16年間君臨してきたハンガリーのオルバン政権が4月12日に実施された総選挙で敗北し、マジャル新政権が先月12日に正式に発足した。マジャル首相は、長年首相を務めたヴィクトル・オルバン氏が任命した側近を排除するという公約を実行に移しつつある。最初のターゲットはシュヨク大統領だ。マジャル首相はシュヨク大統領をオルバン氏の「傀儡」と見なし、繰り返し辞任を求めてきた。政府は1日、弾劾手続きを開始した。新政権は議会の3分の2の多数を利用して憲法を改正し、大統領を強制的に解任(弾劾)する手続きを進めており、大統領の罷免は現実的だ。

マジャル首相、ベルリンを訪問し、メルツ独首相と会見、2026年6月2日、ハンガリー首相府公式サイトから
シュヨク大統領は前任のカタリン・ノヴァーク大統領が児童虐待事件の恩赦スキャンダルで辞任したことを受け、2024年2月に当時の与党「フィデス」の主導により選出された。任期は2029年3月4日までだ。ハンガリーは首相が実質的な行政権を握る議院内閣制だ。大統領職は主に儀礼的な国家元首だが、議会で可決された法案を審議のために議会に差し戻す権限や、法案を憲法裁判所に送って違憲審査を求める権限を有している。
シュヨク大統領は元弁護士であり、2016年からは憲法裁判所長官を務めていた。オルバン前首相率いる右派与党「フィデス」の強力な後押しで大統領に就任したため、その政治的基盤は前政権に深く結びついている。マジャル首相は「オルバン前政権が法の支配や民主主義を解体し、LGBTQ+を制限する法律を可視化させた際にも、国家元首として異議を唱えず、沈黙によって前政権の利益を優先してきた」と厳しく批判している。 マジャル新政権下では、憲法裁判所長官のペーター・ポルト氏と最高裁判所長官のジョルト・アンドラーシュ・ヴァルガ氏をはじめとする、他の複数の高官も辞任に追い込まれるものと見られている。
シュヨク大統領は自身への退陣要求に対し、「大統領は特定の政治陣営に属さず、国家の統合を体現する存在である」という立場を強調。また、「自身の退任を求める法的・憲法上の正当な理由はなく、任期を全うすることが職務である」と反論している。シュヨク大統領との対立は、新政権にとって、「オルバン体制」の側近たちとの最初の対決となる。
(中道右派政党TISZA(ティサ)は4月12日の国民議会選挙(定数199)で、2010年から圧倒的多数で政権を握っていたオルバン首相率いる右派民族主義政党「フィデス」に対し、圧勝を収めた。マジャル氏が率いるティサは憲法改正が可能となる総議席の3分の2を上回る141議席を獲得。一方、オルバン氏が率い、与党だった右派「フィデス・ハンガリー市民連盟」は経済低迷や汚職体質への国民の不満から、83減の52議席と惨敗した)
マジャル氏は1日の朝、マルタ・ゲログ法相とともに、ブダ城の丘にある大統領官邸で大統領を訪問した。官邸入口前で行われた記者会見で、マジャル氏は現大統領がオルバン政権による容認できない措置や発言について沈黙を貫いてきた事例を数多く挙げ、非難した。同氏は「オルバン政権が集会の自由を制限した際にも何も発言しなかった。こうしたことやその他多くの出来事から、シュヨク氏はハンガリー国民全体を代表する資格がない」と主張している。
一方、シュヨク氏は最近、欧州評議会の諮問機関であるヴェネツィア委員会に対し、既存の憲法上の問題点を調査するよう要請したことを明らかにしている。大統領は新政権の退陣要求に屈せず、新政権と対決する姿勢を崩していない。国内の議会で圧倒的劣勢に立たされている大統領にとって、権威あるヴェネツィア委員会に「新政権による強引な憲法改正や大統領解任劇は、国際的な法の支配の基準から逸脱している」という批判的な意見書を出してもらうことで、新政権の暴走を牽制する数少ない強力な防衛手段(外交的カード)になるという読みがあるはずだ。
ちなみに、欧州評議会の諮問機関の同委員会(事務局はフランスのストラスブール)は東西冷戦終結直後の1990年に設立された。旧東欧諸国が民主化・資本主義へ移行する際、健全な憲法や法制度を構築するための「緊急の憲法援助」を行うことが目的で、加盟国の法律や憲法が「人権・民主主義・法の支配」という国際基準に適合しているかを客観的に審査する機関だ。
なお、マジャル新政権が誕生して以降、ハンガリーと欧州連合(EU)の関係は急速に正常化してきた。EU(欧州委員会)は2026年5月29日、オルバン前政権の「法の支配の侵害(汚職や司法への介入)」を理由に凍結していた164億ユーロ(約2.7兆円)以上の補助金・融資の凍結解除を正式に発表した。マジャル新政権が汚職対策機関の権限強化や司法の独立など、迅速なシステム改革に着手したことがEU側に高く評価された結果だ。前政権はEUの重要決定(ウクライナ支援など)に対し、拒否権を連発して交渉を人質に取る外交を行ってきた。これに対しマジャル首相は「原則として拒否権は使わず、誠実な対話で解決する」と表明し、EUの信頼できるパートナーに戻る姿勢を示している。
また、オルバン前政権はLGBTQ+(プライドパレード)の開催を法律で全面的に禁止した。しかし新政権の発足に伴い、ブダペスト警察は方針を180度転換し、今月27日に開催予定のプライドパレードを正式に許可した。 EU最高裁判所(欧州司法裁判所)も、前政権が作った反LGBTQ+法(いわゆるプロパガンダ禁止法)を違憲として却下する判決を直近で下しており、新政権のもとで前政権時代の差別的な法律は今後次々と撤廃される見通しだ。
ブダペストのカルチョーニ市長は、今回のパレード解禁に対し「自由と愛は禁止できない」と述べ、ハンガリー社会が国際的な「民主主義と人権の基準」へ戻りつつある象徴的な出来事と評価しているが、当方は同市長の考えには完全には同意できない。LGBTQ+問題ではオルバン前政権の考えを支持しているからだ。
編集部より:この記事は長谷川良氏のブログ「ウィーン発『コンフィデンシャル』」2026年6月4日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿を読みたい方はウィーン発『コンフィデンシャル』をご覧ください。







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