「2026年は、われわれが第三次世界大戦に突き進むかどうかの、分岐点となる1年になるかもしれません」
著者は昨年の大晦日、こうXに書き込んだ。この呟きは「挙句には、西側の同盟を分裂させてしまう恐れさえある」との引用に被せる形で投稿されたものだ。
その時点で著者がどこまで確信していたのかは本人のみぞ知るわけだが、イギリス政治から出発して国際政治全般を長年研究対象としてきた著者の予言は年明け以降、ベネズエラ、イランと次々に現実のものとなる。

本書は国際政治の古典であるE・H・カーの名著「危機の20年」を元に、不幸にも第一次と第二次の両世界大戦の戦間期となってしまった20年間と現代を重ね合わせる。ソ連崩壊の1991年から、ロシアが10万人規模の兵力をウクライナ周辺に集結させた2021年12月までの30年間が書名の由来である。
そして、本書は残念ながら危機の20年を著したE・H・カーの眼前で勃発してしまった第二次世界大戦に対して、今度こそは次なる世界大戦を防がねばならないとの強い信念をもつ著者による決意の書である。
本書の特徴はジャーナリストによる国際情勢ルポと歴史学者によるポスト冷戦史の中間にあたるもので、この間の世界の動きを著名な政治学者や外交官による分析をもって振り返る。我が国を含む欧米諸国が共有してきた民主主義や自由貿易の原則に基づく国際秩序に立脚しながら、同時にソ連崩壊後に東側のリーダーであるロシアが米国が推進する民主主義や自由貿易の拡大がどのように捉えていたのかを読者に説明する。
正しい理念であっても独善的かつ強引な進め方では、好ましい結果に至らないのは歴史が証明する通りである。例えば、イギリス人のソ連外交史研究者であるジョナサン・ハスラムの言葉を引用し、冷戦の勝利からくる万能感に陥った米国の悪意なき傲慢さを指摘する。
「(ソ連の)敗北以上に状況を悪化させたのは、アメリカにとって抵抗できないほど魅力的な、際限のないような勝利主義の感情の噴出であった」。
こういった流れに対しては「NATO拡大は、ポスト冷戦期全体でもっとも致命的な誤りである」と、著名な米外交官であったジョージ・ケナンの警告を引用し、冷戦終結以降に超大国として君臨する米国の外交路線の揺れを指摘する。
1991年以降の30年間では、ユートピアニズムに浸った西側諸国が、後半は様々な異変によって厳然たるリアリズムの世界が再来していることに徐々に気づいていくのである。
2月末に突如として始まった米国とイスラエルによるイラン攻撃は、周辺国に飛び火すると共に世界中でエネルギー危機を引き起こす。危機の30年を第三次世界大戦への戦間期の30年としないために、我が国もその一翼として危機を収めるために動かねばならない。「世界の真ん中で輝く日本」という高市政権の外交スローガンを、単なる言葉遊びで終わらせてはならない。
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『危機の三十年』(細谷 雄一著 新潮社)







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