「バチカン、イラン大使に勲章を授与」の波紋

2023年からローマ教皇庁駐在イラン・イスラム共和国大使を務めるモハマド・ホセイン・モフタリ氏は12日、他の12人の外交官とともにピウス勲章を授与された。イタリアの主要日刊紙や米国のポータルサイト「ザ・ピラー」などがこの出来事を報じた。イラン大使にバチカン勲章が授与されたことがメディアに報じられると、その数時間後、ソーシャルメディア上で怒りの声が爆発した。イラン民主女性協会などは、この名誉ある賞がイラン大使に授与されたことに対し、「最も強い言葉で非難する」と表明している。

バチカンからピウス勲章が授与されたイランのモフタリ大使(左)

一方、イランのメディアは早速このニュースを大きく報道し、「ローマ教皇によるイランの政策への個人的な賛辞だ」と表現している。そして「この賞の授与と教皇による侵略行為への非難は、バチカン駐在イラン大使館が平和、正義、そして戦争への抵抗のメッセージを広めるために継続的に行っている活動と密接に関連している」と評価。、あるイランのメディアは授賞式の報道に、レオ14世とモフタリ大使が写った2025年の写真を大きく掲載している。

バチカン教皇庁によると、この勲章は教皇本人からではなく、慣例に従い国務省を統括するパオロ・ルデッリ大司教から授与された。授与証書にはピエトロ・パロリン国務長官が署名している。ピウス勲章は、1847年にピウス9世(1846年~1878年)によって創設された。

バチカンのマッテオ・ブルーニ報道官は、「ピウス勲章は伝統的に、聖座に赴任したすべての大使が2年間の勤務を終えた後、通常は教皇の就任記念日に授与される勲章である」と説明した。イラン大使のほか、12人の外交官にピウス勲章大十字章が授与されたという。

全てには適切な時、タイミングがあるが、バチカン勲章の授与が誤ったメッセージを送るのではないかと疑問視する声が上がっても不思議ではない。 ユダヤ系週間新聞「アルゲマイネ」は論説で、「バチカン勲章はモフタリ大使への思いがけないPRギフトとなった。イラン大使は同国で今年1月に3万5000人以上の抗議デモ参加者を虐殺した政権の代表者だ。教皇レオ14世と外交手腕に長けたピエトロ・パロリン枢機卿国務長官が、まさにこの政権の代表者に賞を授与するなど、言語道断だ」と辛らつに批判している。

「アルゲマイネ」紙の論説を読むと、トランプ米大統領の発言を思い出す。 トランプ氏がイランに対して「石器時代」発言を発した時、世界から批判の声が出たが、教皇レオ14世も名指しこそ避けたが、「イラン国民への恫喝は絶対に受け入れられない」と、トランプ氏を暗に批判した。それに対し、トランプ大統領はレオ14世を「犯罪対策に弱腰だ」、「彼はあまり良い仕事をしていない」という趣旨をソーシャルメディア「Truth Social」に投稿した。それだけではない。「誰か教皇に、イランが過去2ヶ月間で少なくとも4万2000人の罪のない、完全に非武装のデモ参加者を殺害したことを教えてくれないか?」と、自身のプラットフォームに書き込んだことがある。

トランプ氏がレオ14世に思い出してほしいといった事実とは、イランのムッラー政権が今年初めに反体制派抗議デモに対して発砲し、多数の抗議デモ参加者、若者を殺害した、という犯罪行為のことだ。当方はこのコラム欄で「トランプ氏がレオ14世に突き付けた『正論』」(2026年4月16日)で書いたが、イラン大使へのバチカン勲章授与はトランプ氏の発言を追認した感じがする。

トランプ大統領がレオ14世に突きつけた「正論」
トランプ氏は4月1日、国民向けテレビ演説でイランに対して初めて「石器時代」という表現を使用した。そしてイースターの当日(4月5日)、その内容をさらに過激化してSNSで投稿し、「火曜日は発電所の日であり、橋の日だ――それがイランで一つにまとま...

トランプ大統領が「イランのモフタリ大使がバチカン勲章を得た」というニュースを聞けば、「ほらみたことか。バチカンや教皇レオ14世はイランの実態を何も知らないのだ」と呟き、自分が正しかったと自負するかもしれない。


編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年5月16日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。

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