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脱化石燃料会議の位置付け
「脱化石燃料に関する第1回国際会議」が、2026年4月24日~29日、コロンビアの石炭輸出港サンタ・マルタで開催された。
2023年にUAE・ドバイで開催されたCOP28での合意文書に「化石燃料からの移行」が盛り込まれたことを受け、2025年11月のブラジル・ベレンでのCOP30では、「脱化石燃料ロードマップ」の策定に85カ国が賛同する動きがあった。
他方、ロシア、サウジアラビアなどの資源国は強硬にこれに反対し、中国、インドなどの新興国もそれに同調したため、合意文書には盛り込まれるに至らなかった。化石燃料に関する言及がなかったことに対する不満を考慮し、議長国ブラジルは自らのイニシアティブとして脱化石燃料ロードマップをCOP31に提出すると表明した。またコロンビアとオランダが共催国となって2026年4月に脱化石燃料閣僚会合を開催すると宣言した。
主催国コロンビアのサイトでは、本会議は①化石燃料の秩序ある段階的廃止を推進する用意のある国々のための持続的な政治的枠組み、②UNFCCCを補完し、COP30議長国のロードマップに貢献、③各国および地方自治体、市民社会等の参加を通じて気候ガバナンスを深化させる革新的かつ水平的な対話と説明する一方、①UNFCCCに代わる枠組みではない、②COP30議長国が策定したロードマップに代わるものではない、③懐疑論者を説得する場ではない、④新たな化石燃料条約に向けた交渉の場ではないとしていた。
COPにおいて有志連合として発足した脱石炭連合PPCA(Powering Past Coal Alliance)および脱石油ガス同盟(BOGA:Beyond Oil and Gas Alliance)の参加国・参加地域が招聘され、今回は57カ国とEUが参加した。他方、PPCA、BOGAに参加していない世界最大排出国である米国、中国、インド、ロシア、産油国、日本は招待されず、参加もしなかった。
サンタマルタ会議は、単なる環境運動ではなく、国連交渉の合意形成限界を背景に、有志国による規範形成を通じて国際世論と投資行動を変えようとする「ミニラテラル外交」の一形態と見ることもできる。
メディアが強調する脱化石燃料会議の意義
日本の新聞でこの会議を大きく取り上げたのは、特派員を派遣した朝日新聞程度であるが、環境関連のビジネスマガジン「オルタナ」はこの会議の意義を以下のように強調している。
- 本会議の目的は「化石燃料から脱却すべきか」を議論することではなく、「どのように脱却するか」を議論する点にある。
- COPでは全会一致が必要なため、産油国の反対で化石燃料そのものを対象とした議論が進みにくかった。それに対しサンタマルタの会議は、志を同じくする国々による「実行重視」の枠組みである。
- 日本での報道は特派員を派遣した朝日新聞程度であるが、海外ではガーディアン、ニューヨーク・タイムズ、ワシントン・ポスト、フィナンシャル・タイムズ、ル・モンドなど、非常に大きな注目を集めている。ニューヨーク・タイムズは「ついに、ついに、ついに、気候危機の要因の86%を占める化石燃料に焦点が当てられる」という南アフリカの人権活動家でグリーンピース・インターナショナルの元事務局長のクミ・ナイドゥ氏の言葉を紹介している。
- ナイドゥ氏は、今回のような準公式の国際会議が実質的な影響を与えた前例として、対人地雷禁止条約(オタワ条約)を挙げた。同条約は、当初44カ国による国際会議がきっかけとなって1997年に署名が始まり、1998年時点で133カ国が署名、47カ国が批准したものだ。有志国と市民社会が連携して人道的な条約を生み出した点で画期的な「オタワ・プロセス」と呼ばれる。
- 会合ではファティ・ビロルIEA事務局長が「イラン戦争と供給不安により、各国は再エネへの転換を加速させる」と発言したことが、会議の盛り上がりを決定づけた。コロンビアのベレス環境大臣は「化石燃料は希少性を操作できるため、安全保障を提供できない。再エネ拡大こそがエネルギー安全保障だ」と述べた。
- サンタマルタ会議ではフランス政府が化石燃料依存からの段階的脱却のためのロードマップを発表した。これは2030年までに脱石炭、2045年までに脱石油、2050年までに脱天然ガスというもので、ル・モンド紙は「これほど明確かつ包括的な計画を発表した国は他にない」とのアナリストのコメントを報じた。
- ベレス環境大臣は閉会時、「これは終わりではない。新たなグローバル気候民主主義の始まりだ」と宣言した。
- 第2回会合は2027年2月、ツバル・アイルランドの共催で開催される。それまでに、化石燃料の生産・輸出に焦点を当てた各国の脱化石燃料ロードマップの設計、マクロ経済依存や金融制度の改革、化石燃料の生産者と消費者の連携を促進する「化石燃料フリー」の貿易システムの構築といった3つの作業部会を設置する。
朝日新聞もオルタナもこの会議の意義を特筆大書しており、会議に参加しない日本は「脱化石燃料の動きに乗り遅れる」と、いつものことながら、最後は日本政府批判につなげられている。
脱化石燃料会議のインパクトへの疑問
しかし筆者はこの会議のインパクトについては懐疑的である。
筆者が3月に出席したCERAウィークでは、電力需要の急増に伴うエネルギー需要の増加に対応し、化石燃料、原子力、再エネを含め、全てのエネルギー源を動員するという議論が主流だった。CERAウィークでの議論とこの会議での議論は平行世界かとすら思える。
2023年のCOP28で熾烈な交渉の結果、エネルギー転換を扱うGST決定パラ28において「化石燃料からの移行」を含む8つの行動を列挙し、「それぞれの国情、道筋、アプローチを考慮し、国ごとに決定された方法で貢献する」という玉虫色の合意で決着した経緯がある。
正反対の主張をしている欧米諸国もサウジアラビア・ロシアも満足させる以上、同床異夢は不可避であり、欧米諸国は「初めて脱化石燃料を明記した」と自画自賛した一方、サウジアラビアは「8つの行動はアラカルトメニューであり、どれをどの程度やるかは各国次第である」と解釈した。巨大なエネルギーシステムを国連の文書だけで変えることは難しい。
今回の会議は有志連合であるから、彼らが率先垂範して脱化石燃料を進めるのだろう。それは参加国の自由意志であるが、フィナンシャル・タイムズは5月18日付の記事「化石燃料廃止を目指す、混迷し理想主義的でもある困難な挑戦」(The messy, chaotic and possibly quixotic quest to phase out fossil fuels)において、その有効性について慎重な評価をしている。そのポイントは以下の通りだ。
- 今回の参加国の世界全体の化石燃料消費量に占めるシェアは3割程度でしかない。米国、中国、インド、ロシア、湾岸産油国など主要プレーヤーが不参加であり、世界全体の化石燃料削減に直結する枠組みにはなっていない。
- 会議ではエネルギー安全保障や価格安定への配慮が十分でないとの批判も強い。ウクライナ戦争やホルムズ海峡危機を経て、多くの国は脱炭素よりも供給安定やエネルギー価格抑制を優先せざるを得なくなっている。再エネ拡大だけではなく、送電網、蓄電池、原子力、CCS、水素、LNGなどを含む現実的な移行戦略が必要だが、サンタマルタでは理念先行の色彩が強かった。
- さらに、途上国にとっては化石燃料収入が国家財政や雇用を支えており、「化石燃料をやめよ」と求めながら十分な移行資金を提供しない先進国への不満も大きい。化石燃料補助金削減も、インフレや社会不安を招きやすく、政治的には極めて困難である。
- 他方、この会議を単なる失敗とみなすのも適切ではない。地雷禁止条約や石炭火力フェーズアウト連合のように、最初は少数国による規範形成から始まった事例は多い。サンタマルタ会議も、直ちに世界を変えるというより、「化石燃料拡大の正当性を徐々に低下させる」規範形成の場としての意味を持つ可能性がある。
- 総じて言えば、サンタマルタ会合は理念的には前進だったが、エネルギー安全保障・経済競争力・途上国開発との両立という現実的課題への答えはまだ示せていない。今後、本当に重要なのは、「脱化石燃料」を掲げることではなく、それを社会的・経済的混乱なしにどう実現するかである。
上記の記事が指摘する通り、本会議の最大の限界は米国、中国、インド等の主要国が参加していないことである。
米国は温暖化防止に積極的なバイデン政権の時ですらPPCAにもBOGAにも参加していない。石炭産出州を敵に回すことはしにくいし、重要な収入源であるシェールガスを否定することは政治的に困難だ。
クリーンエネルギー大国である中国は環境派から賞賛されているが、太陽光パネルや電気自動車を製造する際に使われているエネルギーの大部分は石炭火力だ。
インドはかつて脱石炭を主張する先進国に対して「それなら脱化石燃料というべきだ」と反論したが、これは石炭だけを槍玉にあげる先進国のダブルスタンダードへの意趣返しであり、脱化石燃料そのものを支持しているわけではない。インドの政府関係者は石炭火力の増設すら口にしている。彼らがこのイニシアティブに参加することは想定されず、「3割同盟」が「7〜8割同盟」に昇格する見込みはない。
また先進国のみならず、途上国においても脱化石燃料ロードマップを推進するならば、エネルギーシステム転換のために膨大な資金が必要となる。
2023年のグローバルストックテイク決定文書では「途上国の現在のNDC実現のために2030年までに約6兆ドル、2050年全球カーボンニュートラルを達成するためには年間4〜5兆ドル必要」との数字が掲げられている。
脱化石燃料会議に参加する途上国の狙いの一つは、それによって追加的な資金援助が得られるかどうかであろう。新たに設置される作業部会がそれを実現できるのか、はなはだ疑問である。
さらに「化石燃料フリーの貿易システム」が何を想定しているのかは不明だが、化石燃料貿易を制限するために関税を引き上げる、化石燃料依存の高い国との貿易関係を見直す等は自らの首を絞めることになるだろう。
上記の論点に加え、サンタマルタ会議で強く推奨された再エネ拡大の議論は、中国技術への過剰依存、中国がサプライチェーンを支配する重要鉱物への依存拡大という経済安全保障上のリスクをもたらすという点を考慮していない。
「化石燃料は希少性を操作できる」というベレス環境大臣の発言は、そのまま重要鉱物を政治的武器として使う中国にも当てはまる。日本について言えば、対中依存が高まるよりは化石燃料依存脱却が遅れる方がましだと思う。
筆者は大きな方向性としての脱化石燃料依存は進むと考えている。しかしそれは脱炭素という目的を達成するためではなく、各国にとって最も重要な課題であるエネルギー安全保障、エネルギー価格の低廉さが脱化石燃料によって実現されることが前提である。その際、再エネに伴う新たな経済安全保障問題にも留意することが求められる。
再エネ技術の国内調達や重要鉱物の対中依存低減を進めれば、再エネの調達コストは上昇し、手頃なエネルギー価格との関係で最適導入量が変わってくることにもなろう。要するにエネルギー政策は様々な政策目的をバランスさせながら、多様なエネルギー源を組み合わせて使っていくしかない。
「脱化石燃料」という理念が先行した国際会議がゲームチェンジャーになると思えない理由はそこにある。







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