就労支援B型の「闇」を追ったら、精神科病床という本物の巨大な闇が現れた

東 徹

就労継続支援B型を巡る「公金チューチュー」批判が止まらない。確かに、事業者が多額の給付費を受け取り、障害者への工賃は月2万円台という構造を見ると福祉システムを使った闇搾取に見えてくる。だがこの構造を掘り下げると、B型よりはるかに巨大な闇に突き当たる。それが精神科病床だ。

結論を先に言えば、「公金チューチュー」に見えるものの正体は、地域で人を支えるコストがB型という見えやすい場所に集まった錯視にすぎない。本稿ではその実像を明らかにしていく。

B型が「公金チューチュー」に見える、そのからくり

SNSにこんな文句が流れている。「1日来てくれれば事業者には金が入る」「飲食店より参入しやすく、不況にも強い安定ビジネス」。就労継続支援B型事業所の開業コンサルやフランチャイズ本部が使う宣伝文句だ。

仕組みを整理しよう。B型事業所は、利用者が1日通所するごとに、国と自治体から「訓練等給付費」が支払われる。規模や加算によって異なるが、おおむね1人1日5,000〜7,000円程度だ。月20日通所してもらえば、1人あたり月10万〜14万円が事業者に入る。利用者の自己負担は低所得者でほぼゼロ。収入の大半は公費だ。

一方、利用者に支払われる工賃は、厚労省の令和6年度調査でも月平均2万4,141円にすぎない。時給に換算すれば数百円だ。この工賃は「生産活動の収益から支払う」ことになっているが、生産活動が形骸化していても給付費は止まらない。

実際、厚労省自身が2025年11月に公表したガイドラインで、生産活動と称した「eスポーツ」、卓球教室や麻雀教室の手伝い、植物の水やりを1日数回行うだけの活動、所定の場所に居ればよいといった活動を挙げ、「公費による就労支援の生産活動として適さない可能性がある」と明記した。

「1日来たら◯◯円」と高工賃を喧伝する勧誘や、「特段の知識がなくとも高収益」という開業誘導も、不適切だと釘を刺している。役所がここまで書くのだから、実態は推して知るべしだ。

要するに、「来さえすれば金になる」のである。だから「公金チューチュー」と呼ばれる。その批判は感情としては理解できる。

だが、「就労できる障害者を、儲かるから囲い込んでいる」という前提は、本当に成立しているだろうか。

B型の正体は「作業のあるデイケア」だ

実のところ、誤解の元凶は何かといえば、「就労継続支援B型」という名称である。「就労継続」という言葉が、就労訓練の場だという印象を与える。だが実態は大きく異なる。

B型は雇用契約を結ばない。最低賃金も適用されない。A型(雇用契約あり、最低賃金保証)とは根本から違う制度だ。利用者の多くは、精神疾患、知的障害、発達障害などを抱え、現状では一般就労が困難な人たちだ。

では何をする場か。社会参加の機会を作り、生活リズムを保ち、居場所を提供する。そして——これが最も重要な機能だが——入院を防ぐ。

もちろん、制度上は医療保険の精神科デイケアと、障害福祉サービスのB型は別物となっている。だが、精神障害者を地域で支え、生活リズムを保ち、入院を遠ざけるという社会的機能においては、両者は大きく重なる。

分かりやすいように名前を変えよう。要するにB型は「作業のある精神科デイケア」だ。「就労継続支援」などと名乗ってしまったから、その成果を就職率で測りたくなるが、実態はデイケアだと思えば、その成果を就職率で批判する人はいないだろう。B型を就職率で叩くのは、見当違いの非難なのである。

A型の失敗が、B型を膨らませた

なぜB型がここまで増えたのか。その重要な背景は、A型の失敗である。

就労継続支援A型は、障害者が雇用契約を結び、最低賃金を受け取る制度だ。「障害があっても、雇用として働ける場を作る」という理念は美しかった。だが一言で言えば、A型は、最低賃金では働けない人を、最低賃金で働けることにしようとした制度だった。

最低賃金に見合う生産性を安定して出せない利用者が多く、生産活動収益だけでは賃金を払えない。差額をどこから埋めたかというと給付費だ。本来は支援コストに充てるべき公費を、賃金の穴埋めに流用する構造が横行した。

2017年、厚労省は生産活動収益以外からの賃金支払いを原則禁止にした。すると経営が成り立たない事業所が続出し、倒産と大量解雇が相次いだ。そして、令和6年度の報酬改定で生産活動の赤字をより厳しく評価するようになると、その年の3月から7月までに全国で約329事業所が閉鎖し、約5,000人の障害者が解雇・退職に追い込まれた。

厚労省が令和7年6月の社会保障審議会資料でまとめたところでは、年度全体でハローワークが把握した解雇者は9,312人に上り、うち7,292人がA型利用者だった。A型解雇者のうちB型等への移行予定者は3,834人に上った。さらに、10人以上の解雇が発生したA型事業所の約9割は、生産活動収支が赤字だった。

つまりA型は、構造的な無理を抱えたまま、規制のたびに利用者を吐き出してきた。そして路頭に迷った人々の受け皿になったのが、B型ということだ。A型が「無理に就労扱いしようとした人」を、B型が「福祉として引き受け直した」という構図である。B型が膨らんだのは、怪しい業者が人を集めたからだけではない。制度の失敗が、人を押し流してきたことも大きい。

成功ラインは「一般就労」ではなく「入院しないこと」

ではB型や地域の障害福祉サービスの成果は、どう測るべきなのだろうか。

「一般就労に何人移行したか」で測るのは、欲張りすぎである。B型利用者の多くは、現在の状態では一般就労が困難な人々だ。そこに一般就労の尺度を当てれば、ほぼ全員が「失敗」に見えてしまうのは当然だ。

精神科医として現場を見てきた立場から言えば、目標はもっとシンプルなものだ。地域で暮らし続けられること。生活リズムが保てること。そして入院しないこと。これが達成できているなら、それは立派な成果と考えるべきである。デイケアでも、B型でも、地域活動支援センターでも、形は問わない、目的は同じなのだ。

「納税者に転換できたか」は、長期的に目指す方向としては正当だが、それのみを目的としてしまうと、本来必要な支援を間違える。まず地域で生きられること。それが精神科医療と障害福祉の共通の第一目標なのである。

「就労できる人の囲い込み」は主因ではない

「働ける障害者がB型に囲い込まれている」という批判を、もう少し具体的に検討してみよう。

国保連データによれば、B型の利用者は約39万人に上る。だが、そこから一般就労へ移る人は年間数千人規模にとどまる。この数字だけを見ても、大半の利用者が一般就労目前で足止めされているという批判は成立しない。

多くは、A型で破綻した人、就労移行やA型に乗る前の段階の人、あるいはそこから戻ってきた人々だ。もちろん、一般就労できる人をB型に囲い込んでいるなら、それは問題だ。しかしこの規模感を見る限り、それが主因だとは言えない。囲い込みは「量の問題」ではなく「インセンティブ設計の問題」であり、B型だけを悪玉にしても解決しない。

「公金チューチュー」はコストの錯視だ

B型に集まった人の多くは、B型がなければデイケア、在宅、生活保護、地域活動支援センター、あるいはときに入院——そのどこかにいた人たちだ。

どこにいても、地域で日中活動を支えるには公費がかかる。デイケアやB型のように、日中活動を一定の密度で支えれば、結局1人1日数千円単位の公費がかかる。「B型が公金を食いすぎている」と見えるのは、もともとかかっているコストが、B型という見えやすい制度に集まったことによる錯視だ。

本来問うべきは「なぜB型に金を出すのか」ではなく「入院させずに地域で維持するために、どこに、いくら、どんな成果に対して払うべきか」だ。前者は近視眼的な批判、後者は中長期的な制度設計、この二つの分別が公金使用適正化には必須である。

金も問題も、上流にある。下流だけ削っても解けない

では本当の問題はどこにあるのか。

厚労省の令和6年病院報告によれば、精神病床の入院者は約26万人、平均在院日数は255日と、一般病床の15日台とは桁が違う。同省の精神保健福祉資料では、1年以上入院している患者は16万人に及ぶ。日本はOECD加盟国の中でも精神病床数が突出して多く、平均在院日数も世界有数の長さだ。

なぜこうなってしまったのか。歴史を遡れば、精神科特例と呼ばれる配置基準の緩和で、民間病院が病床を増やし続け、「病床を埋めるほど収益が立つ」モデルが定着した。患者を退院させず抱え込むことが経営合理性になった。

かつて伝説的医師会長の武見太郎は精神病院経営者を牧畜業者と揶揄した。社会的入院とは、この収益構造が生んだ必然である。B型で批判されている「囲い込んで公金を得る」構造の、はるかに大規模な原型が精神科病院にあるわけだ。

B型に集まる人口は、この病床構造が生む退院圧力の受け皿にすぎない。下流の単価だけを削れば、収容の場所が病院から作業所へ移るだけではない。作業所からも弾かれ、在宅での孤立や再入院へと押し戻されることもありえる。社会的に比較的安価に支えていた制度を失えば、より高コストな病床へ逆流していく、ともなりかねない。

公金チューチュー批判として問うべきなのは、B型の単価だけではない。入院から地域支援・就労まで一本の連続体として貫く、公金を使って人を支える制度全体の報酬構造である。この収益システムをどう設計し直すか。それが根本問題なのだ。

ではどうすべきか。

(次回につづく)


編集部より:この記事は精神科医である東徹氏のnote 2025年6月6日の記事を転載させていただきました。オリジナル原稿をお読みになりたい方は東徹氏のnoteをご覧ください。

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