氷河期世代への「間違った支援」をしてはいけない

黒坂岳央です。

先日、ABEMAの報道番組「ABEMA Prime」に出演した。テーマは就職氷河期世代だ。

スタジオには長年非正規雇用で苦しんできたゲストが複数いる中、自分は「確かに時代は大変だったし、自分も苦しかった。だが、個人でできる創意工夫、努力もあるはずだ」という立場で出演した。

番組を通じて改めて感じたのは、氷河期世代への支援の方向性を間違えてはならないということだ。

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リスキリングは氷河期世代を救わない

政府の新たな支援プログラムの柱の一つにリスキリング支援がある。リスキリング自体の価値を否定するつもりはない。既存のキャリアを持つ人間が時代の変化に合わせて専門性を更新する手段としては有効だ。

ただし氷河期世代の非正規雇用者に対しては、機能する場面が限られると考えている。リスキリングとは本来、実務経験という土台の上に新たなスキルを積み上げるものだ。

英語は現場で直接使えるスキルだ。観光業・旅館業・ホテル業といった人手不足の産業では、英語が話せるだけで即戦力として重宝される。40代からでも習得する価値がある数少ないスキルの一つだ。

旅館に勤める人が英会話を学んでインバウンド対応力を高める、会計や法務の実務経験者が英語力を積んで外資系転職を狙う。こうした使い方であれば機能する。

一方でプログラミングなどの高度な知的労働は話が別だ。40代非正規雇用者が初学のプログラミング課程を修了しても、採用する企業を見つけることは極めて難しい。

実績・適性・実務経験がない状態で即戦力として採用されることは現実的ではない。加えてAIの台頭でプログラミングの初歩的な領域はすでに代替されつつある。今から習得しても数年後には市場価値が消えている可能性がある。

資格取得にしても同じだ。自分が取りたいものではなく、採用する企業側が求めるものを意識するビジネス感覚が必要だ。その感覚がなければ、努力が徒労に終わる。

戦うべき戦場を間違えている

番組の中で自分が強調したのは「産業をずらす」という発想だ。

事務職・デスクワーク系の求人には今も40代非正規が大量に応募している。しかし企業側は若い人材を優先し、さらにAI化で業務そのものを削減しようとしている。ライバルはAIと若者だ。人あまりのレッドオーシャンで戦い続けることは、戦略として完全に間違っている。

一方、旅館・ホテル業、介護・福祉、建設・施設管理といった産業は深刻な人手不足が続いている。厚生労働省のデータによると建設業の有効求人倍率は4倍超、宿泊業はさらに高い水準にある。自分の母親は70代だが旅館業で働いており、インバウンド需要の拡大とともに毎年給与が上がっている。

40代・50代でも若い人との競合が少なく、正社員として採用されるチャンスは現実的にある。

重要なのは「自分がやりたいこと」ではなく「報われる場所で努力する」という発想への転換だ。努力の方向性が間違っていれば、どれだけ頑張っても結果は出ない。これは氷河期の時代でも、現在の人手不足の時代でも変わらない原則だ。

東京という選択肢を疑え

もう一点、東京への固執という問題がある。

総務省の家計調査などのデータを参照すると、単身世帯の生活費は東京と地方で年間数十万円単位の差がある。住宅費だけで東京は地方の約2倍だ。独身で年収400万円未満の場合、東京に住む経済的合理性は数字として出てこない。地方で年収300万円の方が手元に残るお金は東京の400万円と大差ないか、場合によっては上回る。

人手不足のブルーカラー産業は地方に多い。建設・施設管理・旅館業は地方都市や観光地での需要が高く、東京の事務職市場で消耗するより、地方で人手不足の正社員ポジションを取りにいく方が年収・生活水準ともに現実的に改善できる。

「ブルーカラーは体力的に無理」という声もある。だがブルーカラー全般が重労働というのは思い込みだ。警備・施設清掃・軽作業・旅館の接客はデスクワークと体力負荷は大差ない。

筆者の知人にかつて事務職だったが途中でブルーカラーに転身した人間がいる。最初は体力的にきつそうだったが、人間には適応能力がある。彼は今ではゴツゴツとした体つきに変わり、収入も以前より安定したと話していた。

政府がやるべき支援の中身

政府の支援の方向性を変えるべきだと考えている。リスキリング補助金を積み増すより、移住支援・住居支援に予算を回す方が効果は高い。

地方移住に際しての引越し費用補助、人手不足産業への就職を条件にした家賃補助、地方での生活立ち上げ支援。こうした「場所と産業を変えることへのハードルを下げる」支援の方が、意欲のない人にスキルを渡すより遥かに費用対効果が高い。

今回の支援プログラムに住宅支援が盛り込まれたことは評価できる。ただし全体としてリスキリング中心という発想から脱しきれていない。支援の設計を根本から見直す必要がある。

報われる場所で努力する

自分自身も氷河期当事者として100社以上に応募して面接すら呼ばれなかった経験がある。リーマンショックで米国会計の求人が一夜で消えた経験もある。その中で気づいたのは、市場に自分を合わせるという発想の転換だった。

英語だけ使える会社に入り、次の転職で会計経験を積み、最終的に英語と会計を活かせる外資系に入った。いきなり完成形を求めず、わらしべ長者式に段階を踏んだ。ステータスが変わったわけではない。やり方を変えただけで結果が変わった。

氷河期世代が今からできることも同じ構造だ。自分のやりたいことではなく、市場が求めている場所に自分を合わせる。人手不足の産業に目を向け、必要なら東京を出る。また、人生100年時代では60歳までに老後の蓄えを完成させなければならないという思い込みを捨て、いつまでも働ける状態を作ることに集中するべきだろう。

「かわいそう」「見捨てられた」という同情的な言葉では彼らは救われない。必要なのは報われる場所の提示だと自分は思っている。大きな意識の変化には痛みを伴うが、今からでも必要な変化に向けて動くことには価値があるだろう。

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働き方・キャリア・AI時代の生き方を語る著者・解説者
著書4冊/英語系YouTuber登録者5万人。TBS『THE TIME』など各種メディアで、働き方・キャリア戦略・英語学習・AI時代の社会変化を分かりやすく解説。

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