海外のイラン・メディア「イラン・インターナショナル」のマリアム・シナイ記者が「トランプ米大統領の石器時代発言にイラン国民の怒り」という見出しで興味深い記事を書いていた。
トランプ大統領がイースターの朝、Truth Social に投稿し、イランのインフラを爆撃し「石器時代に逆戻りさせる」と改めて脅迫したことが報じられると、国内外のイラン国民の間で怒りが広がっtた。

米国のキリスト教会の代表たちと祈り合うトランプ米大統領、ホワイトハウス公式サイトから
イランのペゼシュキアン大統領は、トランプ氏の石器時代発言を非難し、「一国全体を石器時代に逆戻りさせると脅迫することは、重大な戦争犯罪以外の何物でもない。歴史は、犯罪者の前で沈黙したために大きな代償を払った者たちで満ちている」と述べ、国民に結束を呼び掛けている。また、陸軍司令官のアリ・ジャハンシャヒ氏は、「米軍を石器時代ではなく、石器時代以前の時代に送りこむ」と警告している。
先ず、トランプ大統領の「石器時代」発言を振り返ってみる。トランプ氏は4月1日、国民向けテレビ演説で初めて「石器時代」という表現を使用した。そしてイースターの当日(4月5日)、その内容をさらに過激化してSNSで投稿し、「火曜日は発電所の日であり、橋の日だ――それがイランで一つにまとまる。これまでにないものになるだろう!!!あのクソみたいな海峡を開けろ、このイカれた野郎どもめ。さもないと地獄で生きることになるぞ――よく見ていろ!アッラーが讃えられんことを」と述べている。
ちなみに、「石器時代に戻してやる」という表現はトランプ氏の専売特許ではない。ベトナム戦争時のカーチス・ルメイ米空軍参謀総長が「北ベトナムを石器時代に戻してやる」と述べて有名になった。トランプ氏はその発言を模倣しただけという。
なお、トランプ氏の政敵への罵声や中傷には多くの人々は既に慣れているが、よりによってキリスト教会の最大の祭日のイースターの朝、相手に対して地獄に行けと罵声を飛ばしたのだ。最悪のタイミングだ。
このコラムで掲載したホワイトハウスでのキリスト教会代表たちとの祈祷会の写真をみると、キリスト信者の一人として頭を下げて祈っているトランプ大統領の姿がある。その大統領がイランに対して地獄に行けと罵り、石器時代に返れと罵倒したのだ。トランプ氏のキリスト信者としての整合性が大きく揺れる。
ところで、保守系メディアの著名司会者タッカー・カールソン氏が、長年支持してきたトランプ大統領を公然と批判する動画を発表し、波紋を広げている。トランプ支持者のカールソン氏がイースターの朝のトランプ氏の石器時代発言を「最も邪悪な投稿」と断言している。発電所や橋を壊すことは戦争犯罪だと指摘し、キリスト信者としてのトランプ氏の言動に深く失望している(アゴラ言論プラットフォームが7日、カールソン氏の動画について詳細に報じているので、関心がある読者はその動画を観られたらいいだろう)。

ここでは、シナイ記者が報じた、トランプ氏の石器時代発言に対するイラン人の反応を紹介する。イラン国民や在外イラン人の間でも怒りが高まっているからだ。彼らの多くはイラン現政権に反対しているが、国家インフラや民間施設への脅威には強く反発している。
イラン系アメリカ人のテクノロジー投資家、ハディ・パルトヴィ氏は「多くのイラン人は、イランを解放するという米国の計画を支持した。しかし、米国は文明を石器時代に逆戻りさせることを祝っている。偉大な指導者は破壊するのではなく、築き上げるものだ…このような米国の姿を見て、私は涙を流す」と述べた。
テヘランを拠点とするジャーナリスト、ヤシャル・ソルタニ氏は、「最初は『イランを解放する』と語っていた。次にミナブの学校を爆撃し、子供たちの命を奪った。そして今日、イランを『石器時代』に引き戻すと言っている」と指摘し、イランは、多くの国々がまだ石器時代にいた頃、都市を建設し、法律を制定し、文明を築き上げてきた土地だ」と付け加えている。
イランの反体制派の反応は一様ではない。政権交代を支持する人々の中には、インフラへの被害は痛ましいが、最終的には修復可能だと主張する者もいる。彼らは、イラン・イラク戦争のような歴史的前例を挙げ、石油精製所や輸出ターミナルといった主要施設が甚大な破壊の後、再建されたことを挙げている。別のイラン人は、政権交代後に復興が始まると主張し、「鉄やコンクリートのことは心配するな。無能な者たちに占領された祖国を心配しろ…その後、自由なイランはイランの名にふさわしいインフラを建設するだろう」と述べている。
最後に、保守派ジャーナリストでトランプ氏支持者のカールソン氏が今回、トランプ氏の「石器時代」発言を契機にトランプ氏の言動を批判し出したが、ロシアでもプーチン大統領を称賛し、長年プーチン政権を支持してきたロシアの著名なブロガー、イリヤ・レメスロ氏(Ilya Remeslo)が突然豹変し、プーチン大統領を激しく批判した。著名なブロガーの急激な転向にロシア国内でも大きな動揺が広がっている。米ロでほぼ同じ時期、著名なジャーナリストの転向が起きているのだ。興味深い社会現象だ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年4月8日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







コメント
トランプ大統領の「石器時代」発言の粗暴さ、そしてイースターの朝という最悪のタイミングについては、記事の指摘通りだと思う。4月7日の投稿が発電所や橋といった民生インフラへの攻撃を示唆するものとして国際法上の問題を孕んでいるという点も、批判として正当だ。タッカー・カールソン氏の転向も、米ロほぼ同時期という観点も含め、興味深い社会現象である。
ただ、この記事で気になるのは、「発言の言葉遣いが乱暴だ」「キリスト教徒としての整合性が揺れる」という批判が議論の中心を占めている点だ。言葉尻を捉えて糾弾する批評は、脳みそをあまり使わなくて済む、楽な仕事だ。問題の本質はそこではないだろう。
本当に考えるべきは、この交渉の「その先」である。今年2月の時点でもイランは「ゼロ濃縮は受け入れない」「平和目的の濃縮の権利を認めろ」と明言しており、IAEAをめぐる高濃縮ウランの所在確認問題も未解決のままだ。仮に今回何らかの合意が成立したとしても、トランプ大統領はあと数年でアメリカを去る。イランは「核の平和利用の権利は絶対に手放さない」と言い続けるだろう。数年後には、またどこかで濃縮ウランが「発見」される。そしてさらにその先、最悪の場合、核がテロリストの手に渡る未来が現実味を帯びてくる。
トランプ氏の暴言を批判することと、その暴言だけを叩いて満足し、10年・20年先の核拡散リスクを1秒も考えない論じ方に賛同することは、まったく別の話だ。言葉の品性を問うことも結構だが、目前に迫る核の拡散とテロのリスクにどう対処するかという視点なしに「石器時代発言はひどい」で議論を終えるなら、それは燻製ニシンの罠だ。