が必要になる。ドイツはこの復興を支援したいと考えている。そのため、タスクフォースの設置が決定され、速やかに活動を開始する予定だ」と語った。ドイツは今年、シリアの安定化のために2億ユーロ以上を拠出する予定だ。

メルツ首相は「より良い未来への道のりにおいて、ドイツは支援を惜しまない」と述べる一方、シリア大統領に対しては「宗教、民族、性別に関わらず、すべての人々が新たなシリアで居場所を得られるよう促し、少数派や反体制派に対する暴力は過去のものとならなければならない」と訴えた。

ところで、メルツ首相の「3年以内にシリア難民の80%を帰国させる」という発言に対して、国内では強い反発を呼んでいる。例えば、野党「緑の党」のフランツィスカ・ブラントナー党首は「首相はシリアにおける諸問題に取り組み、すべての人々の安全確保を訴えるのではなく、単に数字を並べただけだ」と指摘。さらに、「多くの難民が既に私たちの社会に深く溶け込んでいる。社会的に重要な職業に就いている難民が非常に多い」と述べ、メルツ首相が「80%が帰国すべきだと言うのは安易な考えだ」と批判した。

メルツ首相への批判はドイツ病院連盟からも聞こえる。ドイツではシリア人医師が外国人医師の中で最大のグループを占めている。「彼らは医療にとって非常に重要な存在だ」と、副会長のヘンリエッテ・ノイマイヤー氏はドイツ報道ネットワーク(RND)に語った。2024年末時点で、5,745人のシリア人医師がドイツの病院で勤務している。ドイツで勤務する約68,000人の外国人医師の中でシリア人医師は最大のグループだ。

ちなみに、シリアの現状はどうか?アサド政権崩壊後も、依然として国内の多くの地域で治安が不安定な状態が続いている。テロ組織「イスラム国」は再び活動を活発化させている。アラウィ派、ドゥルーズ派、キリスト教徒といった少数派が特に危険にさらされている。彼らは過去11ヶ月間、血なまぐさい虐殺の犠牲となってきた。国連によると、国内避難民は依然として700万人に上る。また、約1600万人が人道支援に頼らざるを得ない状況だ(シリアの人口は約2300万人)。

ワーデフール独外相が昨年10月31日、訪問先のダマスカスでの記者会見で「多くのインフラが破壊されているため、シリア人の帰国は現時点では非常に限定的な範囲でしか考えられない。短期的には、多くのシリア人が自発的に帰国しようと動かされることはないだろう」と述べた。外相のダマスカスでの発言が報じられると、メルツ首相の与党「キリスト教民主同盟」(CDU)や姉妹政党「キリスト教社会同盟」(CSU)から「外相の発言は政府の難民政策に反している」といった批判の声が聞かれたことがある。

ドイツは基本的には自主帰国を推進している。2025年初頭から新たな全国的なシリア帰国支援プログラムが開始された。連邦政府は航空運賃を負担し、大人1人につき1,000ユーロ、子供1人につき500ユーロを支給する。2025年には3,678人がこの制度を利用した。

シリア国民のうち、市民所得または基礎所得支援を受けている人は2024年夏時点で51万8000人で、そのうち35万3000人が就労年齢層、約16万5000人が子供だ。受給者数は減少傾向にあるが、依然として高い水準にある。一方、シリア人の約30万人は就業しており、そのうち3分の2は社会保障費を納付している。

以上、ドイツ民間放送ニュース専門局NTVのウェブサイトの記事を参考にしてまとめた。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年3月31日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント