黒坂岳央です。
ゴールデンウィーク明けは毎年、転職市場が活況を呈する。マイナビの調査によれば、五月病を経験した正社員の約2割が実際に転職しているという。行動に移したのが2割ということは、未遂で終わった者、本格的に検討した者はその数倍いると見るのが自然だ。
「五月病は逃げだ」と切り捨てるのは簡単だが、筆者はそう見ていない。ただし「感じたらすぐ動け」とも言わない。
問題はその感情の正体と、判断のタイミングだ。この難しいグラデーションを考察する。

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GWは「キャリアの棚卸し」
まず前提として整理しておく。仕事に行きたくないのは、ほぼすべての労働者が抱える感情である。自営業者を除いて、好きで仕事をしている人間は日本に限らず、どの国でも少数派だ。だが、「仕事が嫌だ」と感じることと、「耐えられないから転職」との間には大きな距離がある。
ではGW明けに転職が集中する理由はなんだろうか。一般的には「長期休みを取ると怠けてしまい、働くのが嫌になる」と解釈されやすいが、これは違う。
日常が忙しければ、職場への違和感は認知の外に押し出される。締め切り、会議、上司への報告など業務の波に飲まれている限り、人間は現状を再評価する余裕を持てない。土日は家事と休息で消える。ところがGWという落ち着いて考える時間が、自分のキャリアを考え直す余裕を与える。
「連休が明けたら会社に戻りたくない」という感覚は、GWが新たに生み出した感情ではない。GWが炙り出したものだ。
普段は忙しさに埋もれていたキャリアへの疑問が、10日間の静けさの中で浮き彫りになる。その意味でGWとは、仕事から解放される休暇である以上に、キャリア全体を棚卸しするタイミングになる。
五月病でやめても次の会社に五月が来る
「五月病は逃げ」と解釈する人もいるが、怠けたいだけの人間は転職ではなく退職を選ぶはずだ。なぜなら、五月病で逃げても次の会社で五月病は来るからである。
転職を検討するという行動には「より良い選択肢があるはずだ」という確信がある。これは「働きたくない」という労働そのものの否定というより、その職場が固有に抱える問題に対しての否定的な態度と言える。
であれば転職自体を否定する理由はない。実際に動いて市場価値を測ることには意義がある。年収アップのオファーが出るなら行けばいいし、引き取り手がないなら今の会社で実力をつけるべきという判断材料にもなる。GWに感じた違和感を、転職活動という形で検証することは十分に合理的だ。筆者もスキルアップをして転職をして年収をあげていったので、転職自体は良いことだという感覚がある。
だが冷静に考えなければならないのは、今の職場で抱える問題は転職で解決するか?ということだ。
「環境を変えれば問題が解決する」という発想は半分正解で半分間違いだ。筆者自身、転職を経験して気づいたのは、職場が変わっても「形を変えた摩擦」は必ず存在するということだ。「職場の人間のレベルが低い」と思って、ハイキャリアの職場へ行くと、確かに感情的な徒労はなくなる。だが、今度はそうしたハイキャリア人材たちの結果への期待値が上がることに応え続ける必要がある。
筆者はそれを経験した。高学歴、ハイキャリア人材と働くと感情的な叱責はほとんどないが、その代わりに温情が消え、評価が冷徹になる。結果を出さねば、静かに評価が下がって給料が減るのが現実だ。人によっては、「叱られても温情がある職場の方が向いている」と思うかも知れない。結局、どこへ行っても形を変えた地獄がそこにはあるのだ。
GWの精神的な高揚感の中で「今すぐ辞める」という決断を下すと、同じ理由で次の職場でも同じ結論に達しやすい。問題は自分の感度ではなく、判断のタイミングにある。
採用側は「GWバックレ」と感じるリスク
もう一点、見落とされがちなリスクがある。
本人がどれだけ合理的に転職を判断したつもりであっても、採用担当者には「GW明けに感情的に辞めた人材」というシグナルとして受け取られるリスクがある。
在籍期間は信頼のシグナルとして機能する。だが、短期離職の説明コストは累積する。1回なら説明できるが、2回目以降は明確に不利だ。20代ならまだいいが、30代以降の転職は「なぜ転職を?」という「転職説明」が強く求められる。相手に説得力のある説明が出来なければ、「バックレ人材」と思われて敬遠される。
自分の判断が合理的であることと、他者にそう見えることは別の問題だ。市場は自分の内面を評価しない。行動の結果を評価する。
◇
五月病で辞めたくなるのは、悪いことではない。だがその感度に即座に従うのはリスキーだ。前進する転職ならすればいいし、勢いでやめるなら冷静に自身のキャリアの棚卸しをするべきだろう。
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