KADOKAWAの夏野CEOにアクティビストが再任反対を呼びかけ

KADOKAWAが揺れている。香港系アクティビスト投資家のオアシス・マネジメントが、6月24日に予定される定時株主総会を前に、夏野剛CEOの取締役再任に反対するよう株主に呼びかけたからだ。

オアシスの資料

問われているのは「夏野氏個人」だけではない

オアシスはKADOKAWA株を約13.76%保有する大株主であり、今回の動きは単なる批判声明ではない。特設サイト「A Better KADOKAWA」まで開設し、夏野体制の5年間について、業績悪化、説明責任の欠如、中期経営計画の未達、ガバナンス上の問題を列挙している。(ビジネスワイヤ)

オアシスが問題視しているのは、夏野氏の経営責任である。同社の主張によれば、夏野氏がCEOに就任した2021年以降、KADOKAWAは世界的な日本コンテンツ人気という追い風を十分に生かせなかった。オアシスは、2021年3月期から2026年3月期までの間に、営業利益が136億円から81億円に減少し、ROEも8.2%から0.5%に低下したと指摘している。(gamebiz〖ゲームビズ〗)

KADOKAWAは出版、アニメ、ゲーム、Webサービスなどを抱える日本有数のコンテンツ企業である。とりわけ「エルデンリング」で世界的に知られるフロム・ソフトウェアを傘下に持つことは、大きな資産である。しかしオアシスは、KADOKAWAがこのIP資産を十分に活用できていないと批判している。(AUTOMATON)

つまり争点は、単に「夏野氏を辞めさせるかどうか」ではない。日本発コンテンツが世界市場で評価される中で、KADOKAWAがその価値をどこまで収益化できているのか、という問題である。

「なろう系偏重」批判とIP戦略の行き詰まり

オアシスは、KADOKAWAのIP創出について「量を優先し、質が低下している」とも批判している。これに対しKADOKAWA側は、出版事業について「編集者1人当たりの出版点数を増やす方針ではない」と反論し、「量より質を軽視している」という指摘は事実と異なるとしている。(Yahoo!ファイナンス)

この対立は、現在のコンテンツ産業の難しさをよく示している。出版、ライトノベル、漫画、アニメ、ゲームを横断する「メディアミックス」は、KADOKAWAの伝統的な強みである。一方で、ヒット作への依存、制作費の高騰、海外展開の遅れ、IP管理の複雑化は避けられない。作品数を増やせば打率は下がり、作品を絞れば成長機会を逃す。

アクティビストは「もっと収益性を高めろ」と要求する。しかしコンテンツ企業にとって、短期的な利益率だけを追えば、クリエイターや編集現場の厚みを損なう危険もある。ここにKADOKAWA問題の難しさがある。

KADOKAWA側は「改革の継続」を主張

KADOKAWAの取締役会は、オアシスの提案に反対している。会社側は、夏野氏のもとで売上は拡大しており、出版、アニメ、ゲームなどで成長基盤を整備してきたと説明する。そのうえで、2026年度から2031年度までの新中期経営計画を発表し、2031年度に売上高4000億円、営業利益380億円、ROE9.4%、EPS180円を目指すとしている。(Yahoo!ファイナンス)

また、2024年の大規模サイバー攻撃についても、KADOKAWA側は「夏野氏のIT企業での経営経験があったからこそ、被害拡大を抑える迅速な対応ができた」と主張している。(Yahoo!ファイナンス)

会社側の論理は明快だ。いまは構造改革の途中であり、この段階でトップを交代させれば、改革の継続性と経営の安定性を損なうというものである。

しかし株主から見れば、これもまた「あと6年待ってくれ」という話に聞こえる。オアシスが問題にしているのは、まさにこの「先送り」である。

サイバー攻撃とガバナンスの問題

KADOKAWAをめぐっては、2024年の大規模サイバー攻撃も大きな痛手となった。情報流出やサービス停止は、企業イメージだけでなく、クリエイター、取引先、ユーザーにも影響を与えた。

もちろん、サイバー攻撃そのものは外部からの犯罪行為であり、すべてを経営者の責任に帰すことはできない。しかし問題は、巨大なコンテンツ企業として、情報管理、危機対応、説明責任が十分だったのかという点である。

近年の上場企業では、サイバーセキュリティは単なるIT部門の問題ではなく、取締役会レベルのガバナンス問題である。KADOKAWAのように膨大なユーザー情報、投稿プラットフォーム、出版・映像・ゲーム関連データを抱える企業であれば、なおさらである。

アクティビストは敵か、目覚まし時計か

日本では、アクティビスト投資家というと、いまだに「物言う株主」「短期利益を求める外資」という受け止め方が根強い。たしかに、すべてのアクティビストが長期的な企業価値を考えているわけではない。

しかし今回のKADOKAWAのケースでは、オアシスの批判が単なる株主還元要求にとどまっていない点は注目される。問題視しているのは、IP戦略、フロム・ソフトウェアの活用、出版・アニメ事業の収益性、中期計画の未達、サイバー攻撃後のガバナンスなど、経営の中身に踏み込んだ論点である。

もちろん、オアシスの主張がすべて正しいとは限らない。KADOKAWA側が言うように、外部株主がコンテンツ事業の特性を十分に理解していない部分もあるだろう。だが、経営陣が計画未達を繰り返し、その説明を「次の中計」に先送りするなら、株主から厳しい声が上がるのは当然である。

KADOKAWAは「世界企業」になれるのか

KADOKAWAには、日本のコンテンツ産業を代表する資産がある。出版、漫画、ライトノベル、アニメ、ゲーム、動画プラットフォーム、教育事業、所沢サクラタウンまで、事業領域は広い。だが、広いことと強いことは同じではない。

問題は、これらの資産を世界市場でどう組み合わせ、どう稼ぐかである。日本のコンテンツは世界的に評価されている。しかし、それを生む企業が十分な利益を上げられず、株主から経営刷新を迫られるとすれば、これはKADOKAWAだけの問題ではない。

クリエイターを守るためにも、企業は稼がなければならない。IPを育てるためにも、投資原資が必要である。ガバナンスが弱く、利益率が低く、説明責任も不十分なままでは、優れた作品群も企業価値に結びつかない。

株主総会はKADOKAWAの信任投票になる

6月24日の株主総会は、夏野CEO個人の再任をめぐる投票であると同時に、KADOKAWAの経営陣に対する信任投票でもある。

会社側は「改革を継続させるために夏野氏が必要だ」と訴える。オアシスは「この5年間の結果を見れば、これ以上待てない」と訴える。どちらの主張にも一理あるが、最終的に問われるのは、KADOKAWAが自らの豊富なIPを本当に世界企業の収益力へ変えられるのかである。

コンテンツ企業にとって最大の資産は作品だが、上場企業である以上、それを持続的な企業価値に変える経営能力も問われる。KADOKAWAは「日本のコンテンツ企業」から「世界で稼ぐIP企業」へ脱皮できるのか。今回のアクティビストとの対立は、その成否を占う重要な局面になりそうだ。

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コメント

  1. 早川蒼真 より:

    私はオアシス側の問題提起に基本的に賛同します。理由は単純で、「成功体験への固執が組織を滅ぼす」という、歴史が何度も繰り返し示してきた教訓が、今のKADOKAWAに重なって見えるからです。

    賢者は歴史に学ぶ、と言います。

    過去の成功体験が強すぎる組織ほど、環境が変わった時に方向転換できず、むしろ自分を勝たせてくれた武器にしがみついて自滅する。日本人なら、まず連想するのは大日本帝国海軍でしょう。旧日本海軍は航空戦力の重要性を全く理解していなかったわけではなく、開戦時点で真珠湾攻撃に見られるように実質的な航空主兵運用も行っていた。しかし、日本海海戦という鮮烈な成功体験に由来する艦隊決戦・戦艦中心の発想や、補給・海上交通保護への軽視を十分に脱しきれず、戦艦大和という象徴を生みながらミッドウェーで主力空母を失い、最終的に敗戦に至った。陸軍も奉天会戦の白兵突撃を神話化し、インパールで補給を無視した突撃を強要した。「過去に勝てた方法」を「未来に勝てる方法」と無自覚に信じ続けた結果です。

    同種の事例は世界史にも溢れています。
     ◆ナポレオンはアウステルリッツの機動戦術の成功を過信してロシア遠征で帝国を失い、
     ◆ヒトラーは電撃戦の勝利体験から「死守命令」に拘泥してスターリングラードで第六軍を失った。
     ◆古代アテネはペルシャ戦争の勝利に酔ってシケリア遠征を強行し、海軍主力を全滅させてペロポネソス戦争敗北の遠因を作った。
     ◆レセップスはスエズの水平式運河の大成功に盲執し、地形も気候も全く違うパナマで同じ方式に固執して数万の死者と大疑獄を招いた。
     ◆ブロックバスターは全米の店舗網と延滞料金という巨大キャッシュフローへの固執からNetflixの買収提案を一蹴し、2010年に連邦破産法第11章を申請するに至った。
     ◆ボーイングは737の50年来の信頼性に縛られ、新機体設計の巨額コストを嫌って既存機にMCASという無理なソフト補正を施し、737 MAX連続墜落を招いた。
     ◆コンコルドは英仏の国家的威信と巨額開発費への執着により、開発費を含む事業全体では経済合理性に大きな疑問を残し、サンクコストの誤謬の代表例として語られる。
     ◆セブン&アイは店舗網とnanacoの成功を背景に、認証設計・開発体制・システムリスク管理の検証が不十分なままセブンペイを強行し、数ヶ月で廃止に追い込まれた。
     ◆テラ/ルナはUSTとAnchorの20%金利という成功モデルへの信奉が、ペッグの脆弱性を指摘する声を「FUD」として排除させ、約400億ドル、円換算で数兆円規模の価値が短期間で失われた。

    共通点は、内部の論理だけで自己正当化し続けた点です。

    ではKADOKAWAはどうか。構図は驚くほど似ています。出版・ラノベ・アニメ・ゲームを束ねるメディアミックス、フロム・ソフトウェアという世界級IP、所沢サクラタウン。資産は豊富です。しかし、オアシス資料によれば、夏野氏就任前の2021年3月期から2026年3月期にかけて、営業利益は136億円から81億円へ、ROEは8.2%から0.5%へ低下している。もちろん会社側には一時要因や投資局面という説明もあるだろうが、世界的に日本コンテンツへの追い風が吹く中で、この数字は株主が経営責任を問う十分な材料になる。

    会社側の「改革は途中だ、いま交代させれば連続性を損なう」という主張は、コンコルドやブロックバスターの経営陣が言い続けたセリフとほぼ同じ構造です。2032年3月期、つまり2031年度最終年度に売上高4000億円、営業利益380億円という新中計も、未達を繰り返した過去の中計の延長線上で語られる限り説得力に欠ける。「あと6年待ってくれ」は、サンクコストの誤謬を株主に押し付ける論法に聞こえます。2024年のサイバー攻撃対応を「夏野氏のIT経験があったから被害を抑えられた」と弁護するのも筋が悪い。サイバーガバナンスは事故が起きる前に整備しておくものであって、起きた後に誇るものではないからです。

    もちろん、オアシスの主張がすべて正しいわけではありません。コンテンツ事業は短期利益率だけで測れず、編集現場やクリエイターの厚みを削れば長期競争力を失う。短期マネタイズの強要は、シケリア遠征のような無理な拡張となって現場を疲弊させる危険があります。「量より質」の議論には一理あります。しかし、それは「現状維持でよい」理由にはならない。

    賢者は歴史に学び、愚者は経験に学ぶ。KADOKAWAに必要なのは、フロム・ソフトウェアを擁するという経験への安住ではなく、「成功体験に固執した組織は必ず滅びる」という歴史への謙虚さです。アクティビストは敵ではなく目覚まし時計、という記事の表現に強く同意します。6月24日の総会が、KADOKAWAにとって大和の悲劇を回避する分岐点になることを願います。

    閑話休題

    あれもこれも手を広げすぎ