物価高が生む「インフレ税」が財源になった物価高対策予算は変だなあ

中村 仁

高市首相は約3兆円の補正予算は、長引く中東情勢の混乱を踏まえ、ガソリン、電気・ガス代の負担などを軽減するためという。「赤字国債3兆円を当面の財源にする」、「26年度は税収が(見込みより)増加するので、年度を通してみると、年間の赤字国債発行額は増えない」、「従って国債マーケットに影響を与えない」という主旨の説明をしました。

高市首相 首相官邸HPより

つまり首相発言を翻訳すれば「当初は赤字国債を発行せざるを得ないけれども、26年度1年間でみると、(物価高に伴って税率を上げなくても)税収が増えるので、年間の赤字国債の発行額を減らせるから、財政状況の悪化につながらない」という、回りくどい理屈になります。

物価高に伴って税率を上げなくても、税収が増える現象を「インフレ税」と言います。政府は財務省を含め、「インフレ税」という表現を使いません。「目に見えない実質的な増税」ととられるのを嫌うからです。高市首相は「インフレ税」が積極財政の財源になると思っているに違いない。

私はこの補正予算案はおかしな理屈の上になり立っていると思う。商品、サービスの価格が上がる物価高で、消費税率が不変でも「値上がりした価格×消費税率(基本税率10%)」により、支払う消費税は増えます。企業も「販売価格増加→企業利益増加→法人税増加」という流れになります。

税収が増えるのは物価高による

消費税収は22年度22兆円、25年度25兆円です。法人税収は22年度15兆円、25年度18兆円です。国庫に入る税収は22年度71兆円、25年度78兆円、26年度は80兆円でさらに82ー83兆円まで上振れするとの見通しです。首相のいう「税収の増加で赤字国債3兆円は代替できる」とはこのことを指しているのでしょう。

今起きているインフレの全てが「インフレ税」、「ステルス増税」とは言えません。インフレには「コストプッシュ型インフレ」(原油高、素材高などのコスト増を円安がさらに増幅する)と「デマンドプル型インフレ」(景気がよくなり需要が増え、価格を押し上げる)があります。単純化すれば、前者ならば「悪いインフレ」、後者ならば「いいインフレ」で、現在進行しているのは前者です。はっきり二分できるわけではなく、両者は混在します。

イラン戦争が停戦にたどりつけるかは予測不可能だし、停戦になったとしても原油不足、原油高は何か月、何年も続く見通しです。首相が「長引く中東情勢のリスクに備え」といったのはこのことです。

経済原則に逆行する金融財政政策ばかり

問題はそこから先です。原油が供給不足なら需要を抑制するのが経済原則の基本なのに、ガソリン価格、電気・ガス代の補助政策を行って需要を刺激する。「経済が大切です。今まで通り使って下さい」と首相はいう。首相のいう「経済」とは目先、短期的な経済動向にすぎない。

物価高は1㌦=160円まで進んだ円安で加速します。首相はこれまで「経済が大切だから利上げをしないでちょうだい」という姿勢をとったたため、日米金利差は縮小しなかった。やっと気が付き今月、日銀は利上げをする気配です。国際金融情勢より、目先の国内政治優先の高市流は間違いです。

円安ホクホク、インフレホクホクの誤算

とにかく政治的判断の誤りからくる物価高で国民は「インフレ税」を払い、暮らしが厳しくなっています。その「インフレ税」を大きな財源にして補正予算案を組む。国民にとっては、払った税金を補正予算を通じて国民にもどす。なぜこんなばかばかしいことをするのか。

経済原則を踏まえ、正しい財政金融政策をとっていれば、こんな回りくどい道を選ばずに済んでいたのです。「円安で外貨準備はホクホク」(円換算の保有額がみかけは膨張)発言は有名です。さらに首相は「インフレはホクホク」(税収が増える)と感じてきた。間違いでした。補正予算を組んで生活支援策に追い込まれたという無意味なことをやっているからです。


編集部より:この記事は中村仁氏のnote(2026年6月5日の記事)を転載させていただきました。オリジナルをお読みになりたい方は中村仁氏のnoteをご覧ください。

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