「無法国家」イスラエル?:イラク砂漠に秘密基地を建設、米国には伝えず

5月9日、ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)は衝撃的なスクープを報じた。イスラエルが2026年2月下旬のイラン攻撃作戦開始直前、イラクの砂漠地帯に秘密の軍事拠点を無断で建設し、それを守るためにイラク軍に対して空爆まで行っていたというものだ。イラクへの事前通知はなく、米国もこの攻撃には関与していなかった。

イスラエルを訪れトランプ大統領 2025年10月13日 ネタニヤフ首相インスタグラムより

秘密基地の全貌

WSJが米政府関係者などの情報源をもとに報じたところによれば、イスラエルはイラク西部の砂漠に秘密前進基地を建設した。イスラエルの本土からイランまでの距離は1,600キロメートル以上に及ぶため、この基地はイスラエル空軍の補給・兵站拠点として機能し、撃墜されたパイロットの救出チームも配備されていた。

基地が危うく発覚しそうになったのは3月初旬だ。地元の羊飼いがヘリコプターの飛行など「異常な軍事活動」を目撃し、当局に通報。イラク軍部隊が調査に向かったところ、イスラエル軍はその部隊に対して空爆を実施し、発覚を阻止した。この攻撃でイラク兵1名が死亡した。イラク側は当初「アメリカ軍による攻撃」と発表し、国連に正式抗議を申し立てたが、WSJによれば米軍は関与していなかった。

イラク軍統合作戦司令部副司令官カイス・アル・ムハンマダウィ中将は、「この無謀な作戦は、調整も承認もなく実施された」と述べていた。

「自衛」を超えた軍事行動の軌跡

今回のイラクへの無断侵入は、イスラエルの軍事行動の広がりを改めて浮き彫りにする。ALJazeeraとACLEDのデータ分析によれば、2025年1月から12月5日までの間にイスラエルは少なくとも10,631件の攻撃を実施し、ガザ・ヨルダン川西岸・レバノン・シリア・イエメン・イランの6カ国に及んだ。カタールへの攻撃も記録されており、これはイスラエルから約2,000キロ離れた湾岸国への初の打撃だった。チュニジア・マルタ・ギリシャの領海も攻撃の舞台となった。

「最大の支援国」米国内での亀裂

かつてイスラエルへの支持は米国政治における超党派的コンセンサスだった。それが今、急速に崩れている。

4月15日の米上院採決では、イスラエルへの武器売却を制限する2本の決議案が採決にかけられた。民主党議員の85%にあたる40名が少なくとも一方の決議案に賛成票を投じた。決議案は共和党の圧倒的反対で否決されたが、民主党内の地殻変動を鮮明に示した。バーニー・サンダース上院議員が提出したこの決議について、ピュー・リサーチが実施した世論調査では民主党支持者の80%、共和党支持者の41%がイスラエルへの否定的見解を持つという結果が出ており、世論の変化を裏付けた。

右派からの批判も無視できない。時事通信の報道によれば、トランプの岩盤支持層であるMAGA系インフルエンサーや保守論客の一部からも、イスラエルへの無条件支援への疑問や、「アメリカ・ファースト」と矛盾するイスラエル優先の外交姿勢への批判が上がっている。米国家テロ対策センターのジョー・ケント所長は2026年3月17日、対イラン攻撃に抗議して辞任し、「イランは我が国にとって差し迫った脅威ではなかった。この戦争がイスラエルとその強力な米国内ロビーからの圧力によって始められたことは明らかだ」と述べた。

同盟の非対称性という問題

今回のWSJの報道が最も深刻に問うているのは、米国とイスラエルの「同盟」の実態だ。イスラエルは米国の知識のもとで秘密基地を建設したとされるが、イラク軍に対する攻撃については米側への事前通知がなかった。その攻撃の結果としてイラクが国連に申し立てた抗議は「アメリカによる攻撃」として届けられ、米国は事後的に否定せざるを得なかった。

自国が関与していない攻撃の責任を負わされそうになる――これが「最も緊密な同盟関係」の現実だとすれば、米国内で「イスラエルに引きずられている」という批判が強まるのは必然だろう。

「無法国家」という言葉は過激に聞こえるかもしれない。しかし、他国の領土に無断で軍事拠点を建設し、その国の兵士を攻撃し、同盟国にさえ伝えない行動を何と呼ぶのか――その問いに答えを持つ人は、今のワシントンにはほとんどいない。

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コメント

  1. 早川蒼真 より:

    記事の指摘する「イスラエルがイラク領内に無断で秘密基地を建設し、イラク兵を攻撃した」という事実があるとすれば、それは確かに国際法上問題があり、批判されるべき行為です。同盟国である米国にも事前通知がなかったという点も、同盟関係のあり方として疑問を投げかけるに値します。この点については記事の指摘に理解を示します。

    **しかし、この記事には決定的に欠けている視点があります。それは「なぜイスラエルがそこまでリスクを冒してイランを攻撃するための前進基地を作らなければならなかったのか」という、「イラン側からの尋常ではない脅威」の文脈がすっぽりと抜け落ちている点です。**

    ## イスラエルは一方的な「無法国家」なのか?

    イスラエルの行動だけを切り取って「無法国家」と非難するのは簡単ですが、現実として、**イランおよびイランが支援する武装組織(抵抗の枢軸)は、イスラエルに対して明確な「戦争」を仕掛けています。** 双方の衝突はすでに「戦闘状態」と見なされて当然のレベルであり、イスラエルが受けてきた以下の重大な攻撃の歴史と現状を見過ごすことはできません。

    ### 【イランおよび支援組織による対イスラエル重大攻撃】

    1. **2023年10月7日:ハマス主導の南部奇襲**
    約1,200人が死亡し、約250人が拉致されたイスラエル建国以来最悪級の攻撃。現在のガザ戦争および地域危機の直接的な原因です。

    2. **2025年6月:「12日間戦争」でのイラン直接攻撃**
    代理組織ではなく、イラン本国から数百発規模の弾道ミサイル・ドローンが使用された国家間戦争級の攻撃。

    3. **2026年3〜4月:イラン危機に連動した多正面攻撃**
    ヒズボラが北部へロケットやドローンで攻撃を行い、フーシ派も参加。現在進行形の重大な脅威です。

    4. **2006年7月:ヒズボラによる越境襲撃**
    イスラエル兵8人が死亡、2人が拉致され、第二次レバノン戦争の引き金となった「戦争の始まり」を告げる重大事件。

    5. **2024年10月:イランによる第2次弾道ミサイル攻撃**
    約180〜200発規模のミサイル攻撃。被害は限定的だったものの、国家対国家の直接攻撃として極めて重大。

    6. **2024年4月:イランによる第1次ミサイル・ドローン攻撃**
    300発超が発射され、イラン本土からイスラエルへの初の大規模直接攻撃という画期的な転換点となりました。

    7. **2014年:ガザ戦争時の複合攻撃**
    ハマスやPIJによるロケット・迫撃砲と越境トンネル戦術が組み合わさり、50日規模の戦争へ発展。

    8. **2023年10月以降:ヒズボラによる北部への継続攻撃**
    単発ではなく「長期消耗戦」として行われ、イスラエル北部住民の大規模避難とレバノン方面への戦線拡大を招いています。

    9. **2008年末:ハマス等による継続的ロケット攻撃**
    南部へのロケット攻撃の急増が、キャストレッド作戦(2008〜09年ガザ戦争)の直接の背景となりました。

    これだけの攻撃を受けながら「自衛行動を取るな」と言うのは、現実的ではありません。**イラン本国が直接、数百発単位の弾道ミサイルをイスラエル本土に撃ち込んでいる**のです。これは代理戦争を超えた、紛れもない国家間戦争状態です。

    ## 「自衛を超えた」という批判の妥当性は?

    記事は「自衛を超えた軍事行動」と表現していますが、ではどこまでが「自衛の範囲」なのでしょうか?

    – イラン本国から1,600km以上離れた場所からの作戦行動には、当然ながら兵站拠点が必要
    – ヒズボラ(レバノン)、フーシ派(イエメン)、ハマス(ガザ)、イラン民兵(シリア・イラク)と、**多方面から同時並行で攻撃を受けている**状況下での反撃

    この状況で「6カ国に攻撃した」という数字だけを切り取れば確かに膨大に見えますが、**その6カ国すべてからイスラエルへの攻撃が行われている**という事実を記事は伝えていません。イスラエルが1,600キロ以上離れたイラン本土からのミサイルの脅威を直接叩くために、イラクに前進基地を構築したのも、この「全面戦争下の戦術」として見れば全く意味合いが変わってきます。

    ## 米国内の世論変化について

    確かに米国内でイスラエル支持に変化が生じているのは事実でしょう。しかしこれは、**SNS時代の情報戦においてハマスやイラン側のナラティブが拡散しやすい**という構造的要因も大きく、必ずしも事実関係に基づいた冷静な評価とは言えません。ガザの被害は痛ましいものですが、その発端となった2023年10月7日の大虐殺がどれほど凄惨だったか、人質がいまだに解放されていない事実は、時間とともに風化させられています。

    ## 結論:片側の視点だけでは情勢は見えない

    ガザ、レバノン、イエメン、そしてイラン本土からの多方面にわたる持続的な攻撃は、もはや単なるテロや散発的な衝突ではなく、国家の存亡を賭けた戦争そのものです。

    イラクへの無断侵入と兵士への攻撃は、個別事案として批判されるべきです。同盟国への通知なしという手順の問題も指摘されて然るべきです。

    **しかし、それをもって「イスラエル=無法国家」と断じるのは、攻撃を受け続けている側の現実を無視した一面的な評価です。** 記事が指摘する「イスラエルの強硬姿勢による同盟の亀裂」は事実だとしても、その原因をイスラエル一国の暴走にのみ求めるのは片手落ちです。**イラン側からの容赦ない殲滅作戦という「もう半分の現実」を無視して、現在の中東情勢を語ることはできません。**

    記事タイトルに「無法国家」と疑問符付きで掲げるなら、同じ基準で「**ではイラン及びその支援組織は何と呼ぶべきか?**」という問いにも答えるべきでしょう。国家として正規軍のミサイルを他国本土に数百発撃ち込み、同時に複数の代理組織を使って多方面から攻撃を仕掛けている国を、私たちはどう呼ぶべきなのでしょうか。

    事実の片側だけを切り取った報道は、結果的にイランを利することになりかねません。