海外で稼ぐようになったニッポン

20-30年前は日本は海外投資をしても失敗ばかり、という評価でした。NTTのインド投資、日本郵政のオーストラリア投資、キリンのブラジル投資…。なぜ失敗したか、このテーマだけで相当書けますが、私が在籍したゼネコンによる世界大手ホテルチェーン買収後の惨敗ぶりの理由はヒントになるかもしれません。

準大手のゼネコンが世界的著名なホテルチェーンを買収するのは規模感以上に本当に管理できる人材が社内にいるのかという疑問がありました。が、私が在籍したゼネコンには海外でのホテル運営部門があり、独自チェーンホテルとしてのブランドがあり、5つ星のホテルもいくつかあり、日本の皇族にもご利用いただいてきた自負がありました。これに付け込んだのがメインバンクでした。「良い案件があるけど興味ないか?」と持ち込まれたのはウェスティン ワールドワイドのホテル運営会社買収。世界でざっと80ぐらいの運営数と一部の所有権の買収話が転がり込み、買収するのです。

会長は当時秘書だった私に「ゼネコンとホテルの相乗効果は何かわかるか?」と聞かれ「…」でしたが自慢げに「キャッシュだよ。ゼネコンは長い手形決済。ホテルは現金。ここに相乗効果がある」と。さすが東大首席卒、旧大蔵省のキャリアだけあります。目の付け所がなるほど、です。

が、既存のホテル管理部門は社内にあれど管理部隊は10人にも満たず、あとは現地任せだった中でアメリカの勢いあるホテルチェーンの買収後、どう料理する気だったのでしょうか?会長と社長は買収したホテルの個別案件のスクラップ アンド ビルトをします。

トランプ氏にNYのプラザホテルを、千昌夫氏にハワイのウェスティン マウイを売る一方、ドイツ ハンブルグのフィアヤーレスツァイテンを新規に買うなど大蔵出身の会長と銀行出身の社長だけあって財務面の攻め方は圧倒的で、さらに欧州戦略と称してスイスホテルチェーンを買収する準備までしていたのです。ところが世界中に広がるホテルの運営管理をするのはゼネコンには程遠い状況でありました。世界に派遣されたチームは会社では選りすぐりの人材ばかりでしたが、それでも10数名であり、とても管理できる規模ではなかったのが実態でした。

多分、海外進出で失敗した他社も同様だったと思います。財務面を重視するあまり、現地での業務を管理する難しさを理解していない、これが日本企業の最大の弱点であったと思います。そしてその弱みを乗り越えて被買収先を手なずけることができたのはブリヂストンによるファイアストン買収とサントリーによるビーム買収が代表例ですが、両ケースとも並々ならぬ努力と忍耐と絶対に負けない気力でモノしたのです。

そんな日本がなぜ、海外で稼げるようになったのでしょうか?商社からメーカーまでこの20年以上、海外での展開を虎視眈々と狙ってきました。その中でうまく行ったケースの一つ、スズキ自動車のインドでの活躍ですが、理由の背景は現地の良きパートナーと共同で事業展開したからであります。中国での日本企業の投資も現地企業のパートナーとの事業展開が多いのですが、日本企業のアルアルともいえる「俺が主導権を取る」というおごりを捨て、お互いの強みを切磋琢磨できた部分を評価したメディアはあまりなかったと思います。

スズキ本社 Wikipediaより

カナダの資源は日本の商社にとって羨望の的。そして多くの商社がカナダの資源企業に投資をしていますが、決して買収などせず、3割とか4割程度の出資に抑え、あとは現地の企業に走らせるのです。なぜかといえば人材不足、経験不足、現地のノウハウ不足など日本企業による海外事業へのアプローチの弱点は周知であり、わざわざそんなリスクを犯す意味はないということでありましょう。

2025年に日本が海外直接投資で稼いだ額はなんと26兆円。うち、大半は第一次所得であります。つまり海外投資による配当金です。一方、直接モノを輸出して売る貿易はどうかと言えばこの15年だけ見てもほとんどプラスとマイナスの行き来でインパクトはありませんでした。近年だけ見るとコロナだった2022年に18兆円規模のマイナスになってから徐々に取り戻し、25年はかろうじて黒字転換しています。ですが、日本の事業構造からは貿易収支で稼ぐ体質には限界があり、よりアメリカ型とも言える投資による稼ぎのスタイルに変わってきていると言えます。

そう言えばひと昔前、外交の世界で「日本はカネだけ出す」と批判されたことがあります。湾岸戦争の時で日本のことを「小切手外交」と揶揄されたのですが、結局中東のことはわからないのでお金だけ出すから頑張ってね、というその発想は今でも企業ベースでは残っているともいえるのでしょう。寂しいといえば寂しいのですが、アメリカのビジネスもカネこそ全てという感が強いと思います。日本も知らぬ間に海外投資を重ね、配当収入に頼る時代になったということでしょう。

私のように海外にへばりついて骨を埋める覚悟で事業のファンデーションを確立するなんて前世紀の話なのかもしれません。

では今日はこのぐらいで。


編集部より:この記事は岡本裕明氏のブログ「外から見る日本、見られる日本人」2026年5月19日の記事より転載させていただきました。

アバター画像
会社経営者
ブルーツリーマネージメント社 社長 
カナダで不動産ビジネスをして25年、不動産や起業実務を踏まえた上で世界の中の日本を考え、書き綴っています。ブログは365日切れ目なく経済、マネー、社会、政治など様々なトピックをズバッと斬っています。分かりやすいブログを目指しています。

コメント投稿をご希望の方は、投稿者登録フォームより登録ください。

コメント