トランプ政権の「アメリカ・ファースト」路線が国際秩序を揺さぶる中、日本を含む中堅国の間で「ミドルパワー連帯」という概念が再び注目を集めている。カナダのマーク・カーニー首相はダボス会議で「可変的な幾何学(variable geometry)」——すなわち問題ごとに即席の連合を組む外交——を提唱し、豪州のアルバニージー首相とともに「不確実な世界における中堅国の自律的な道」を宣言した。しかしこの構想は、現実主義的な視点から見れば、国際政治の本質を直視しない甘い幻想に過ぎない。
フォーリン・アフェアーズ誌最新号(2026年5月)が「ミドルパワーの幻想(The Middle Power Delusion)」と題して論じたのは、まさにこの問題だ。
「連合」には必ず錨が要る
ミドルパワー連合が直面する根本的なジレンマは、連合が大きくなるほど重みは増すが、まとめるのが難しくなるという点だ。小さな連合は機動性はあるが影響力に欠け、大きな連合は拒否権・内部対立・ただ乗りの問題を抱える。成功する連合には必ず「錨」となる国家——コストを負担し、迷う国を安心させ、離反者を抑止できるリーダー——が必要だ。ナポレオンに対して英国が、ヒトラーに対して英ソが米国参戦まで果たしたのがその役割だ。しかし今日、そのような役割を担えるミドルパワーは存在しない。
カーニーが提唱する「可変的な幾何学」は、ミドルパワー秩序ではなく、通常の国際政治——強大国が分断し、買収し、脅し、迂回しようとする連合を罰する中で、各国が圧力の下でもがく世界——に過ぎない。
大国は「迂回」を許さない
この点を端的に示す歴史的事例がある。2019年、欧州はINSTEXという機構を設立し、米国の制裁を迂回してイランとの取引を継続しようとした。するとワシントンはINSTEXの利用国をドル決済システムから排除すると脅した。同年、トルコがロシア製防空システムを購入すると、米国はトルコをF-35プログラムから追放した。2025年にはインドが米国の圧力にもかかわらずロシア産石油を買い続けた結果、制裁上の影響を受けた。
これが現実だ。ミドルパワーが「自律的な道」を歩もうとするたびに、大国は経済・安全保障・技術の各領域で具体的なコストを課してきた。「自由な買い物」ができる国際秩序などというものは存在しない。
日本への示唆 :「第三の道」という誘惑の危うさ
日本国内でもこの種の議論は根強い。米中の「どちらにも偏らない」「戦略的自律性を確保する」という主張は、一見バランスのとれた現実主義に聞こえる。しかし上記の論理を適用すれば、その本質は「錨のない連合」に加わる、あるいは単独でコストを負担できない「自律性」を夢想することにほかならない。
日本は世界第4位の経済規模を持ち、高度な技術力と地政学的要衝を占める国家だ。しかしその防衛は依然として日米同盟の抑止力に大きく依存しており、エネルギーと食料の対外依存度は高い。シーレーンの安全保障なしに日本経済は成立しない。この構造的現実を直視すれば、「ミドルパワー連帯」で安全保障を調達し、「別の場所で技術を調達し、また別の場所で市場アクセスを得る」という「お好み外交」が幻想であることは明らかだ。
現実主義が示す処方箋
国際政治に「自然状態」という表現を使うのは誇張ではない。ウクライナ、台湾海峡、ホルムズ海峡での緊張が示すように、力の空白は必ず埋められる。その現実の中でミドルパワーに許される選択肢は、「錨となる大国との同盟を深化させながら、その中でいかに自国の国益を最大化するか」という問いに真剣に向き合うことだ。
「どちらにも偏らない」という姿勢は、いざという時に「どちらにも守ってもらえない」という結果に直結する。ポピュリズムに流されない現実主義とは、この不都合な真実から目を背けないことを意味する。

ランプ大統領と高市首相 ホワイトハウスHPより







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