治安悪化、日中の主張を比較してみる(藤谷 昌敏)

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政策提言委員・金沢工業大学特任教授 藤谷 昌敏

中国大使館は2026年4月17日、WeChat公式アカウントで、在日中国人に対して、日本国内の刑事事件が増加傾向にあると指摘した。中国大使館は「2021年から2025年まで、日本の刑法違反容疑の犯罪件数は毎年増加し、568,000件から774,000件に増えた。殺人、強盗、放火、性暴力、誘拐、わいせつ行為などの重大犯罪は8,821件から15,086件に増え、約71%増加した」と強調した。

この発言内容のうち、犯罪件数は、警察白書によると、2021(令和3)年568,148件(戦後最少)、2022(令和4)年601,389件(+5.8%)、2023(令和5)年703,351件(+17%)、2024(令和6)年737,679件(+4.9%)、2025(令和7)年774,142件(+4.9%)で、「568,000件から774,000件に増えた」は、2021年以降2025年までの実際の推移と一致する。したがって 刑法犯総数が増加したという点は中国側の主張が正しい。

ただし、重大犯罪(殺人・強盗・放火・性犯罪・誘拐等)については、2025年の重大犯罪が15,086件(前年比 +3.2%)というのは正しいが、「8,821件」という数字はどこにも出ていない。そのため、 8,821件が15,086件に「71%増」という主張は事実ではなく、実際には、約30〜40%程度の増加が実態に近い。

さらに中国大使館は、現役の自衛隊員が中国大使館に侵入した事件(2026年3月24日、陸上自衛隊えびの駐屯地所属の3等陸尉(23歳)が中国大使館内に侵入)、東京マラソンでのトラブル(2026年3月、観戦中に中国国旗を持っていた中国人観客が日本の右翼に突き倒された)などにも言及し、「これらの事件は日本国内で右派勢力の活動がますます活発化し、中国人を標的とした差別的な事件が顕著に増えていることを示している。

日本に居住する中国人は安全意識を十分に高め、自衛を強化し、可能な限り複数で外出し、治安が悪い地域や人出の多い場所を避けてほしい」と呼びかけた。この呼びかけの背景に、高市総理の台湾有事の際の存立危機事態発言があることは明らかであり、内外の中国人に日本に対する警戒感を植え付けるために発信されたものである。

それでは最近よく聞く次の2つの意見は果たして正しいのかどうか検証してみたい。

日本国内では、こうした中国の主張は一方的で、日本で犯罪が増加している原因は中国人などの外国人によるものだと主張する者がいる。

日本の治安状況の悪さを批判する中国の治安状況はどうであろうか。国民に日本よりも安全とアピールするほど良いのだろうか。

日本の外国人犯罪は増加しているのか

外国人(来日外国人+その他)の刑法犯検挙件数は、2022年が12,947件、2023年が15,541件(+20%)で、来日外国人に限ってみれば、刑法犯検挙件数は2022年8,548件、2023年10,040件、2024年13,405件、2025年17,614件 であり、3年間で2倍以上に急増している。

来日外国人犯罪の総検挙件数(刑法+特別法)は、2023年が前年比+23.4%、2024年が前年比+20.5%、2025年が前年比+16.9%で、刑法犯全体に占める2025年の来日外国人の割合は5.9%でこれは過去最高の記録で、統計的に「増加している」のは事実である。

では、犯罪自体は凶悪化しているのだろうか。

2023年の警察庁の発表では、来日外国人による殺人は、55件(0.5%)を占め、来日外国人による強盗は82件(0.8%)で、殺人・強盗などの凶悪犯は元々極めて低く、増加傾向にもない。

ただし、外国人グループによる暴力事件が目立ち、2024年11月のタイ人グループの乱闘で死者が発生した事件(千葉県旭市)、同年のベトナム人グループの刺傷事件が発生した事件(埼玉県越谷市)など、外国人コミュニティ間のトラブルが相次いでいる。

また、殺人のような重大犯罪ではないが、特殊詐欺では2024年9月、新潟市で80代男性から現金820万円をだまし取った特殊詐欺事件で、25歳の外国籍の男が現金受け取り役として逮捕された。

特殊詐欺グループが言葉ができない外国人を使い捨ての実行犯に仕立てる例が後を絶たない。違法薬物の密輸入事件では、国際的な密売組織が外国人を使って持ち込む例が多く、密輸される覚せい剤や大麻の量も増加傾向にある。

問題なのは、言葉の壁や文化・風習の違いなどにより証拠不十分となって不起訴となる例が多く、外国人観光客が逃亡して逮捕できないケースも見られることである。現在の日本人のみを想定した刑法体系では外国人犯罪に対処できないという一面も垣間見られる。

中国は日本より安全か

中国政府系メディア・人民網は、2024年の「治安青書」において、「住民の安全感指数(どれぐらい安全と感じているかを数値化)は98.2%(4年連続で98%以上)であり、夜間の外出・タクシー利用・オンライン取引など、ほぼ全ての場面で安全感が98%以上である。治安指数は2015年7.91 から2023年10.85へと上昇し、いっそう改善の傾向にある」などと報道し、公安当局も「世界最高の監視カメラや顔認証システムにより、中国は世界でも殺人事件の発生率が最も低い」などと主張している。

それらの主張は本当だろうか。

2025年の国家安全白書(中国政府公式文書)によると、「重大な自然災害、生産現場の安全事故、公衆衛生事案、悪質な犯罪事件が発生している」「社会の安全と安定に影響を及ぼす状況が存在」「経済回復の基盤は盤石でなく、社会不安要因が多い」などと分析されており、中国政府自ら深刻な治安・社会リスクが存在することを明確に認めている。

中国の治安体制は、「犯罪の統計数値の透明性が低い」「低迷する経済・若年者の未就労など社会の不安要因が増大しつつある」「徹底した監視社会による統制型の治安である」「新疆・チベット・香港など地域によっては強い抑圧が存在する」など複数の問題を抱えている。

こうしたことから、日本では、ここ数年で外国人の犯罪件数が急増しており、日本の犯罪件数全体の増加に大きく影響している。裏面では言葉の壁などによる不起訴や海外逃亡が問題となっており、実際には外国人犯罪数はもっと多い。

また中国は日本を批判するほど治安が良いわけではない。中国は「街頭犯罪が少なく、体感治安は良い」が、実際には多数の社会リスクを包含し、統制・透明性の問題を抱える「一見すると安全な国」に過ぎないのである。

藤谷 昌敏
1954(昭和29)年、北海道生まれ。学習院大学法学部法学科、北陸先端科学技術大学院大学先端科学技術研究科修士課程卒、知識科学修士、MOT。法務省公安調査庁入庁(北朝鮮、中国、ロシア、国際テロ、サイバーテロ部門歴任)。同庁金沢公安調査事務所長で退官。現在、経済安全保障マネジメント支援機構上席研究員、合同会社OFFICE TOYA代表、TOYA未来情報研究所代表、金沢工業大学特任教授(危機管理論)。


編集部より:この記事は一般社団法人 日本戦略研究フォーラム 2026年5月18日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方は 日本戦略研究フォーラム公式サイトをご覧ください。

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