「どんちゃん」と呼ばれた店員が教えてくれたこと

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接客のうまい人、というのはいる。愛想がよくて、言葉が滑らかで、所作が美しい。そういう人を見ると「プロだな」と思う。思うのだが——なぜか、あまり記憶に残らない。

これが不思議で、ずっと引っかかっていた。

接客・営業の心得 印象に残る感じのいい人
執筆:下澤純子 企画・政策:(株)日本マネージメントリサーチ

本書を読んで、少し整理できた気がする。こんなエピソードが出てくる。

クリスマスケーキを受け取りに百貨店へ行った。人手不足で、普段は内勤らしき人まで接客に出ている。ケーキを受け取った瞬間、「お疲れ様でした!」と大きな声をかけられた——という話だ。

そこは「ありがとうございました」だろう、と一瞬固まる。でも次の瞬間、力が抜けて笑顔になった。多忙でうっかり間違えたのだろう。彼女には華やかさも洗練もなかったが、10年以上経った今も鮮明に覚えている。

後に、彼女は社内で「どんちゃん」と呼ばれていたと知る。

これだ、と思った。完璧な接客より、人間らしいひとことの方が記憶に残る。「どんちゃん」は接客のプロではなかったかもしれない。でも、誰かの記憶に10年以上居続けている。どちらがすごいか。言うまでもない。

本書が面白いのは、「ファンをつくる個性」の話で、プラスの個性だけを語らないところだ。

著者自身の話として、保険営業をしていた頃、方向音痴で毎度道に迷っていたら「そういうキャラ」として覚えられた、というエピソードが出てくる。面白がられつつ、それが親しみやすさになったという。

これは——ちょっと救われる話ではないか。

完璧な自分を演じ続けることに疲れている人は、世の中に相当いる(私も含めて)。でも本書は言う。失敗した自分、ダメな自分、こんなことに感動する自分——それが全部「個性」であり「キャラ」につながる、と。

カッコつけなくていい。いや、カッコつけない方がいい、ということだ。

ただ一点だけ、本書が釘を刺していることがある。「あだ名で呼ばれる人になれ」と言いつつ、「お客様をあだ名で呼んではいけない」という話だ。

これをやって失敗した人を何人も見ている、と著者はいう。親しみやすさと馴れ馴れしさは別物で、その境界線を間違えると一発で関係が壊れる。自分がどんちゃんになるのは自由だが、相手をどんちゃん扱いするのは全くの別話だ。

本書の終盤に、ファミレスでの話が出てくる。

「取り皿をいただけますか」と聞いたら、店員が「お皿はドリンクバーにあります」と案内した上で、「お持ちしましょうか?」と持ってきてくれた——という場面だ。

どこにでもある話のようで、これができる人は意外と少ない。ただ「あそこにあります」と指さして終わる人の方が多い。「お持ちしましょうか」と言える人は、相手が何を必要としているかを考えた上で動いている。

気づかいは、思っているだけでは伝わらない。言葉にして、行動にして、初めて伝わる——本書はそれを繰り返し言っている。

「助けてほしい」と言えることが本当の自立だ、という一節も印象に残った。弱音を吐けない人は、誰かの弱音にも気づけない。「お互い様」の関係は、言葉を出す勇気から始まる。

どんちゃんが10年以上記憶に残っているのは、接客が完璧だったからではない。人間だったから、だ。本書はそのことを、押しつけがましくなく、静かに伝えている。

【編集注】
本書は市販本ではなく、冊子として配布されているものである。ただし、その内容は実践的な示唆に富んでおり、多くの読者に届ける価値があると判断し、通常の書籍紹介と同じ形式でコラムを作成した。

尾藤克之(コラムニスト、著述家、作家)

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コメント

  1. 岡本マヤ より:

    友達にしたい人✕一緒に仕事をしたい人

    私は飲食店のアルバイトの経験は学生時代にしかないけどファミレスでもミスドでもおなじような場面がありました。

    取り皿がほしいと言われればザッと見て何人家族、子どもがいるか数えてにっこりスマイルを見せてから足早に取りに行き「お使いください」と渡すと「わぁ!ありがとう!」と言われる。

    「接客は相手に恥をかかさない事だと学んだ」

    無言の笑顔は言葉を超える瞬間だった。

    どんちゃんはかわいい。友達にしたい人。

    相手が何を言ってくるかを先に読んで次に何を言うかはこわいと言われる。
    仕事ではいいけど友達にはなりたくないと。
    ……
    幾つものペルソナが愛から遠ざけられている。

  2. 岡本マヤ より:

    【ホスピタリティNo.1】

    何度かブログにも書いた事がある印象深い接客マナーです。

    その日、私はフジコ・ヘミングさんのコンサートに行く予定になっていた。同時期にスウェーデン大使館でフジコ・ヘミングさんのイラスト展もあったので開演前に虎ノ門に行こうと思った。虎ノ門というとホテルオークラがある。

    当時都内ホテルホスピタリティNo.1はオークラだと言われた。私はホテルオークラの目の前で作ってくれるという話題のクレープシュゼットを食べたかったので大使館の後オークラへ行こうと思った。オークラへ行くとお一人様でもスィーツビュッフェに案内してくれた。

    話題のクレープシュゼットを目の前でくるくるオレンジの皮をむきながら作ってくれてフランベもしてくれる。

    それを持って席に戻ると男性スタッフが数人私の小さなバッグを取り囲んで睨んでいた。
    ほとんど現金は入っていないカジュアルなバッグを見張ってくださっていて「すみません!」と戻るとサーッと散っていかれる。

    礼を言わさないサービス。

    恥ずかしかったけど気を取り直してクレープシュゼットを食べようと思った時真横にウェイターの方が音もなく近づいて来て
    「こちらをのせて食べると格別です」と小さな声でコトリ、とバニラアイスのカップを置いて行かれた。「わぁ!あり…」ありがとうという間もなくスッと去って行く。

    礼を言わさないサーヴィス!

    私が1人でいても居心地の良い時間を無言で作ってくださる。

    「これがホスピタリティNo.1なのね!」

    いまだに忘れられない。。。