黒坂岳央です。
仕事の休憩中、スマホで息抜きをしている人も多いのではないだろうか。休憩とは本来、脳を休めてパフォーマンスを高めるためにあるわけだが、使い方によっては「余計に疲れる」という事が起きる。
これまで「とにかくSNSは悪、時間泥棒だ」という意見が多かった。確かにこの指摘は正しい。だがこのミュンヘン大学の発表した論文によるとSNSの中でもTikTokで過ごすと失うのは時間だけでなく、脳の認知機能、つまり休憩そのものを破壊することがわかる。

SNSの中でもTikTokが良くない
上述の研究が焦点を当てたのは「展望的記憶」だ。これは、将来実行すべき行動を適切なタイミングで思い出し、実行する能力のことを指す。
具体的には「帰宅途中に牛乳を買う」「午後3時の会議の前に資料を確認する」など、こうした日常的かつビジネス上で不可欠な「意図の保持」を司る機能である。
そしてTikTok、Twitter(現X)、YouTube、そして「何もしない休息」の4条件で展望的記憶への影響を比較した結果、興味深い事がわかった。TikTokを視聴したグループだけが、その後のタスクにおける正答率を約40%も低下させ、TwitterやYouTubeを視聴したグループ、何もしない休息をとったグループには、有意な低下は見られなかったのだ。
「SNS全般が問題だ」という安易な一般論は、このデータによって否定される。「時間の無駄」という点では間違いないが、脳に悪いのはプラットフォームではなく、ショート動画という「フォーマット」で決まる。
ショート動画が脳をダメにする理由
なぜショート動画だけがここまで有害なのか?その答えは「コンテキスト・スイッチングの頻度」にある。
TikTokのUIは、15秒から60秒という極短スパンで、まったく異なる文脈の情報を連続的に流し込む設計になっている。料理動画の直後に政治ニュースが流れ、その数秒後にはダンス動画が続く。ユーザーからすると、刺激的で面白いが、肝心の脳はこの短いスパンで、感情と注意を毎回リセットし、新しい文脈に適応し続けなければならない。これはコンピュータの脳のキャッシュを常に強制的に書き換え続けている状態だ。
展望的記憶は、脳のバックグラウンドで動作するプロセスに相当する。ショート動画を見ることで、このバックグラウンドプロセスを「強制終了」させてしまうのだ。つまり、学習や仕事で使ったアイデアを破壊する。
一方、YouTubeの長尺動画は一つのテーマを数分から数十分追うため、文脈の切り替えが少ない。テキストベースのTwitterは、ユーザーが自分のペースで情報を取捨選択して処理する余地がある。これらは脳への負荷がコントロールされているため、展望的記憶へのダメージが限定的といえる。
「何もしない」が最高の休憩
情報インプットをし続けることが効率的、という考えは脳科学的に誤りである。脳は外部からの刺激が途絶えたとき、「デフォルト・モード・ネットワーク」を活性化させる。この回路が司るのは、記憶の整理、自己の客観視、そして創造的な閃きだ。
これは自分の肌感覚でも思い当たる。仕事のアイデアや企画が降臨するのはデスクの上で考えている時ではない。買い物中、入浴中、家の周りを散歩中、子供とボール遊びをしている途中である。
突然、「あ!」と雷に打たれたような突飛なアイデアが降りてくる。急いでメモをしてアイデアを捕まえるが、これはおそらくデフォルト・モード・ネットワークによる効果と考える。
ショート動画をスクロールすることは、この機能を破壊し、脳をオーバーヒート状態のまま使い続けることに等しい。「休憩しているつもり」でいて、実際には仕事以上に過酷な情報処理という労働をさせている。
真の休憩とは「作業の停止」ではなく「情報の遮断」だ。スマートフォンの画面を10分だけ伏せる。それだけで脳は本来の機能を取り戻し始める。筆者は疲れを感じたら、モニターを見るのをやめてなるべく目を閉じるようにしている。現代人は「情報不足」でダメになるのではなく、その逆で「情報過多」でダメになっているのだ。
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高いパフォーマンスを維持したいなら、少なくとも休憩時間のTikTok利用だけは今すぐやめるべきだ。どうしてもSNSに触れたいのであれば、長尺動画かテキストベースのタイムラインにとどめる。できれば目を閉じて何もしないことだ。
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